表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/46

異世界の新生活


『こちらをお渡しいたします』

「なんだ? これは?」

『スマートフォンです』

 

 スマートフォン。

 パソコンを縮めて、通話機能を搭載した機械。

 家族が常に連絡を取れるように、地球の人間やセンタータウンに住む者は誰でも持っているらしい。

 センタータウンの人間はこのスマホに居住者証明カードを挿すことで無料でしょうができるという。

 なんだか監視されているようで少し怖い。

 が、無料(タダ)には逆らえないな。

 生活にはお金が必要だから。

 

『まずはこのスマートフォンに慣れていただきつつ、Vtuberという文化に触れていただいて“識って”いただくのが一番早いかと。一週間ほどお時間を差し上げますので、スマートフォンに慣れてください。その間にこちらの物件に住んでみていただき、不便とお感じになりましたら引越しをご検討ください』

『一週間後、Vtuberとしての更なる知識と、事務所についてご説明いたします』

「それは助かる。この歳で新しいことを始めるのにはどうしても時間がかかるからね」

『質問がございましたら、サポート個体へ質問してくださればその都度ご説明いたします』

 

 ということでパソコンには『いつでもご利用ください』という許可と、スマートフォンをもらった。

 言われた通りに居住者証明カードを挿すと、スマートフォンは使えるようになる。

 こちらは小さなパソコンと言われていただけあり、色々とできることが多いようだ。

 アイコンの意味についても、使い方についても585さんたちが丁寧に教えてくれる。

 おかげで陽が落ちる頃には、私とオズワルドは機能のほとんどを理解することができた。

 なんと、便利なものなのだろうか。

 

『それと、僭越ながらオズワルドには年齢制限機能をかけさせていただいております』

『国で定められた未成年、青少年育成に有害なものは目に入らぬようにしてあります』

「そんなものがあるのか」

『地球には規制が多くございます。そのあたりのことも、スマートフォンを通して学んでいただけますと幸いです』

 

 学ぶことが……学ぶことが多い……!

 果たして一週間で、我々はVtuberのことをきちんと理解することができるのか――!?

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 一週間後、我々ブランドー家は――。

 

「ねえねえ、アネモネ! 『聖護戦姫』の最新話読んだ?」

「読みました! まさかあの王子があのような男らしいことを考えていたとは……最初は婚約破棄をして主人公のことをまったく理解していない阿呆なのかとばかり思っていたら……」

「そうよねぇー。『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』の王子はあっという間にお亡くなりになったのに。少しは見習った方がいいわよねぇ。わたくし、やはり『守護竜様の愛し子』の王子様が一番好きかもしれないわぁ。悪役令嬢を婚約破棄して追放したのはアネモネを思い出すからあまり好きではないのだけれど、そのあとの悪役令嬢のやり方は弁護のしようがないもの」

「ああ、恨みを持って邪竜の生贄になって街を破壊し尽くしましたからね。あれは仕方ない」

 

 私と母は完全にラノベ小説とマンガというものにどハマりしていた。

 そして父とオズワルド。

 

「うおおおお! ナイスホームラン! いいぞおおおお!」

「もー……お父様、近所迷惑になるので野球観戦をされるのなら防音室のパソコンでやってください」

 

 父は地球のスポーツ。

 中でも野球とサッカー、ゴルフにハマった。

 オズワルドはパソコンそのものに興味を持ったらしく、パソコンでどんなことができるのかを防音室にこもって1420改め“ジャニー”に教わっている。

 我々は数字では呼びにくいからと、球体たちにそれぞれ名前をつけることにした。

 父の個体はノエラ。

 母の個体はバロック。

 オズワルドの個体はジャニー。

 私の個体はシルバー。

 彼ら……ARN(エーアールエヌ)シリーズのものたちはサポートする相手に固有名詞――名前をつけてもらえることが一番嬉しいらしく、生活を支えてくれる彼らにお礼として我らは名前を与えたのだ。

 常に頭の近くに浮かび、翻訳やこの世界、地球のことを教えてくれる彼らに対するわずかばかりのお礼。

 それでも彼らは一個体として独立したことを意味する固有名詞を与えられたことを、誇りに思ってくれている。

 それがとても愛おしく感じて、最近は彼らを家族のように感じ初めていた。

 ちなみに母は家事炊事にも挑戦してみたい、と調理専用ドローンのレシピを見ながら食事作りをし始めるというご令嬢育ちとは思えないポジティブさを発揮。

 私は二階のジムで体を動かしつつ、久しぶりに剣に触れたりして心身の健康に努めている。

シルバー曰く『ストレス値がかなり下がりましたね』とのことだ。

 確かに自分でも身心が軽くなっている気がする。

 最初こそ変わってしまった生活に『ストレス値が若干上昇しましたね』と言われたけれど、ほどよい運動や家族との団欒の日々で上昇分も下がっていった。

 ただ、シルバー曰くそれでもまだ人よりも『ストレス値が高いです』らしいけれど。

 でも仕方ない。

 あんなことがあったのだから。

 しかし、さすがにだいぶ……落ち着いて受け入れられるようになったように思う。

 未だに魔海が異世界に通じていたというのは、信じ難いけれど。

 家族みんなで生きて安全な家に暮らして行けそうなことは本当に僥倖なことだと思う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ