新居
母が嬉しそうにオズワイドの担当となった球体を抱き締める。
この球体が近くにいれば、オズワルドの体調――魔力は整うのか。
それならばこの世界に残る意味もあるというもの。
オズワルドが元気になるのなら、私たちはこの世界で生きていってもいいと思う。
私の大事な弟。
誰よりも真っ先に、私を守ってくれた――。
ぐうううううう……。
「「「「………………」」」」
まあでもまずは……食事だな。
食べたことのあるメニューをなんとか見つけて、食事を済ませてカウンターのある場所に戻ると私たちの分の居住者証明カードも完成していた。
これで我々家族は全員この世界の居住者として認められた、ということだ。
腹も膨れたし、次に必要なのは家。
球体たちに聞けば四人家族向けの物件を紹介してくれるとのこと。
『Vtuberのお仕事をしていただくことで家賃補助がつきます』
「臨むところだな!」
『それでは、仕事場を兼ねた四人家族向けの物件にご案内します』
父は親指を立てて受け入れたのだが、私はだんだん不安になってきている。
このセンタータウンで推奨されるぶいちゅーばーという職業。
これほど優遇されるなんて危険な仕事なのでは?
本当に大丈夫な仕事なのだろうか?
不安が大きくなるのだが……。
『こちらです』
「おおおお!」
「思っていたより広いわね」
「不思議な部屋があります、姉様」
「掃除も行き届いているな?」
『家事ドローンが付属しておりますので』
案内されたのは隣のビルの五階。
エレベーターで五階のボタンを押すように言われて従った結果、扉が開いたらそこが家になっていた。
入ってすぐに玄関ホール。
左手にトイレ。
右手にガラス張りのリビング。
リビングからは広大な道路や他のビル群というのがよく見える。
リビングの隣はダイニング。
ダイニングは外からは見えないように壁があり、一家団欒が邪魔されないようになっている。
カウンターの前に四人掛けの椅子とテーブル。
キッチンは見たことのない素材で、奇怪なダイヤ型のなにかがある。
なに、あれ?
『キッチンにあるのは調理専用ドローンです。材料があれば、材料の内容に応じたレシピで調理を行います。レシピの内容は胸のモニターで指定も可能です』
「シェフ、ということかしら?」
『そう思っていただいて構いません。掃除専用のドローンも付属してございます』
『建物内をメンテナンスドローンが定期的に見回りを行っておりますので、乱雑な使い方をなさらなければ新たに購入していただかなくとも問題ありません』
「シェフや使用人の代わりに、あなたたちのような存在がいるの?」
『そういうことです』
思わず周りを見回してしまう。
確かに、円形の平らなものが床を移動している。
あれが掃除用のドローンというやつなのか?
『また、こちらのビル二階にはプール、ジム、公共用大浴場などがあり、二十四時間無料で使用ができます。部屋の名義はお一人に絞っていただき、家賃等もその方の口座から引き落としとなります』
「ふむ。賃貸、ということか」
『購入をご希望でしたら、家賃をリースローンの料金としていただくことも可能です』
「家賃の補助というのは」
『ローン補助としていただいても可能です。ご購入をご希望ですか?』
『数ヶ月は賃貸をおすすめいたします』
『スーパーなどが遠いので、もしかしたら別の賃貸を希望されたくなる可能性もありますので』
『Vtuberをやってみて難しそうであれば、別の職種に就いていただく可能性もございます。また、オズワルドには学校に通っていただいた方がよろしいかと。学校の近い賃貸に変更も可能なように、賃貸にしておくのも手かと』
「ふむ、なるほど。確かにそうだな」
オズワルドの……学校、か。
たしかにこの子は幼年学校に通えないほど体が弱かった。
しかしこの世界の環境ならば、オズワルドは学校に通えるのかも。
それなら、その方がいい。
友人というのは早いうちに得られたらそれに越したことはない。
「しかし、まずはそのVtuberという仕事について改めて聞かせてもらおう。そのためにこの“家”に案内してくれたのだろう?」
『了解しました。それではこちらの防音室においでください』
全員でこくり、と頷きあう。
いよいよ謎の多いVtuberとやらについて教えてもらえる。
『Vtuberとはバーチャルワイチューバーの略。こちらのPCモニターを通し、異世界“地球”に住む“リスナー”という視聴者に向けてご自身をコンテンツとして配信をしていただく仕事でございます』
『主にプライベートの切り売りのようなことをしていただきますが、リスナーのコメントを見て受け答えなどをしていただいたり、歌を歌っていただいたり、ゲームをして実況をつけていただいたりが一般的な活動内容となります』
『異世界から来た方々には難しいかと思いますので、こちらのPCでまずはVtuberというものを検索するところから始めてみましょう』
ぱそこん、というモニター……本体は机の下の箱らしい。
父が代表で椅子に座り、そのぱそこんというのを起動させる。
モニターというのが光り、球体たちの指導のもと父が操作を続けていく。
ワイチューブ、というのはアイコンというのから開くもので、動画が見られるもの。
なんだかドバッと色々な情報が並ぶ。




