居住者登録
「では次はわたくしがその居住者登録というのをしてみたいわ。いいかしら?」
『ではこちらへどうぞ』
次は母がカウンターに立つ。
頭上に614さんが浮かぶと、母も文字の読み書きができるようになったという。
異世界の言語が理解できるようになるなんて、やはりすごいな。
父の様子を見ていた母もサクサクと証明カードの発行までこぎつけた。
次は――。
「私も」
『ではこちらへどうぞ』
母の立っていた場所に、私も進んで立つ。
585さんが頭上に来ると、文字が読めるようになった。
すごい、こんな感じなんだ。
カウンターにあるペンのようなもので記入を行うと、585さんが確認のために読み上げが始まる。
『確認いたしました。固有名詞アネモネ・ブランドー。魔力適性は中。魔力量は38。属性は水、無。年齢18歳、身長161センチ、体重62キロ。健康状態は良好。精神状態、やや興奮、緊張気味、過度なストレスを感じている状態のようです。できるだけ早急にリラックスできる環境に移ることをおすすめいたします。Vtuber適性、84点。移住をご希望ですか?』
「……はい」
『了解いたしました。ご本人との合意を確認。センタータウン居住者証明カードを発行いたします。指紋、角膜の登録に移行いたします。こちらへどうぞ』
両親と同じく近くの円の方へ誘導されて、指紋と角膜というのを登録してもらう。
カードの登録待ち、ということで両親のいるソファーへ移動する。
次はオズワイドだ。
あの子はしっかりものだから大丈夫……と思っていたらカウンターが高そう。
体が弱い子だから、同年代の子より一回り小さいのだ。
抱えてやろう、としたらオズワイドが立っているところが立ち台のようになって伸びる。
そ、そんな機能まで……!
『アネモネ、あなたはストレス値が非常に高い状態です。早急にリラックスできる環境に移ることをおすすめします。推奨されるリラックス環境は食事を摂る、運動をする、一人になる、家族との談笑などがありますが、ご希望はありますか?』
「あ……ええと……そ、そうだな……家族と食事ができたらいい、と思っているのだが、可能だろうか? その、弟も一緒に」
『了解いたしました。こちらのフロアにレストランがありますので、予約を入れておきます。アネモネの世界のお食事と同じものをお出しすることは難しいかと思いますので、予めご了承ください』
「それは仕方ないと思う。ありがとう」
それよりも、気になることが一つ。
私たちの時に585さんたちは健康状態も話していた。
実はオズワイドは幼い頃から虚弱体質で寝込むことが多い。
何人もの医師に診ていただいたが、「体質としか」という診断ばかり。
なにか明確な病名などがあり、この世界でなら治療法があったり……しないだろうか?
両親も同じことを考えていたらしく、顔を見合わせてから心配そうにオズワイドを見ている。
『確認いたしました。固有名詞オズワイド・ブランドー。魔力適性は中。魔力量は93。属性は土、水、火、風、雷、氷。年齢9歳、身長112センチ、体重27キロ。健康状態は慢性的魔力不足。精神状態、やや緊張気味。Vtuber適性、71点。移住をご希望ですか?』
「はい。えっと……魔力、不足……なんですか? ぼく」
『はい。魔力容量に比べて現在体内に内包されている魔力量が著しく不足している状態です』
「「「魔力が不足……」」」
思わず家族全員で呟いてしまった。
オズワイドの体質の正体が、魔力不足……?
「あ、あの、おかしくないだろうか? 魔力というのは自然魔力を取り込み、勝手に回復するものではないのか?」
我々の常識では魔力とは睡眠中に空気中の自然魔力を取り込んで、勝手に回復するもの。
しかし、オズワイドの魔力は回復できていないということなのか?
私が小さく挙手して聞いたことに対する、585さんの返答は以下。
『そちらの異世界の理がどのようなものかは不明ですので、あくまでも憶測となりますが――雷と氷の属性自然魔力が周辺になく、完全な回復に至らないことが慢性的にあったため成長にも健康状態にも著しく影響を及ぼしたのではないでしょうか?』
「属性自然魔力? ううむ……我々の時もなにやら言っていたな? 我々の世界にはそんな概念はなかったはずだ。魔力は回復したら、魔法陣に属性を付与して魔法として放つ。そんな原理であったはずだ」
『なるほど。それでしたら魔力回復回路に異常があるか、体質的に魔力回復が遅いのかもしれません。魔力を日常的に使うことがなければどんなに遅くともいずれ回復するとは思いますが、ここでは精密検査ができません。専門家に診てもらうことをおすすめいたします』
なるほど、そんなこともあり得るのか。
魔力不足。
今まで我が家に招いてオズワイドを診察した医師たちは肉体の方ばかりで魔力に関する検査はしたことがなかった。
そうか、その可能性もあったのか。
母がソファーから立ち上がり、オズワルドを抱き締める。
「よかった。ここに来てよかったわ。あなたの虚弱について原因がわかったのだもの。その、お医者様が専門でいらっしゃるのね? その方に診ていただければ、この子は健康になれるのかしら?」
『あくまでもこちらで判断できる範囲になります。専門家に診断を受けた結果までは、保証しかねます。予めご了承ください』
「ええ、もちろん。その時は諦めもつくわ。でもずっとわからなかったの。希望が見えただけでもありがたいわ。ぜひその専門のお医者様に診ていただきたいわね。紹介はしてもらえないのかしら?」
『居住者証明カードが発行されましたら、センタータウン内の医療を受診することが可能となります。しかし、診察料、医療費は別途必要となります。それらは仕事で稼いでいただかねばなりません』