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家族のために前を歩く父


 両親の好奇心が止まらなくなっている。

 確かに異様な光景だ。

 荒唐無稽と思っていた“異世界”という言葉が、だんだん胸に染みるように現実味を帯びてくる。

 間違いなく、ここは私たちが生まれ育ったアルクレイド王国ではない。

 青く舗装された道。

 速い車が規律よく駆け抜ける。

 青空を隠してしまうような高い建物が建ち並び、ずっと眺めていたら目がチカチカしてきそう。

 大きな道を走り続けて、ひときわ大きな建物に入る。


「ここは?」

『センタータワー、エアーフリートです。[異界の門]や[バーチャルゲート]がある、センタータウンの要の建物。こちらで揃わないものはございません。到着いたしました』


 自動車の扉が開く。

 ここが目的地ならば、と降りてみる。

 ここはどこなのだろう?


『ここは地下駐車場です。あちらのエレベーターより、建物内へ移動ができます。こちらへどうぞ』


 ふわふわと浮く三つの球体について、えれべーたーという乗り物に乗る。

 楕円形の天井に、ガラス張りの筒の中を上へと動き始めた。


「すごい……」


 音もなく、地面が上へと動いていく。

 実に不可思議な感覚。

 ああ、異世界だ。

 これは認めざるを得ない。

 ここは異世界。

 私たちのいた世界とは、まったく違う世界だ。


『こちらがセンタータワー三階。受付フロアとなっております』

『センタータウンで生活する方は、まずこちらで生活申請をしてください』

『居住者証明カードが配布され、そちらで生活基盤を整えていただくことになります。こちらへどうぞ。言語が解読不能な場合、我々が翻訳いたしますので頭上を少々失礼いたします』


 家族四人、顔を見合わせる。

 それからやはり、好奇心が抑えられない父が前へ出て球体たちの促す青いカウンターへと近づく。

 父の頭上に614さんが浮かぶと、父が驚愕の声をあげる。


「なんと! 読める!」

「え? なにが読めるのですか?」

「カウンターになにやら文字が書いてあるのだが、読めなかったのだ。それが急に読めるようになった」

「なっ……どうやって?」

『我々は魔術も組み込まれております。この世界には魔力基礎も存在しますので、魔法、魔術を用いる世界の方々にも不便なく生活いただけるかと存じます』

「なんと、魔法が使えるのかい?」

『はい。しかし、この世界の魔術、魔法の(ことわり)に適応できるかどうかは不明です。試したいとご希望の場合はトレーニングルームにご案内しますので、後ほどお申しつけください』


 そんなことまでできるのか。

 オズワイドが「身体強化魔法なら、使えるかどうかわかるのではないですか?」と口にすると、すぐに859さんが『皆様の世界との(ことわり)が異なる場合もありますので、身体強化であっても危険があるかもしれません。すぐに治療可能なトレーニングルームでの試行をおすすめいたします』らしい。

 な、なるほど。

 魔法を使う魔力量がこの世界と我々がいた世界では異なるから、迂闊に使って危険なことになるかもしれない、ということなのだと思う。

 オズワイドにそれを言い含めるように説明すると、さすがに恐ろしさを自覚したのか顔を青くした。


「これでいいのか?」

『確認いたしました。固有名詞オーズレイ・ブランドー。魔力適性は中。魔力量は32。属性は風、無。年齢42歳、身長184センチ、体重82キロ。健康状態はやや肝臓に疲労あり。お酒を控えることをおすすめいたします』

「………………」


 父、スッと視線を落とす。

 ああ、毎日ワインをひと瓶空けられているから……。

 というか、カウンターの前に立っていただけなのにそんなことまでわかるの?


『精神状態、やや興奮、緊張気味。Vtuber適性、67点。移住をご希望ですか?』

「……そうだな。故郷には戻るつもりはない。それで、そのぶいちゅーばーというのは私にもできるのかな?」

『イケおじ系Vtuberは一定層に需要があります』

「イケおじ……?」


 イケおじ……?

 この世界特有の単語?

 な、なに? それ?


「つまり私でもできる仕事、ということか?」

『はい。もちろんです。ご希望されますか?』

「家族を養うためにも仕事はしたい」

『了解いたしました。ご本人との合意を確認。センタータウン居住者証明カードを発行いたします。指紋、角膜の登録に移行いたします。こちらへどうぞ』


 父が促されるままカウンター横の床に円が描いてある場所へと移動する。

 その円の中に立つと、光の輪が発生してくるくると回りながら父の体全体を通ってきてしまう。

 今のでなにかがわかるのか?


『確認登録完了しました。居住者証明カードの発行には三十分ほどのお時間をいただきます。あちらのソファーでお待ちください』

『お飲み物、軽食をご希望でしたらこちらの自販機をご利用ください』

「お! なんと! 飲み物と食べ物をもらえるのか?」

『こちらの自販機はまだセンタータウンの通貨をお持ちではない移住希望者の方向けですので、無料でご利用いただけます』


 昨日のお昼からなにも食べていないことに気がついた体は、急に喉の渇きと空腹を訴えてきた。

 あの四角い大きな箱の中に、飲み物や食べ物が?




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