カラオケオフコラボ(5)
「でも仕事のすれ違いは本当今まさにそれが悩みなのよね……。怖い。当たってる。怖い……」
「三ヶ月くらいデート行ってないんですね」
「怖い怖い怖いなんでわかるの!? 本当に怖いんだけど!?」
「ふふん、わたしが正真正銘の魔女ということがやっとわかりました? なんでもお見通しなんですよ。なんなら目の前に鑑定対象がいるのですから、いつもよりなんでもわかります」
「こわーい!」
確かになんでも当てられて怖いと感じるかも。
ナターシャさん自身はとても楽しそうにニコニコ……いや、ニヨニヨしてらっしゃる。
おやつをもぐもぐ、お茶や水を飲んで喉を潤す。
なんだか配信中なのを忘れそう。
「アネモネさんはまだお酒を飲めないっておっしゃってましたけれど、今何歳なんですか?」
「私、今十九歳です」
「じゃあ私の一つ年下なんですね……!」
「甘梨さんは二十歳なんですか」
「はい。永遠の二十歳です」
ああ、歳を取らないタイプのVtuberか。
現実でお会いしていると仕方ないが、Vtuberの“ガワ”は歳を取らないタイプの人もいる。
確かにわざわざ立ち絵やライブ2Dを老けさせていくのは経済的ではないし。
私も二十歳になったら歳を取るのをやめるか。
ちょっと言葉だけだとなにを言っているよかよくわからないけれど。
「じゃあ来年アネモネが二十歳になったら飲酒配信やります?」
「飲酒配信!? そ、そんなことも許されるのですか!?」
「まあ、言っちゃダメなことを言うような酔い方をするようならこちらで配信を止めるなり、心配なようなら動画撮影で編集してから投稿すればいいですし。個人的にピーーー音まみれの動画投稿とかとても見たいですね」
「ピ、ピー音まみれの動画って……だいぶダメなのでは……!?」
ナターシャさんはお煎餅を咥えながらニコニコ。
飲酒配信、そりゃあ私も興味はあるけれど……言い方が怖い……!
「じゃあこの五人でまた、集まってアネモネちゃんが二十歳になったらお祝いの誕生日パーティーしちゃう? 茉莉花お姉さんがケーキを焼いてきちゃうわよ」
「え! 茉莉花さんはパティシエなのですか……!?」
「やぁねぇ、ケーキくらい焼けるわよ〜」
「すごいですわ。わたくし、なにかを焼く時にいつも人間の焼ける匂いを思い出してしまって……」
「やめなさい、オリヴィア。あなたのそのネタ、たまに本気で笑えませんよ」
「え? 今のダメですか? 難しいです」
オリヴィア先輩の『戦場の聖女』ギャグ。
たまに本当にガチで笑えないやつがぶっ込まれる。
今日のは全然笑えない。
茉莉花さんと甘梨さんの表情が固まり、反応に本気で困っている。
そりゃあそうだろう。
私も反応に困った。
先輩のリスナーさんはこの笑えないギャグをどのように捌いているのだろう?
「でも誕生日パーティーはいいんじゃないんです?」
「は、はい。開いていただけたら光栄です」
そしてこの微妙な空気を断ち切るナターシャさん。
さすがだ……とても助かった。
それに誕生日パーティーだなんて。
「その、多分当日は家族に祝ってもらうと思うので、日時はずらしていただくことになるかもしれないのですが」
「それはもちろん」
「家族優先でいいと思います」
「あ、ありがとうございます。でも私、元婚約者らしき生き物のせいで友人もろくに作れなかったので、同年代の同性に誕生日を祝ってもらえるの初めてで……どうしよう、今からすごく楽しみ」
「「「「は――」」」」
先輩たちばかりなので、恐縮してしまうけれど……特に甘梨さんとは一つ違いのようだから、女性の友人になってもらえたらすっごく嬉しいな。
ナターシャさんが主催してくれたカラオケ企画なのだから――あ、そろそろまた歌を再開した方がいいだろうか?
コメント欄を見ると……あれ? コメント欄も様子がおかしいな?
『友達、いない?』『アネモネ?』『ぼ、ぼっち?』『おいやめろ』『うっ、こっちにもダメージが』『お、おれたち友達だよ』『俺らがいるじゃん』『悲しいこと言うなよ』とか、なんか私慰められていないか?
なんで?
「あ、アネモネさん」
「はい」
「ま、また今度……あの、一緒にゲームで、遊びましょう、ねっ!」
「いいんですか!?」
ちょうど年の近い甘梨さんと仲良くしたい、と思っていたので嬉しい。
甘梨さんが得意なゲームを教えてもらって、いつか友人になれたらいいな。
「それなら二次会はホラーゲームやりませんか?」
「「「え?」」」
「やはりこういうのは恐怖という感覚を共有した方が盛り上がると思うのです」
「わたしはホラー耐性高いので別にいいですけれど」
「最近リリースされた海中神殿を最大七人で探索するホラーゲーム、やってみたかったんですよね~」
「殺しますよ」
「「「!?」」」
なんで!? 聞いた限り普通に面白そうなのに!?
「ナターシャ様が魚の目玉が苦手っていう噂は本当だったんですね~」
「はあ? 別に苦手じゃありませんけど? 普通に気持ち悪いって思っているだけです」
「美味しいじゃないですか、お魚さん」
「そうですね」
いきなりビリビリした空気になった。
オリヴィア先輩、なぜナターシャさんに喧嘩を売るようなことを……!?
と、思ったけれどオリヴィア先輩は普通にニヨニヨ。
ああ、これは完全無欠なナターシャさんの弱みを見つけて喜んでいる顔!
よりにもよってコメント欄も『そうなの!?』『初めて知った!』『ナターシャ様苦手なものあったんだ!?』と盛り上がってきている。
……ナターシャさん、リスナーに様づけで呼ばせているの……?