カラオケオフコラボ(3)
思わず大きな声が出てしまった。
かくいう私もデビューしてから数回、人気の単発ホラーゲームをプレイして実況したことがある。
まーーーー……怖かった。
できることならやりたくない。
「え……こ、怖くないのですか?」
「怖いですけど、ホラーゲームを自分でできない、というリスナーさんにはやってほしい、っていうお声をたくさんいただくんですよね。あと、なんか私の悲鳴を聞きたい人が一定数いるらしくて」
「ええ……なんですかその変な人……そんな人いるんですか?」
「あー、そういう方、一定数いますわよね。わたくしのリスナーさんは『怖いから他人のプレイ動画を見たい』という方がほとんどですわ」
「あ……ああ、オリヴィア先輩、全然怖がりませんもんね……」
さすがは『戦場の聖女』なので、ホラーゲームをまったく怖がらないのだ、オリヴィア先輩は。
ホラー耐性というのか?
それがなんだか、限界突破でもしているのではというぐるいに怖がらない。
二期生は皆さんホラー耐性が高く、逆に一期生がすごく怖がり。
そして私より前にデビューした三期生もホラー耐性が高め。
全員悪霊や悪魔と戦ってきたらしく、そういうものに対する対処方法を心得ているのだ。
……ただ一人、我々と同じ悪役令嬢の千頭山真宵先輩は他の二人より若干ビビりというか。
突然出てくるタイプのホラーゲームには「びっくりするの嫌なのにー!」と叫び追いかけてくる系のホラーゲームに「パニクるから追ってくるなよ〜!」と泣く。
二期生のホラゲを見たあと一期生と千頭山先輩のホラゲ見ると大変落ち着く。
そうですよね、普通はこういう反応ですよね。
そんなふうに安心してしまうのだ。
「FPSも嗜まれますのね」
「はい。あんまり上手くはないんですけれど」
「いえいえ、できるだけでもすごいと思いますわ。わたくし、FPSはすぐに酔ってしまいますのよね」
「私も。なんというか、銃を撃つ感じがイマイチというか。剣で距離を詰めて戦う方が性に合っているので」
「ん? …………まあ、でも酔うのは酔い止めを飲むと結構大丈夫ですよ」
「酔い止めってゲームにも効果がありますの?」
「へえ、初めて知りました」
酔い止めの存在は知っていた。
地球に来た時にシルバーはあまり目立つから鞄に入っていたのだが、バスや電車に酔ってしまわないようにと薬局で酔い止めを買うように小声で指示してくれたのだ。
そういう乗り物に乗る時に“酔う”というのが理解できなかったのだが、FPSをした時のあの気持ち悪くなる感じか。
アレが“酔う”というやつなのか。
「酔うというのはお酒だけなのかと思っていました。お酒を飲んだことがないので、知らなかったです」
「お、なんです? 喧嘩売られてます?」
「おほほほほ。もー、アネモネさん、ダメですよ〜お酒飲めない年齢マウントに聞こえますよ〜」
「え、ええ……!? す、すみません!?」
地球ではお酒解禁の年齢が二十歳からだと聞いた。
私は今十九歳。
お酒解禁は来年から。
それがマウント聞こえてしまうなんて思わなかった。
配信、難しい。
「オリヴィアちゃんとアネモネちゃんはFPSやったことあるの?」
「ええ、ありますわ。わたくしの同期の王子がFPS王子なのです。ランクが高くてびっくりいたしますわよ」
「フィルネルク先輩ですよね。確かほとんどのFPSのランクが上から数えた方が早いって聞きました」
「そうですわ。一番高いランクが上から二番目、とか」
「えー! すごいです! 私の最高ランク、上から四番目です。それより上に行ける人はなんかもう、才能ですよ! 努力とかしても、どう頑張っても無理っていうか」
「へー、そうなんですね」
フィルネルク先輩ってやっぱりすごいんだ。
私もFPSはやったことがあるけれど、ぐったりしてしまうからなー。
「アネモネちゃんは普段はどんなゲームの配信をしているの?」
話を振ってくれたのは茉莉花さん。
さすがお姉さん。
私のことまで配慮してくれる。
「私はどんなゲームが得意なのかよくわからないので、リスナーさんのおすすめをとにかくなんでもやってみる、というチャレンジをしています。でも、一人でやるゲームって結構こう、色々、作業ゲームみたいなのやホラーゲームが多いんですよね」
「育成ゲームとかよくない?」
「はい。そういうのも好きです! 牧場を運営するやつとか」
「最新作面白いわよね! わたしもゲームする時はそういうのはほんとしたゲームをやるわ。あ、協力で遊べる牧場ゲームがあるの知っている? みんなで遊んでみない?」
「え? 牧場ゲームなのに、複数人で一緒に遊べるんですか?」
「あるのよ! 結構色々あるの!」
へー、牧場経営のようなゆるふわ作業ゲームも人と一緒にやることができるものもあるのか。
茉莉花さんはラジオ番組のような配信の他、香りにまつわる配信をしている。
香りにまつわる配信というのは、手作り香水や自分オリジナル香水をどこで作るかなどのお店の紹介、香水を売っているお店の紹介など、らしい。
めちゃくちゃオシャレ。
そしてゲーム系だとそういうほのぼの系をプレイするそうな。
でも、なんかすごく茉莉花さんっぽい。
「そういうゲームって視聴率低いですよね」
「も、もう……ナターシャちゃんったらまた身も蓋もないことを……。確かにうちの事務所もあんまり大きいわけじゃないから、視聴率の話をしたらあんまり見てくれるリスナーさんは多くないけれど……でも楽しいのよ! そういうゲームの楽しさを、広めたいのー!」
「はいはい」




