カラオケオフコラボ(2)
茉莉花さんと甘梨さんには不思議そうな顔をされたが、私とオリヴィア先輩は正真正銘の異世界人。
そのことを信じている人は少ない。
知っている人はいるけれど。
そんな感じだ。
地球で生まれ育ったVtuberさんからすれば、我々は“キャラRPを守っている人”なんだろう。
そしてそれがいぶこーが求めている人材。
我々は設定を守ってRPしている人なので、そう思ってもらっていいと思っている。
「では、聞いてくださいね」
最近ようやく覚えてきた“学生アイドル”の歌をオリヴィア先輩と歌う。
歌ってみて思うのだが、めちゃくちゃ難しくないか!?
これが学生アイドルが歌うの!?
学生アイドルってプロじゃないらしいのに!?
キーが、キーが低い!
難しいけど歌ってて楽しい。
歌って楽しいんだよなぁ!
歌い終わってからコメント欄をチラリと見ると、『星光騎士団の新曲!』『いいよねこれ好き』『好き曲』『星光騎士団好き!』とのこと。
リスナーさんにも人気なアイドルグループなんだな。
「甘梨さんはわたしと歌います?」
「え、あ、え、あ……っ」
「一人で歌います?」
「ひ、ひ、ひ……一人はぁ……っ」
そして私とオリヴィア先輩が歌ったことで甘梨さんが追い詰められることになってしまった。
ナターシャさんと歌うというハードルの高さが異常。
とはいえナターシャさんのあとに歌うのもハードルが高い。
みんなナターシャさんよりあとに歌うのは……ということで先に歌っていたわけで。
「あら、じゃあ甘梨ちゃんはお姉さんと歌う?」
「本当!? 茉莉花お姉ちゃん!」
にっこり微笑む茉莉花さんにしがみつく甘梨さん。
あまりにも完璧に姉妹っぽくて、リスナーのコメントが『あまりにもお姉さん』『さすまつ』『茉莉花姐御』『姐さん』『草』『あまりんあまりにも妹』『あまりんかわいい』『かわいい』がずらり。
これが妹力……。
確かにかわいい。
「「〜〜〜♪」」
そもそも事前に歌う曲は決めてある。
進行がスムーズになるよう、スタジオに申請を出してスタッフさんたちがセトリ通りに曲を流せるようにしてあるのだ。
なので、比較的この流れは想定通り。
それなのにナターシャさんがあまりにもガチうますぎて、割と本気でナターシャさんのあとに歌うのはつらい。
茉莉花さんと甘梨さんが歌ったあと、ようやく枠主のナターシャさんが歌う番。
「〜〜〜♪」
「あはは」
茉莉花さんがつい笑ってしまう。
そりゃあそうだ。
最初の一節、いや、最初の一言目からもう、声の出し方からして別格。
なんだこの人。
笑っちゃうくらい歌が上手い。
人間ってこんなに歌が上手く歌えるものなのか。
「……次誰か……なんで完全にマイク置いてるんですが、全員」
「いやー、やっぱりナターシャちゃん上手すぎぃ。もうここから全部ナターシャちゃんが歌ってくれてもいいのよ」
「はい〜! 本当にずっと聴いていたいです〜」
「カラオケ企画の意味がないでしょう? あなたたち全員二度とコラボに誘いませんね」
「「や、やだ〜〜〜」」
オリヴィア先輩と茉莉花さんが声を重ねて半笑いになる。
でも気持ちはわかる。
ナターシャさんの歌、本当に永遠に聴けるんだもの。
ナターシャさんの歌を一度聴いたら、歌みたをエンドレスで聴いちゃう。
なんなら再生リストをお気に入りに登録しちゃう。
リスナーさんだって『わかる』『ナターシャガチ歌の女神』『ミューズ』『ディーヴァ』『歌唱の暴力』『ガチ歌うま』『他の人の歌も聴きたーい』『みんなの歌聴きたい』と流れていく。
あれ? 私たちも?
私たちの歌も聴きたい人がいる、だと……!?
「まあまあ。デュエットもいいですが三人で歌ったっていいのでは? 四人とか」
「知ってる曲が我々少ないですから……」
「ああ、そう言ってましたね。なら私とりゅうせいぐん☆お二人と三人でなにか歌います?」
「あ、それならこの曲歌いたいなー」
茉莉花さんが提示した曲が流れ始める。
甘梨さんもおどおどしながらマイクを握った。
三人のアンサンブルはとても綺麗で、ナターシャさんがハモリを歌うので歌声に深みが出て耳が幸せ。
「うまーい!」
「素敵でしたー」
オリヴィア先輩と拍手。
実際本当にとても素晴らしい歌声だったと思う。
リスナーさんもなぜかフランスパンの絵文字を連打している。
これはアレらしい。
ペンライト的な……ちょっと名前が難しいけれど、なんかアイドルのライブの時に使うそうな。
フランスパンと形が似ているから、メンバー特典にペンライトがない場合フランスパンを振るという意味でコメント欄にフランスパンが舞う。
なんというか、独特な文化だ。
ナターシャさんのメンバー特典にペンライト、あってもいいように思うけれど。
なんか応援される中歌うのが気に食わないと語っていた。
色々……難しい感性のお人である。
「一巡しましたし、少し交流を深めてはどうです? りゅうせいぐん☆の二人といぶこーの二人はわたししか繋がりがないので、これを機に仲良くなればいいのでは?」
「な、仲良くしていただけるのでしょうか」
「あら、ぜひぜひだわ! お二人ともわたしの『茉莉花ラジオ』にゲストに来てください〜」
「まあ、わたくしラジオというの初めてですわ。お招きいただけますの?」
「もちろん! アネモネさんも」
「私もいいのですか!? 私もらじおは経験がないのですが……というか、らじおがどんなものなのか知らないのです。こちらの世界のことは、まだまだ勉強不足でして……」
らじお……聞いたことはあるのだがどんなものなのかまったくわからない。
今度調べてみよう。
ワイチューブにもあるのだろうか?
私の発言は余程奇妙だったのか、甘梨さんがポカーンとしている。
まずい、少し話題を変えた方がいいかもしれない。
「甘梨さんはゲーム実況を主な配信としているのですよね? どんなゲームをしておられるのですか?」
「あ……わ、私はいつも、FPSとか、してます。あと、ホラーとか」
「ホ、ホラーを!?」