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青いアネモネの花言葉


「じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい!」

「ちゃんと見守っているからな」

「いや、見なくていいです。というか、父様、母様、姉様も初配信準備してください」


 ど正論……。

 両親と顔を見合わせてから、各々の配信部屋に引っ込む。

 三つあるモニターの一つをオズワイドの配信待機画面にして、自分の初配信の準備も万全の状態にする。

 間もなく時間だ。

 オズワルドの初配信が始まる。

 先輩たちも宣伝してくれて、弱小ながらリツイートもたくさんしてもらった。

 公式も色々な媒体で宣伝も打ち出してくれたし、案件配信も何件か持ってきてくれた。

 ここまでしてくれたのだから、我々が頑張るのみ!

 そうして始まったオズワルドの初配信。

 淡々としたスムーズな配信にびっくりしてしまう。

 な、なんて冷静なんだ……!

 先輩たちが噛み噛みだった初配信しか見てこなかったから余計にオズワルドの配信は、視聴者数――二十四人!

 うっ……す、少ない!

 いくら弱小事務所の新人初配信とはいえこんなに少ないのか!?

 多分先輩たちや他の事務所の先輩――ナターシャさんとか――も見ているとは思うが二桁……!

 開始十分をすぎるとようやく視聴者数が五十一人になってきたけれど。

 それでもそんなに多いと感じられない。

 贅沢なのか?

 これが普通なのか?

 うちのオズワイドはもっと多くの人に見てもらい、可愛いと言ってもらうべき子だと思うのだけれどーーー!?


『それでは、以上がオズワルド・ブランドーの初配信とさせていただきます。えー、明日の夜にまたタグの方募集させていただき、決めていく配信をしたいと思います。次は姉のアネモネ・ブランドーの初配信です。リレーはまだ続きますので、どうぞよろしくお願いします』


 ぺこり、とライブ2Dでお辞儀する。

 ライブ2Dすごい。

 こんなにぬるぬる動くのか。

 私のライブ2Dもオズワルドと同じところで作ってもらったらしいので、このくらい動くのかな。

 というか、ライブ2Dって本当にこんなに動いて、配信画面に乗るんだなぁ。

 なんか……感動。


『アネモネ、初配信まであと三十秒ですよ』

「そうだった!」


 初配信の準備は完璧。

 待機画面、完了。

 ワイチューブ、OBSの配信開始ボタン、オン!

 一呼吸。

 ええと、BGMはオーケー。

 マイクのミュートも確認。

 待機画面とオリジナル待機画面用BGMも用意してもらって、改めて手厚いな、と思う。

 そう思いながら心臓バクバクのままマイクのミュートをオフ!

 待機画面を下げて……自分のライブ2Dを表示。


「初めまして! アネモネ・ブランドーです! あ、えーと、まずは……音声大丈夫でしょうか? うるさくないですか?」


 まずは音量を調整。

 リスナーさんはオズワルドのところから来た人の他に、私のところに最初からいてくれた人もいる。

 オズワルドが集めてくれた五十人がそのまま私のところにも来てくれたからか、六十二人もいた。

 う、嬉しい。

 しかし、コメント欄に書き込んでくれる人はそのほんの一部。

 事前に『デビューおめでとうございます!』というコメントの他に、やっと『大丈夫』『音平気』『調整感謝』などのコメントが増えた。


「わ、わあ……! コメントありがとうございます! 嬉しい!」


 本当にリスナーさんが私の呼びかけに反応してくれた。

 純粋に嬉しくて、そのまま声に出てしまう。

 だってこの人たちは、私の言葉を聞いてくれる。

 私の言葉が届いているんだ。

 それがどんなにすごいことなのか――。


「音量大丈夫ですか? よかったです。それでは改めてまして、自己紹介させていただきますね。私の名前はアネモネ・ブランドーといいます。みなさんとは違う世界で、騎士を務めていました。とある国の王子様の護衛をしたり、普通の貴族の学生として生活したりしていました。ですが、ある時護衛対象の王子様が毒を盛られ、その犯人に……私は仕立て上げられて一族諸共国外追放されたのです」


 自分がVtuberになることになった経緯を、イラストレーターさんが描いてくれた画像を使いながら説明する。

 漫画形式で描いていただけたので、リスナーさんにはわかりやすいのではないだろうか。

 あの時のこと、ほんの八ヶ月前なのに昨日のことのように思い起こされる。

 つらかった。

 誰も私の話を聞いてくれなかった、あの時。


「誰も私の声を聞いてくれなかった。誰も私を信じてくれなかった。とてもつらかったです。しかも、家族まで巻き込んでしまって」


 彼らにとって私は悪役令嬢。

 婚約者には婚約破棄をされ、裏切り者、反逆者と罵られ、毒を盛った犯人の一人には『追放されたくなければ結婚しろ』と迫られて。

 でもなによりも、私の言葉を誰も聞き入れてくれなかったのが一番苦しかった。

「はかない恋」「恋の苦しみ」「見放された」「見捨てられた」。

 私の名前はそんな花言葉の花だから、私の身に降りかかるのはそんな出来事ばかりなのではないかと思う。


「両親のことは尊敬しているし、大好きなのだが……私は自分の名前が嫌いなんだ」


 そう告げると、リスナーさんの少し長いコメントが目に入った。

 どうして? と。


『青いアネモネの花言葉は“固い誓い”。アネモネの目、綺麗な青だからご両親はそういう意味でつけたんじゃない?』


 という、コメント。


「私の名前……私の、目の色……固い誓い……」


 イラストレーターさんのイラスト。

 私の立ち絵。

 私の理想の姿。

 髪の色は変わらないけれど、瞳の色は私の目にできるだけ近づけてもらった。

 私の目……目の色。

 固い誓い――。


「そうなんだ……ありがとうございます。両親に聞いてみます」



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