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この球体はなにを言っているんだ?


『Vtuber――バーチャルワイチューバーの略称。ワイチューブという動画サイトにて、配信を中心に活動をする仕事です』

『必要な機材、環境、設備はすでにご用意しております』

『わからないことはその都度ご質問いただければ、我々が全力でサポートさせていただきます』

「どうが、さいと……」

『不明な点は、実物を見ていただいた方がわかりやすいかもしれません。町の方にご案内いたしますか?』


 そう問われて私はまた、父の方を見てしまう。

 父はこくりと頷いて「よろしく頼もう」と言い放った。

 いつまでもここにいたって仕方ない、ということ。

 それはその通りだが……異世界?

 そんな荒唐無稽なことを、信じろというのか?

 まだまだ半信半疑な私に、オズワイドが短剣を差し出した。

 父と母に護身用として持たされていた、祖父の形見ではないか。


「姉様は剣を持っていた方が心強いでしょうから、姉様が持っていてください」

「それはオズワイドがお祖父様よりいただいたものだ。なくさぬように大切に持っていなさい」

「でも……」

「船を出た時のようにオズワイドは剣を正しく使える男だと確信した。その短剣はオズワイドが持っているべきものだ。大丈夫だよ」

「……はい」


 頭を撫でるとオズワイドはまだどことなく納得はしていなさそうだが、頷いてくれた。

 病弱で部屋に籠りきりのせいか、表情筋が固まっているオズワイドは九つなのに子どもらしくない。

 でも、それがこの子の個性だし、船のロープを切って私を守ろうとしてくれた姿はさすが王家の懐刀と呼ばれる家ブランドー侯爵家の嫡男だと確信した。


「これは……すごいな」


 海岸から道なりに森を抜けると、いきなり見たことのない造形の建物が並ぶ場所に辿り着く。

 ガラスがたくさんある、階段が露出した建物。

 オズワイドが585さんに「あの建物はなんですか」と聞くと『アパートです。この辺りは都心から少し離れておりまして、家賃はお安くなっております』と返答を受ける。

 あぱーと。

 家賃、ということは賃貸の建物。

 平民が住むような平家ということだろうか?

 二階建てだけれど。


『都心の方へ参ります。こちらにお乗りください』

「なんだ? これは? 箱……? しかし、硬いな? まさか鉄か? ガラスは……なんだこれは、ガラスに見えるがガラスではない? 奇妙な素材だな?」

「本当だわ。ガラスのような硬さなのに、滑らかさと柔軟さがありますわね? それに、なんて美しいラインの箱なのかしら? 車輪がついているということは、馬車のようなものなの?」

『自動運転自動車という乗り物です。我々が操縦いたしますので、ご安心ください』

「「「「わっ」」」」


 859さんがそう言った途端、四つあった扉がパカっと開く。

 誰も扉には触れていないのに……!?

 恐る恐る中を覗くと、赤いビロード生地のソファーが詰まっている。

 好奇心旺盛な両親が目を輝かせてすぐにソファーに座って、ぴょこぴょこ跳ねて座り心地を確認。

 ちょっと小さな子みたいだからやめてほしい。


「すごいわ! なんて頑丈かつ繊細なスプリングなのかしら!? それにこの生地! 縫い目もほとんど見えない! 素晴らしい縫製能力だわ! このソファーのカバーを作った針子にはぜひわたくしの新しいドレスを依頼したいわね! どこのお店にいるのかしら!?」

「それに造形も素晴らしい! 外から見たらとても四人座れるようには見えなかったが、これはなかなかどうして! 中に入ってみると天井はそれなりの高さがある上、男が座っても足が伸ばせる! いや、しかしこの丸いノブのようなものはなんだ? これは? なにかのメーターか? これはどう使う? この窪みの意味は?」

『操縦は我々がいたしますので、お手を触れぬようお願いいたします』

「なんと、どのように動くのだろう!? お前たちも早く入ってみなさい」

「は、はい。オズワイド、入ってみましょう」

「はい」


 子どものようにはしゃぐ両親に、気恥ずかしさを感じながら後ろの座席にオズワイドとともに座ってみる。

 すると両親がはしゃぐのも納得のふわふわソファー。

 こ、これはすごい……!

 ほどよい弾力。

 サラサラの生地!

 これは間違いなく職人の仕事!

 母がこれを作った針子にドレスを頼みたいというのも頷ける。

 私もこれを作った針子にキャロットズボンを作ってもらいたい。


『扉が閉まります』


 614さんが言うと、本当に扉が閉まった。

 どうなっているんだろう?

 触れなくても扉が開いたり、閉まったり。

 不思議なことばかりが起こる。


『発進いたします』

『機材部分にはくれぐれもお手を触れませんよう、重ねてお願いいたします』

『車内が暑い、寒いなどございましたらお気軽にお申しつけください』

『発進』


 口々にそう言って、箱が走り出した。

 箱、ではない。

 なんだっけ?

 えーと、自動運転自動車、といっていたか?

 自動運転の、自動車?

 どういう意味なのだ?

 首を傾げつつ窓の外を見ると、ゆっくりと走り出した。

 その速度自体は馬車と大差はない――と、思っていた。

 次第に馬車とは比べ物にならないスピード、カーブを曲がる時のなだらかな動き、停車の速さに開いた口が塞がらなくなる。


「すごい! すごいぞ! なんだこの乗り物は! 馬車とは比べ物にならないほど速いぞ! それに止まるのも速い! わあ! 大きな通りに出たら他にも箱の乗り物があるぞ! しかも形がどれも異なる! どうなっている!?」

「あれはなに? 建物なの? 全部ガラスでできているんじゃない!? すごい造形だわ!? 信じられない! あんなに高い建物……城と同じぐらい高いのではなくて!? 城のようなのに細長くて……どうやって建っているの!? 中はどうなっているの!?」



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