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騎士として覚悟


「それにしても、普通ここはアネモネが『天啓の乙女』として目覚めるところだったのでは? わたくしちょっとそういう展開を期待したのですけれど」

「私が『天啓の乙女』!? 無理です無理無理! ありえないです! 私、魔力量は中の下ぐらいしかありませんし!」

「そうですね。アネモネは無理ですね。魔力量もさることながら白魔法の才能もなさそうですし。魂の輝きも物足りない、凡人のレベル。むしろ、アネモネの弟さんの方がその才能があると思いますよ」

「は、はい? オズワイドが……?」


 なにを言い出されるのだ、ナターシャさんは。

 オズワイドは男の子だ。

『天啓の乙女』はその名の通り女性がなるもの。

 絶対に無理だと思うのだが?


「それは女神アルクレイドが、加護を与える器は自分と近いものでなければ難しかったからです。今の成長した女神アルクレイドならば、性別くらいなら問題ないと思いますよ。オズワイドくんの魔力量は相当のものでした。回復した今なら、おそらく受け皿としては十分ではないかと」

「……オズワイド、が? 『天啓の乙女』に?」

「なんだか誤解を招く言い方ですけど……まあ、そうですね」

「んふ」


 オリヴィア先輩、今ちょっと笑わなかった?

 ……え? オズワイドが『天啓の乙女』になるとかそういう話だよな?

 なにが違う……?


「呼び方は変えてもいいと思いますけれどね。あの子、まだ幼いですし無理に異世界でVtuberやらなくてもいいと思うんですよ。まあ、この世界からもセンタータウン経由でネットに繋げればVtuberをやることはできると思いますけれど」

「え!? この世界からもVtuber活動ができるんですか!?」

「できますよ。いぶこーにはいないですが、コメプロの方には自分の世界に住んだままVtuberをやっている人が何人かいますし」

「そ、そうなのですね」


 それならオズワルドだけでもこの世界に戻してもいいのか?

 いや、でもオズワルド本人楽しそうにVtuberのデビュー準備をしているからな。

 たとえこの世界で『天啓の乙女』の才能があるからと言っても戻れる状況でもない。

 ……男の子だし。


「オズワルドのことはら帰ってから本人に聞いてみます。でも、現状我が家自体がアルクレイド王国から反逆者として扱われていますから難しいでしょう」

「ああ、じゃあ見捨てちゃえばいいと思います。人間の国っていっつもそうですよねぇー」


 くすくす笑いながらさらりと見捨てる提案。

 ナターシャさんって、本当に不思議な人だな。

 なんか定期的に人間をとても、刺してくる。

 嫌い、なように見えてしまう。

 嫌いなのか?

 でも、私たちには優しいし……。


「あ、この部屋」

「さっき話し声が聞こえたのはここですね。入ってみましょう」

「はい」


 三階の、一番大きな扉の部屋の前。

 確か、さっきここでジャステーラ嬢の声がしたんだった。

 ノブを回すと鍵がかかっているわけでもなく、扉が開く。

 護衛が突然襲いかかってくることも考えられるので、柄に手をかけながらゆっくりと開けた。


「何者だ!?」

「レオンクライン様のを治療に来ました。――アランディ様」

「な……!? アネモネ嬢!?」


 案の定、部屋の中にはレオンクライン様の護衛の中で、一番古参であるアランディ・オールガルド氏が剣を構えていた。

 見慣れた鎧の姿ではなく、かなり軽装。

 御歳四十六歳の初老の騎士がたった一人で部屋にいるなんて。


「アランディ様だけですか? 他の護衛騎士は?」

「待て。近づくな! あなたを信じてレオンクライン様に近づけるわけにはいかないのだ」

「わかりますが、私は治癒に長けた聖女をお連れしました。私が本当にレオンクライン様に毒を盛ったと本気で思われているのでしたら、あなたを退けてでも私はレオンクライン様をお助けいたします」


 アランディ様はレオンクライン様の古参の護衛騎士。

 そんなあなたまでレオンクライン様の現状を受け入れるというのなら私にとってはもう、敵だ。

 剣を抜いて見せると、渋い表情。

 どれほど時間が経ったか。

 アランディ様は剣を抜かぬまま、ベッドの脇に逸れる。


「あら、信じるのですか?」

「あの日のことは私もあとから聞いてずっと違和感をもっていた。レオンクライン様がもっとも信頼を置いていたアネモネ嬢が毒を盛ったとは、到底思えなかった。だが、誰一人アネモネ嬢を擁護する者はおらずレオンクライン様の容態は悪化していくばかり。ジャスティーラ嬢が一週間に一度見舞いにいらっしゃるが、『天啓の乙女』が見舞いのみでレオンクライン様を治癒してくださることもない。もはや藁にでも縋らねば、レオンクライン様をお救いできぬと感じている。――なにより、あの日……私に別件の任務を押しつけてきたアークラッド殿下の意図を感じぬほど、私も馬鹿ではない」

「では、治療しても?」

「本当にできるのであれば」

「馬鹿にしてます?」


 してないです、してないです。

 慌てて両手でナターシャさんを抑える。

 この人結構喧嘩っ早くないか?


「というか、この人偉い人です?」

「レオンクライン様のご幼少の頃からの専属護衛騎士のアランディ・オールガルドです。普段はこの方がもっとも近くでレオンクライン様をお守りしておりました」

「あなたを妬む騎士たちとは違うのですか?」

「アランディ様は騎士団の中で一番大きな部隊長も務めており、最近は若手騎士の成長のためにレオンクライン様のお側を離れることが多くなっておられたので、私になにかをおっしゃることはなかった方です。むしろ、騎士としてどうあるべきかや、護衛の時の注意点などをよく指南してくださいました」



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