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流れ着いたのは異世界


「アネモネ、アネモネ、起きて」

「ん……んう……お母様……?」

『ようこそ。ここはセンタータウンです。Vtuber志望の方はこちらへお越しください。ワタシの名前はARN(エーアールエヌ)-585。センタータウンでの皆様の生活をサポートするVtuberサポート科学魔術AI端末です。わからないことはなんでもお気軽にお聞きください』

「……な……な……な……」

 

 銀色の10センチくらいの球体が青い光を点滅させながら、喋っている。

 私を揺り起こした母を見上げると、母も困惑顔。

 いや、それも気になるが――ここはどこだ?

 センタータウン?

 ど、どこだ?

 聞いたこともない地名だ。

 それに、私は確かレオンクライン様毒殺の罪を着せられて、島外に船で流されたはず。

 周囲を見回すと、私と母は船の上。

 父とオズワイドは――陸地に上がってコレと同じような球体と一緒にいる。

 そのさらに奥には、灰色と青の見たこともない素材で造られた高い建物の群集。

 あれが……町? なの、か?


「な……な……な……」

「ね? よくわからないのだけれど、朝になったらここに流れ着いていたの。海の中に呑まれたのかと思ったけれど、普通に息もできるし……。わたくしたちは、いったいどこに流れ着いてしまったのかしらね?」

「こ、こ、この丸いのは?」

「えーあーるえぬさんとおっしゃるそうよ。丸いものはすべて同じ名前で、型番? というので区別しているのですって。この方は585さん。旦那様といるのが614さんと859さんですって」

「は、は、はあ……?」


 なにを、なにを言っているのだ?

 なに一つ理解ができないが、父が陸地にオズワイドを残して丸いのを一つ引き連れてざぶざぶ海の中に入ってくる。

 そして船の上で私と母に手を伸ばす。


「起きたか、アネモネ」

「は、はい。あ、あの、お父様、こ、ここは? こ、これは?」

「とりあえず敵ではない。魔物でもなさそうだ。安全な場所に案内してくれるとのことだから、ひとまず彼らの案内に従ってみよう」

「本気ですか!?」

「不安なのはわかるがいつまでも船の上にいても仕方がないだろう? 腹も減ったしな」

「うぐ……」


 それは、その通りではある、けれど。

 母と顔を見合わせるが、母はにこりと微笑む。


「旦那様が間違ったことなど言うわけがありません。それに、あなたが眠っている間、585さんはずっと親身にわたくしと話してくださったわ。きっと信じても大丈夫でしょう!」

「え、えええ……」


 父も母も度胸がすごい。

 私は、仮にも女騎士という称号をいただいているのに剣も持たないからか恐ろしくて仕方ない。

 しかし、両親がそう言うのでは私も従うしかあるまいて。

 母は長いドレスの裾を持ち上げ、ざぶざぶと父のあとをついて浅瀬を歩いていく。

 私もそのあとを追った。

 宙に浮く585さん? とやらはそのまま浮かびながら私たちについてきて、614さん? と859さん? と合流。

 オズワイドは614さんと話をしていた。

 大丈夫なのか、と話しかけると「大変話がわかる方ですよ」とのこと。

 そ、そうなの?


「申し訳ない。娘は今起きたばかりだ。もう一度先程の説明をしてもらってもいいだろうか?」

『かしこまりました。――ようこそ。ここはセンタータウンです。Vtuber志望の方はこちらへお越しください。ワタシの名前はARN(エーアールエヌ)-585。センタータウンでの皆様の生活をサポートするVtuberサポート科学魔術AI端末です。わからないことはなんでもお気軽にお聞きください』


 少しの沈黙が流れる。

 ええと……なにも……なに一つ……よく……わ、わからない。


「お、お父様……あ、あのう……よ、よく、わからない、の、です、けれど……」

「うむ。つまりここはセンタータウンという場所らしい。我々が住んでいたアルクレイド王国の外の魔海と繋がっていた“異世界”なのだそうだ」

「い……異世界!?」


 父と弟が彼らから詳しく話を聞きつつ、すり合わせを行って分かったのはここが異世界であるということ。

 ここは『センタータウン』という、異世界。

 まったく別の異世界『地球』という場所に“ネット”という電脳通路を通じて接触して『リスナー』と呼ばれる存在を楽しませてくれる『ぶいちゅーばー』を住まわせている場所なのだそうだ。


「……………………。…………えっと……なに……え?」

「そうだよな。父もよくわからない。ただ、ここは魔物などいない安全な場所ということなのだそうだ。そして我々の中の誰かが『ぶいちゅーばー』とやらとして働いてくれるのなら、生活は保証してくれると言っている」

「ぶ、ぶいちゅーばーとして働いてくれるのなら、我々全員を、ですか!?」

『はい。センタータウンに辿りつける者は、元の世界に居場所がない者。センタータウンでVtuberとして働き、稼いでくださるのでしたらご家族の生活もこちらで保証させていただきます。もちろん、ご家族が教育や仕事をお望みでしたら学校のご紹介や仕事の斡旋させていただきます』

『新たな生活の基盤として、居住地、衣類、食糧を支給させていただきます。しかし、もしもVtuberとしての職務を辞退されるのでしたら――大変申し訳ございませんが我々のサポートはここで打ち切らせていただきます』

『元の世界にお帰りいただくしかございません』


 愕然としつつ、父の方を見る。

 父は「ふむ」と神妙な様子で頷く。


「そのぶいちゅーばーという仕事について、もう少し教えてもらいたい」



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