女の嫉妬(1)
「では、ジャスティーラ嬢は知っていたのですが? レオンクライン様に毒が盛られることを……?」
「さあ? そこまでは。あとからあなたのように犯人に気がついて問い詰めて、そういう提案をされて受け入れた――ってこともありえますし」
「あ。そ、そうか……すみません」
「王族に暗示をかけて傀儡にしようという提案を受け入れている時点で犯罪者では?」
「……確かに」
それもそうか。
なにも擁護できなかった。
だが、とんでもないことになっているのは間違いない。
レオンクライン様が暗示にかかっているのだとしたら、その暗示も解かなければならない。
「あ、あの……お二人は暗示を解く術など心当たりはありますか?」
「わたくしは無理ですわ。そういう技術は、世界ごとに異なると思いますもの。いえ、可能かどうかは直接本人を見てからでなければ」
「わたしは多分できますよ。どちらにしても本人に直接触れてみないことには不可能ですけれど」
「で、では! 毒と同じく暗示もなんとかしていただいてもよろしいでしょうか……!?」
「いいですよ。貸しイチで」
ナターシャさんに貸しイチは本当に、なんか……怖いな……!
しかし、レオンクライン様をちゃんとお助けしたい。
私にできることなどたかが知れているけれど、それでレオンクライン様が救えるのならなんでもしよう。
「どうかよろしくお願いします!」
「じゃあ、一緒に歌みた出しましょうね。わたしと歌っても遜色ないレベルまでレッスン頑張ってください」
「ひえ…………」
想像の斜め上の恐ろしいことを言われた。
歌のレッスン、確かに私も頑張ってはいる。
歌うための筋肉と騎士として鍛えてきた筋肉は違うので、いや、まあ、使える筋肉もあったけれど……腹筋とか。
ナターシャさんの歌みた、どれも素晴らしかったからあのレベルって……!
「あらぁ? どうしてこんなところにアネモネ様がおられるのでしょう?」
「っ!?」
突然かけられた第三者の声。
振り返ると、三階から下りてきたジャスティーラ嬢が護衛の騎士を三人連れてこちらに歩いてくるところだった。
目を細めて、淡い色の口紅を引いた唇で弧を描く。
淑女らしい、美しく控えめな笑顔。
だが目が、まったく笑っていない。
明確な敵意を感じる。
シルバーが私の目の前まで降りてきて、『敵意を感知』と告げた。
敵意――やはり、ジャステーラ嬢は私のことが……嫌い、なんだろうな。
「どうして生きているのですか? 今度こそレオンクライン様を殺そうとでも? そんなことさせませんわよ」
「ち、違います! そのようなこと……! 私は、レオンクライン様の毒を治療しに――」
「嘘おっしゃい! ……レオンクライン様の慈愛を独り占めして……やっと消えたと思ったら……っ」
「っ……ち、違う……」
いや、もうやめよう。
違う、と言ってもこの人は――この国の人たちは私を信じてなどくれない。
言葉では無駄なら、行動で示すのみ。
「レオンクライン様を治療しに来たのです。こちらのお二人は治癒魔法の専門家。このお二人のお力ならば、レオンクライン様を絶対に治療できるのです。レオンクライン様を危険に晒した責任を取るので、通していただけませんか?」
「ふざけていますの? あなたなんかの言うことを、誰が信じるというのです」
やはり私のことを信じてはくれないか。
だが、それならば仕方ない。
「押し通るまでです」
「は?」
「あらあ? 強硬手段ですか? わたくし、荒事は……すっごく得意ですのよ! 腕が鳴りますわ〜」
まさかオリヴィア先輩が杖を取り出す。
え? え……え? オリヴィア先輩……?
「わたしもその方がいいですねぇ、楽で。ボコってしまって構わないということでよろしいかしら?」
「え? あのーー……ナターシャさん、も?」
「わたし嫌いなんですよね。こういう顔しか取り柄のない女。顔で王子妃を目指しているとか、舐めてますよね、王の妻になるという仕事。できるんです? 王子妃として王の補佐の仕事を。笑顔を振りまいて、お茶会や夜会でちやほやされるだけがお仕事ではありませんよ?」
「っ……! なんなのこの無礼な女たちは……!」
むしろ積極的に喧嘩を売るタイプ!?
シルバーが私の前でカメラを光らせる。
シルバーの中から、細剣が具現化してきて、私はそれを手に取った。
「やっておしまい!」
「はっ!」
ジャスティーラ嬢が連れている騎士に命じる。
駆け出した騎士たちに対して、鞘から剣を抜く。
が、私の目がおかしいのか。
駆け出した騎士たちの目の前に、オリヴィア先輩がいた。
瞬間移動?
「ご自分の罪は自覚しておいでかしら?」
「は――」
「断罪の光」
杖を騎士たちに向けた瞬間、騎士たちの足元に魔法陣が浮かぶ。
真っ白な光の柱が騎士たちの真上から落ちてくる。
私が想像していた魔法ではなく、あのーーー……物理的な白い柱が……。
「なんかわたしが知ってる断罪の光ではないんですが」
「まあ、そうなのです? わたくしの使う断罪の光はずっとこれですわよ」
「光の力が強すぎて物理になってしまったのでしょうか。……こんな物理に変換されるほどの断罪の光、初めて見ました」
「わ、私も……」
断罪の光、白魔法唯一の攻撃魔法。
でも、まさか強くなりすぎて物理の柱になるなんて。
そんなことあるものなのか。
オリヴィア先輩がそれだけ強い、ということだろう。
……そうか? ちょっと特殊能力とかじゃないか?
ま、まあ強いことに変わりはないんだろうけれど。
ナターシャさんと「これ配信のネタとかになりますかね?」と話すとこくりと頷かれる。
ですよね。ネタになりそうですよね。