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アルクレイド王国への帰還

『それではこちらへ』

「これは……大きな鉄の塊? 車に似てるが、なんなのだ?」

「あら、アネモネさんは電車を見るのは初めてなのですか?」

「は、はい。でんしゃ、というのですか?」

「地球に行ったことはあるのですよね? 乗らなかったのです?」

「はい。地球に行った時はシルバーが手配してくれたタクシー? という車に乗って移動しまして」


 あらあ、と二人の先輩方が頰に手を当てがう。

 珍しいことだったのか?


「電車というのは地球の乗り物ですわ。車よりも速く、幾つも駅があるのですよ。まあ、長距離移動をする時に利用して、さらに近いところへはタクシーを利用する、みたいなかんじでしょうか」

「へー」

「まあ、ライバーを続けていくのであればそのうち乗る機会もあるでしょう。それよりも、早く乗ってください」

「あ、はい!」

「今乗りますっ」


 ナターシャさんに促されて電車に乗る。

 正確には電車を模した異世界を安全に移動する装置、らしいけれど。

 シルバーが運転席に向かい、扉が閉まる。


『発車します。席にお座りください。危険ですので到着まで席を立たないよう、お願いいたします』

「は、はーい」

「わたくし異世界列車初めてですわぁ。どんなふうに移動するのでしょうか?」

「別に普通ですよ。でも、シルバーの言う通り移動中は席を立たない方が安全ですね」

『発車いたします』


 全員が席に着くと、シルバーの声とともに電車が動き出す。

 車に比べてゆっくりとした発車のように感じたが、駅を出た途端虹色の世界に飛び込む。

 世界が歪む感覚。

 ごとんごとん、と音を響かせながら、星空のようなところを進んでいく。

 ここは――?


「真っ暗な……ああ、でも星が見えますわ。宇宙……?」

「ええ、そうですね。実質宇宙でしょう。異世界というのは基本的に“惑星”です。次元が違っても、(ことわり)が異なっていても、球体の惑星型が一番色々効率もいいし無駄も少ない。いわゆる『世界を作る時のデフォルトタイプ』なんですよね」

「球体以外の形があるんですの?」

「ありますね。でも、物理的な問題で球体が一番繁栄しやすいそうです。だから惑星を造る時に最初に選ぶ“世界のかたち”は球体が多いんですよね」

「はあ……」


 なんだか難しい話をしている。

 そんな話をしながら、ふと、ナターシャさんが『救世の聖女』であるという話を思い出す。

 オリヴィア先輩と同じくナターシャさんも『聖女』。


「あの、ナターシャさんも聖女様なのですよね」

「いいえ? わたしは聖女ではなく魔女と呼ばれていましたよ」

「え? でも……」

「まあ、でも毒の後遺症というのを治癒する力はあるのですよ。人間は嫌いだし、オリヴィアさんが行くのならわたしいらないかなって思ったんですけれど異世界に人助けに行くなら仕事サボってもいいよって言われたので」

「え? あ、そ、そうなんで……え?」

「お仕事お忙しそうですもの、ね……?」


 仕事、え? サボっても……?

 サボる、理由に? 私……え?


『到着しました。こちらがアネモネの護衛対象の王子が運ばれた城です』

「え! もう着いたのか!?」


 電車が静かに停車した。

 シルバーがふわふわと私の隣に戻ってきたら、確かに景色が懐かしい。

 ふらりと立ち上がり、電車の扉が自動で開く。

 地面に足をつける。

 空気が……ああ、懐かしい。

 懐かしくて、気分が悪くなる。


「まあ、ここが……」

「海は危険だと聞いていますけれど、砂浜があるじゃないですか」

「はい。この辺りは王都から離れ、魔海から上がってくる魔物を討伐する時に使用される要塞なのです。王都に魔物が近づかぬよう、定期的に魔海の魔物を掃討するので」

「へー。なるほど。ですが、そんな場所に毒の後遺症で苦しむ王族を置くのです? トドメを刺す気満々にしか見えないのですが?」


 ナターシャさんの指摘に押し黙る。

 私にもそうとしか、思えない。

 私がセンタータウンで過ごしていた二ヶ月あまり、レオンクライン様はこんな場所で、いつ現れるともしれない魔物に怯えながら動かない御身で過ごされていたのか。

 なんて……なんてひどいことをっ。


「私……わたくしは、騎士として……本当に、覚悟が足りていなかった」

「ん?」

「アネモネさん?」

「代理だから……婚約者に頼まれたからと、周りの声に流されて、私は騎士としてレオンクライン様を蔑ろにしていたのですね」


 周りが「女騎士のくせに」「代理のくせに」と言うからできるだけ一歩引いたところで正規の護衛騎士の役目を取らないようにとやってきたが、その結果がこれなのだとしたら私は騎士として護衛対象を本当の意味で守れなかった。

 中途半端。

 本当に、なんの覚悟もなく騎士を名乗っていた。

 あの素敵な立ち絵の、理想の私の姿に対して恥ずかしくてたまらない。

 騎士として、なんて言っているけれど、私は騎士ではなかった。

 なんの覚悟も責任もなく、周りに配慮しているつもりでなにも守れていない、騎士ですらない。


「私は騎士ではなかった。覚悟もなく護衛対象を危険に晒して、死の淵に追いやり、今もなお危険に晒し続けている。私は……私は……っ」

「アネモネさん、落ち着いてください。大丈夫ですよ」


 オリヴィア先輩が私を抱き締める。

 ああ、だめだ。

 私は……私は弱い。

 人を守れるほど、私は強くなかった。

 騎士の資格こそ持っていても、私は人を守れる人間ではなかった。

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