今の帰る場所
歌ってみたの収録、トークのレッスンやボイストレーニング、ダンスのレッスン、先輩たちや大きな箱のVtuberの配信を見て勉強。
さらに“地球”の“日本”の“蒼杜町”にある大型犬カフェの面接。
オズワイドとともにオズワイドの通う小学校の見学、手続きの説明、日本の拠点選び。
やることが……やることが多い……!
「疲れた……!」
「地球はどうだった?」
「なんか……その……空気があまり綺麗じゃなかった……」
「あらあ?」
地球、日本に行った感想は空気が違う、ということ。
科学技術はセンタータウンよりも百年ほど遅れているので、こちらに慣れていると少し不便に感じるシルバーが言っていたが確かにそのようだ。
そして空気があまり綺麗ではない、と感じた理由は魔力がないから……らしい。
少し息苦しいので、オズワイドの方を見るとやはり少し具合が悪そう。
その姿を見て、アルクレイド王国にいた頃のオズワルドはずっとこんな感覚だったのか、と思い知った。
やはり自分自身で経験したことがなければ、本当に理解することは難しい。
「オズワイドはどうだった? 通えそうだったか?」
「えっと、慣れれば……? 僕も姉上と同じ感想でした。地球は魔力がない。アルクレイド王国よりも……。なので、定期的に魔力を回復したいです。その……センタータウンで」
「ふむ……聞いていた通りということか。アネモネはどうだったんだ? 向こうで生活ができそうか?」
「私も、慣れれば……? そもそも犬のいるカフェで働くことも初めてだし、ちゃんとできるのか今から不安だ。働きながら配信業ができるのかもわからないし……でもちゃんと働きながら社会性を身につけたいし……!」
「ちょっと落ち着きなさい」
父に頭をポンポン叩かれて、ひとまず息を吸って吐く。
地球で家を借りる時は父にも蒼杜町に行ってもらわねば。
未成年は保護者同伴でないと部屋を借りられないのだそうだ。
「それで、明日はレオンクライン様の毒の後遺症を治療しに行くのだろう? 本当に一人で行くのか?」
「一人ではありません。オリヴィア先輩とナターシャさんが一緒に来てくれることになっていますから」
そう、そして明日は待ちに待ったレオンクライン様様の毒の後遺症を治療しに行く日。
異界移動は申請が必要で、なおかつ毒の後遺症を治療できるオリヴィア先輩とナターシャさんのどちらかが都合のいい日をスケジュールで照らし合わせた結果が明日。
しかも、どちらかお一方で、と言っていたのにまさかのお二人とも「その日はオッケー」という返答。
これにはびっくりした。
しかし、大変にありがたい。
なんなら「心配だから」と二期生の先輩がついてこようとしてくださった。
大人数になると逆に動きが取りづらいので、お断りしたけれど。
「しかし――あのナターシャさんがよもや『救世の聖女』様だとは。あらゆるものすべてを健全な状態に戻す“奇跡”を扱う方であるのならば、きっとレオンクライン様のことも直してくださることだろう」
「私もそう思います。もちろんオリヴィア先輩も素晴らしい聖女とのことですから、ナターシャさんが出るまでもないかもしれませんが」
「そうだな。……くれぐれも気をつけるのだぞ」
「大丈夫です。シルバーが一緒ですから」
申請したのは私のみ。
そして同行者としてナターシャさんとオリヴィア先輩がついてきてくれる。
ナターシャさんがついてきてくれるから、と言うとフィルネルク先輩もロレーヌ先輩も「それなら大丈夫だ」と安心してくれた。
ナターシャさんは、聖女としての奇跡の力も持っているがそれよりも戦闘能力に長けている人らしい。
攻撃魔法が使える聖女なのだろうか?
なんにしても頼もしい。
「ちゃんと変装していくのですよ」
「オリヴィア先輩とナターシャさんがいるとはいえ、アルクレイド王国はもはや敵地。絶対に無理だけはしないようにな」
「大丈夫です。レオンクライン様の毒の後遺症を直したらすぐに帰ってきます」
「約束よ」
「はい」
心配する両親、後ろから服の裾を引っ張って見上げてくるオズワルド。
もちろん、私はここに帰ってくるつもりだ。
たとえレオンクライン様に引き止められたとしても、私の居場所、帰る場所はもうここなのだから。
オブワイドを抱き締めて、両親にも抱き締められる。
明後日以降のスケジュールもたくさん詰まっているのだから、私はちゃんとここに帰ってくる。
まだ覚えることが山積みなのだから。
そうして翌日。
シルバーの運転で連れて行かれたのは“ターミナル”という駅。
その場には異世界の装いのナターシャさんとオリヴィア先輩。
お二人の元の世界の装いだろうか?
私は母に買ってもらった、センタータウンのワンピースドレスで来てしまったのだが。
「あら、騎士の装いではないのですか?」
「隠密での行動ですので、魔海に追放されて死んだと思われている私が騎士の装いでアルクレイド王国に向かうのは危険だと言われました」
「まあ、残念ですわ。アネモネさんの騎士の装い、わたくし楽しみにしていましたのに。だって絶対にかっこいいでございましょう? 見たかったですわ〜」
ナターシャさんにはにこにこ納得していただけたが、オリヴィア先輩には残念がられてしまった。