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立ち絵の私


『アネモネ、画像添付メールが届いています。立ち絵が上がってまいりました。ご確認よろしくお願いしますとのことです。すぐに確認した方がよろしいかと』

「すぐに確認しておいでなさい! 食事中とか気にせずに!」

「そうぁぞ、アネモネ!」

「すぐに確認してまいります!」

「行ってらっしゃいー」

 

 いぶこー事務所に行ってから一週間後、ついに私の立ち絵完成版が到着した。

 仕事の早いイラストレーター様々だ。

 夕飯の最中だというのに家族全員に背中を押されて自室へ駆ける。

 自室のPCからメールを立ち上げると、イラストレーターさんからの立ち絵完成版が表示された。

 水色の髪、毛先は緑色、髪型は膝下まで長いポニーテール。

 毛先と同じ緑色の瞳、可愛らしいヘアピン。

 凛々しい騎士の服装と、細剣を携えている。

 これがVtuberの私の姿……!

 

「かっこいい」

『お気に召しましたか?』

「こんなにかっこよく描いていただいて嬉しい」

 

 現実の私は薄暗い水色の髪。

 代理とはいえ女騎士として王族の近くに控えるのだからと髪を短くするようにアロークスに言われて、その通りに短く切った。

 同じくアロークスに『護衛が派手な髪色をするのはいかがなものか』と嫌味を言われ続けて少しくすむようにと茶色で髪を染めて今の色に。

 だからこの立ち絵は、私の理想の女騎士の私の姿だ。

 本当にかっこいい。

 

『それと、明日に大型犬カフェの面接があるのもお忘れなく』

「も、もちろんわかっているぞ」

『こちらの立ち絵がOKであれば、グッズとしても使用されますので早めのお返事を。明日の面接のあとはご家族で事務所に出向いていただき、デビューボイスドラマの撮影の続きを行います。明後日は歌ってみた用レッスンを10:00〜16:00まで。18時からはお食事。19時以降は動画の制作の続きです』

「……忙しいな、私」

『はい。準備の時点でこれです。ちなみに明々後日は常設ボイスの収録が14時からございます。午前中にダンスのレッスンが入っているので、体調はきちんと維持できるように早めに休むことを推奨します』

「は、はい」

 

 とにかく連絡をくれたアゼットさんにメールの返信を行う。

 この立ち絵で完璧、と。

 この世界に来てからメールの使い方も覚えたが、いや実に便利な機能だ。

 電話もその場にいない相手といつまででも情報共有と打ち合わせができてとても便利。

 メールは内容が残るから、見直すこともできる。

 そう、見直せる。

 

「立ち絵の私本当にかっこいいなぁ」

 

 しみじみと呟く。

 まさしく理想の私の姿そのもの。

 こうなりたかった。

 なんのしがらみもなく、侯爵令嬢らしく伸ばしていた長い髪も母譲りの空のような青い髪を切ることも染めることもなくそのままで。

 女騎士らしく誰かを守れる、騎士として学んだことをすべて活かせるような場所と誰かのために生きて――。

 

『通信が入りました。アネモネ、あなたのいた世界で、あなたが護衛対象としていた第一王子レオンクラインの生存が確認できたそうです』

「それは本当か!?」

『はい。潜入していた我々の個体との情報共有です。現在地も確認ができたとのことですよ』

「レオンクライン様は……生きて……ご無事なのだな!?」

『はい』

 

 メールの返信が終わって席から立ち上がり、食卓に戻ろうとした時だ。

 シルバーが私たちのいた世界に潜入して、私たちがいなくなったあとのことを調べていた個体が伝えてくれたことを教えてくれた。

 レオンクライン様は、無事。

 生きている。

 力が抜けて、その場で座り込む。

 よかった、本当によかった……!

 

『しかし、無事とは言い難いようです』

「え!?」

『毒の後遺症が出ているらしく、魔海近くの療養地という場所に移送され隔離されているようです。症状としては手足の痺れ。立ち上がるどころか、起き上がることも困難のようですね』

「そんな……!」

 

 毒の後遺症。

 確かにそういう話もされたけれど、一命を取り留めても王都からは追い出されて魔海の近くの療養地に――実質監禁ではないか。

 苦々しく思いながらも「では、王太子の座は」と溢すように問うと『弟の方にほぼ決まりのようですね』と。

 そうだろう。

 そうにしかならない。

 しかし……あまりにも下劣。

 アークラッドがレオンクライン様を差し置いて次期国王となるなんて、絶対に納得できない!

 

「なんとか……どうにかレオンクライン様をお助けできないものだろうか……毒の後遺症を直せばレオンクライン様は王都に戻れるはず」

『聖女オリヴィア、またはナターシャ様に依頼するのはどうでしょうか。異世界に移動するには申請が必要となりますが、彼女の治癒能力は異世界で最高峰。ナターシャ様は神性の聖女。“人間”の最高峰ではありますがオリヴィアの能力はすべての世界に通用するか不明ですので、“神性”の聖女ナターシャの方がまず間違いないでしょう。どちらに依頼しますか?』

「えっ……」

 

 思わず言葉に詰まる。 

 ナターシャさんも、本当に聖女だったのか。

 シルバーの口ぶりだとナターシャさんの方がすごい聖女様なのか?

 可能であれば確実な方がありがたいが……。

 

「その……どちらでも、都合のついた方にお願いしたい、かな。私の世界の事情に巻き込むのは申し訳がない」

『では双方に打診して異世界移動の申請をしましょう。スケジュール的にアネモネが丸一日動けるのは一週間後ですね』

「了解した。よろしく頼む」

 



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