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いぶこー事務所(4)


 先輩たちは本当に立派な先輩であった。

 約半年ほど前から活動している先輩たちは色々配信していて困ったことがあったらしい。

 中でも困ったのはリアコ――リアルに恋してる勢と誹謗中傷。

 リアコ勢は実際に似合うことがまず無理な相手に本気で惚れ込み、本気交際と結婚を強く望む人々。

 対処の仕方としては配信でキッパリ事前に否定する、または非推奨と公言しておくこと。

 注意喚起は昨今、必須事項になっている。

 言っておかないと勝手に『◯◯はリア恋オッケー』と勘違いされるかもしれない。

 誹謗中傷は誰にでも起こりうる迷惑行為。

 基本的に社会的弱者と呼ばれる人々がそういった行為を行うことが多い。

 顔の見えない相手になら、なにを言ってもいいと思っているところがあるようだ。

 だが、そういった誹謗中傷や迷惑行為を行う者には開示請求という身元を確認できる制度がある。

 そのあたりは会社に言ってくれれば会社でやるそうだ。

 身元が割れた“犯人”に対して、損害賠償――Vtuberとしての業務の妨害による損害賠償やVtuber、配信者への慰謝料を請求する。

 請求額の平均は百万円〜三百万円。

 昨今、被害が増加しているため請求額はどんどん上がり続けているそうだ。


「こっちとしてはいい臨時収入になると思って! バンバン会社に申請してくださいね!」

「そうそう! やる方が悪いんだから!」

「たくさん請求すればその分他のライバーさんや配信者さんが被害を受けることがなくなるんですよぉ〜!」

「な、なるほど」


 情け容赦は不要ということらしい。

 二期生の先輩たち本当にたくましいな。

 私も先輩たちに習ってこのくらい図太くならなければならないのか。


「リアコは普通に気持ちが悪いが、事前に強めに言うとだいぶ減るぞ!」

「はい! 本当に気色の悪い奴らですが、はっきりキッパリ釘を刺しておくのがコツですわ! 見つけたら叩きのめしましょう! それはそれで変態が沸きますが、あまりひどいようでしたら開示請求ですわ!」

「たまにスパチャにメッセージをつけて言いたい放題してくる変態まで現れますが、逆に開示請求しやすいのでしっかり教えてあげるといいと思いますぅ」

「りょ、了解です……」


 実際リアコ……恋愛なんて今の私には到底無理な話。

 画面の向こうの顔もわからない人、どんな人間かもわからない相手に恋をされても困る。

 初配信に織り込むかどうかは任せると言われたけれど、初対面のリスナーさんにそんなことを言っていいものなのだろうか?

 なんだか自意識過剰みたいで恥ずかしい。

 そんな質問が来たらとか、そういう気配のありそうな人が現れたらでも十分のような気が……。

 いや、事前に予防線を張っておいた方がいいのか?

 先輩たちに聞いてみるとフィルネルク先輩は「おれはイケメンだしいぶこー初の男ライバーだから初配信後の振り返り雑談ですぐに予防線を張っておいたよ」と親指を立て、オリヴィア先輩は「恋愛脳は死ね、と日々の配信で言っていたおかげかそのようなモノはついぞ沸きませんわ」と微笑み、ロレーヌ先輩は「わたくしも定期的にリア恋勢を虫のフンのように扱っております」とガッツポーズで語ってくださった。

 殺意というか悪意というか敵意というか……強すぎないだろうか、先輩たち。


「だって我々元を正すと恋愛絡みで死にかけているからね」

「そうですわ。わたしもフィルネルク様も殺されかけていますのよ」

「リアコは敵ですぅ」


 説得力が違う。


「さすがにオズワイド様にリア恋する犯罪者はおられないと思いますし、オーズレイ様とジュリアナ様はご夫婦ですからリアコは湧かないでしょう。となると一番危険なのはアネモネ様ですわ」

「そ、そうですね。気をつけます。私も、初配信のあとの雑談枠を取って、そこでリアコ非推奨宣言をします」

「それが一番ですわ」


 自分の口から『枠を取って』なんて言葉が自然に出てきて少し驚く。

 心がだいぶ本気でVtuberをやるんだ、ということに傾いているな。


「とはいえ初配信は本当に緊張しますし、事前に動画を撮っておくのはどうでしょう?」

「ど、動画撮影ですか?」

「そうですわ。わたくしたちもそうしておけばあんなに噛まなかったのに〜って話しておりましたの。人前で喋り慣れていなかったのがモロに出たと言いますか。と言ってもいぶこーは弱小事務所ですから、我々の初配信も三桁以下のリスナーさんしか来なかったのですけれど……」

「でも提携先の事務所のコメットプロダクションはメキメキ箱リスナーを取得して知名度が上がっておりますから、わたくしたちのいぶこーもその恩恵を受けております。コメプロの先輩方に負けないように、我々も頑張らなくてはいけませんわ」

「は、はい! そうですね!」


 Live2Dが一番制作に時間がかかる。

 どんなに制作を急がせても数ヶ月。

 その間に、自分たちができること――。


「やはりおすすめは歌みたですわー!」

「歌みたはいいぞ。そこが入り口になってくれることが多いからな! なによりこの町だと初回制作費全面経費!」

「お買い得ですよぉ!」

「ぜ、全面経費!」




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