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研修(7)


 でも確かに弟のしでかしたことのツケを兄が被るのはおかしい。

 フィルネルク先輩には頑張っていただきたいと思うし、どのように元の世界に帰って調査を行うのか聞いてみたいな。

 私も、レオンクライン様のご無事を確かめておきたいし、そういう面でも参考になりそうな方だ。

 そして二期生最後の一人はロレーヌ・オルフィア先輩。

 異母妹に陥れられて婚約破棄されたばかりか、悪女の汚名を着せられて女性を嗜虐する豚オヤジに嫁がされそうになって逃げ出してきていつの間にかVtuberになっていた傾国の美女。

 実際の立ち絵も大変に美しく、傾国の美女と謳われるのも納得する美貌。

 なにより、なんというか……その……大きいし、引き締まっている。どことは言わないけれど。

 初配信は鬼津(おにづ)先輩やシエル先輩に劣らぬ噛み噛みの語尾上がりな緊張しまくりの配信。

 それでもなんとか落ち着いて、と定期的に深呼吸タイムが入る。

 初配信は事務所規定で三十分と定められており、特にファルネルク先輩は綺麗に時間内に収めたのだがロレーヌ先輩は五分オーバー。

 緊張でうまく話せず、ちゃんとまとめてきたことが上手くできずに時間がはみ出してしまったらしい。

 最後は半泣きであった。


「皆さん個性豊かな初配信ですね」

「わたしのも見ます? わたしの立ち絵は一条橋の下先生という方に描いていただいたのですが、すごく気に入っているのです。実際のわたしにとても近づけて描いていただけたので見てください。事務所は違いますが、Live2Dを制作していただいた会社は同じになるのできっと参考になりますよ」

「いいのですか!? 見たいです!」


 まさかナターシャさんの初配信も見ていいなんて。

 いや、ワイチューブに上がっているので見ようとすればいつでも見られるのだけれど。

 まさかご本人の前で見るなんて、いいのかな、という気持ち。

 でも実際に拝見するとこれはすごい。

 本人にとてもよく似た立ち絵が、ゆらゆら動きながら話している。

 まさに当人が画面の中で動いて話しているみたいだ。

 こんなに似せてしまっていいのだろうか、と思うくらい。


「わたしは割と雑談とカラオケ多めでやっているんです。質問箱を設置して質問に答えていく形式で。でもいつの間にか恋愛相談だらけになっていたんですよね。なんなんでしょう?」

「れ、恋愛相談に答えられるんですか……!? す、すごいです!」

「別にすごくはないですよ。まあ、これはわたしの活動方針というかいつの間にか意図せずこうなっちゃった、という話なのでリスナーさんとやっていったらこうなった、という一例としてご覧ください。こういうパターンもあります、という感じです」

「いいわねえ! 恋愛相談! わたくしも受けてみたいわ!」


 ノリノリになる母。

 そういうの好きそうだものなぁ。

 しかし私には絶対無理だ。

 無理だけれど、相談役になるのは頼られている感じがあってすごく羨ましい。

 私も頼れる女になりたい。

 ……私の場合なかなかにそのー、物理的になりそうだけれど。


「歌ってみたも聴いていいですか」

「いいですよ。わたし、上手いので」


 どや、と初めてドヤ顔を見た。

 そして実際歌ってみたをいくつか拝見したところ本当に上手い。

 いや、なんかもう人の歌を聴く機会というのがこの世界に来てから初めての経験の一つなのだが、人の歌を聴いて鳥肌が立ったのはさすがに衝撃だった。

 人の歌声というのは、これほどまでに心に響く者なのか。

 耳心地のいい歌声。

 優しくて、でも感情に直接訴えかける。

 時々強く励まされるようで、時々本当に憎く、怒りを含み、愛情深く、でも擦り切れてしまっているかのような。


「すごい……」

「歌ってみた、やってみます? どうせボイスレッスンはしていただくことになると思いますので、始めの頃の歌みたは自分の成長の度合いの基準になっていいですよ」

「わ、私も? う、歌えるのでしょうか?」

「そのためのレッスンですから」


 確かに。

 なにに対しても訓練や勉強は必要なことだ。

 自分の成長を見るための歌ってみた、か。

 そうだな、この世界にきて未知の職業に挑戦するのだから、自分の成長を見るためにも挑戦してみてもいいかもしれないな。

 ナターシャさんには「わたしは最初から上手かったですけど」とやはり胸を張っておられる。

 かっこいい。


「あの、あの」

「はい、なんでしょう?」

「もし歌のことでわからないことがあったらお聞きしてもいいですか」

「わたし専門家ではないから教えられることはないです。レッスンの先生にお聞きください」

「あ、あう……」


 バッサリと。

 うう……いや、確かにナターシャさんはよその事務所の人だから、それは当たり前なのかもしれないけれど……。


「それでもわたしがいいならディルコードのIDを教えるので、連絡してください。他に仕事もしているので、すぐにお返事できないことの方が多いとは思いますけれど」

「い、いいんですか!? ありがとうございます!」

「特別ですよ。わたし、人間は嫌いなんです。でも好意的に懐いてくれる人間にまで冷たくする気はないので」


 はい、とスマホの画面を見せてくれる。

 ディルコード、連絡用ツールアプリ。

 IDを交換して、友達になった!


「ありがとうございます!」

「変な子ですねぇ」


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