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研修(5)


「ふむ、やったことはないが……やってみようか」

「ええ。むしろできないところからできるようになっていく過程を見せるのもリスナーは喜ぶと思います」

「なるほど! 私のような年齢のおっさんが努力するところを見せるのですね!」

「そういうことです」

 

 そして私とオズワイド。

 私に対しては「悪役令嬢でいきましょう」と言われる。

 いぶこーにはもう悪役令嬢がいるのに? と思ったが、悪役令嬢なんてなんぼいたっていい、らしい。

 

「私、悪役令嬢なのですか」

「だって悪役って悪い役周りを押しつけられている人のことですよ。アネモネさんはもろに悪役に仕立て上げられたご令嬢でしょう?」

 

 ………………確かに?

 

「定期的に故郷の様子をARN(エーアールエヌ)に視察させて、彼らがザマァされているかどうかを確認してほしいくらいです」

「ザマァ……」

 

 ザマァとは、この世界のスマホで学んだ限り物語の主人公が追放なり新たな環境になるなりしたあとで、主人公を窮地に追いやったり蔑ろにしてきた者たちが主人公がいなくなったことで堰き止められていた負債を一気に被り破滅していくこと。

 ……破滅、するか? あの人たちが。

 私はあくまでも代理護衛。

 アロークスが本来護衛を担当していたレオンクライン様がもし、お亡くなりになっていたとしてもその時護衛を私に押しつけていたアロークスに咎は届かないだろう。

 レオンクライン様を毒殺しようとしていた黒幕はまず間違いなくアークラッド様だが、レオンクライン様がなくなっていれば繰り上げでアークラッド様が王太子に内定するはず。

 そうなれば立場は盤石。

 王族同士の骨肉の争いなど歴史に腐るほどある。

 でも……うん、そうだな……。

 

「レオンクライン様のご無事は、確かに気になります」

「毒を盛られた第一王子の方です?」

「はい……」

「いぶこーには死んでなければ後遺症も治せる聖女がいるので、生存確認と居場所の特定をして『異世界外出依頼』を出していただければ故郷の世界に帰ることは問題ありませんよ。ザマァがある方がリスナーも喜びいますので。まあ、あまりひどい報復は炎上になりかねないので事前にご相談必須ですが」

「え……!? 毒の後遺症も治せる方がいるのですか……!?」

「二期生のオリヴィアさんは正真正銘の聖女ですし、戦場で現場経験も豊富ですよ」

「お前もあらゆるものを正常に戻す【森羅万象の奇跡】持ってるしな」

「さっきから余計なことを言わないでいただけますぅ?」

「ナターシャさんも聖女様なのですか? 私の元いた世界にも天使召喚という『天啓の乙女』と呼ばれる聖なる乙女がいるのですよ」

 

 島国であるアルクレイド王国を魔海の魔物から守る女神の加護。

 その加護を受け取る媒体こそ『天啓の乙女』。

『天啓の乙女』は天使召喚という女神に使える使徒を召喚し使役する魔法が使える。

 逆に言うと、天使召喚を使える者こそ『天啓の乙女』であるという証明になるのだ。

 天使は様々な奇跡を起こす存在。

 今アルクレイド王国で天使召喚を使えるというアイリン・ジャスティーラ嬢は、レオンクライン様の婚約者候補筆頭であった。

 しかし、レオンクライン様自身は「自分の目で天使召喚をしたところを見たことがないから、なんとも言えないなぁ。父上も彼女が天使召喚を使ったところを見ていないから、具体的な話は進んでいないよ。天使召喚は魔力を大量に使用するし、国の危機が関わらなければできないという話もあるから頭ごなしに彼女が天使召喚をできるというのを否定したりはしないけれど」とおっしゃっていたが。

 実際、彼女の親と祖父母以外、ジャスティーラ嬢が天使を召喚したところを見たことがない。

 確かに気安く使っていい魔法ではないので、証明するために天使召喚なんてできないと言われればそうそうかもしれないけれど……。

 あれ……? でも、それならなぜ――ジャスティーラ嬢はあの時、倒れたレオンクライン様の治癒を天使様にお願いしなかったのだろう?

 レオンクライン様は次期王太子。

 その方の生命の危機になら、天使様もお応えくださったのではないのか?

 

「なんですか? 天使を召喚する魔法ですか?」

「ええ。我々が住んでいた国は魔物の棲む海域に囲まれており、女神の守りの加護がなければ巨大な海獣に襲われてしまうのです。その女神の加護は『天啓の乙女』を媒介にもたらされておりました。天使とは女神の使い魔。天使を召喚できる乙女こそ女神の天啓を受け取る国の最高の守り手なのです」

「ふーん。わたしそういう話、反吐が出るほど嫌いなんですよねぇ」

「え……? あ……す、すみません……?」

 

 父が説明すると心底興味なさそうにタブレットに目を落とすナターシャさん。

 あ、あれ、そういう話ではない……?

 

「さすが何百年も世界防衛のために身を捧げてきた一遺族の末裔」

「本当にお黙りあそばしていただいてよろしいです? 彗さんにチクりますよ?」

「別にチクられても痛くも痒くもねぇなぁ」

「じゃあ本当にチクりますね。もしもし」

「今!?」

 

 スマホを取り出してどこかへ電話をかけるナターシャさん。

 なんとなく私たちに与えられたものとはデザインが違うスマホだ。

 そしてなにやら話したあと、スマホを王苑寺さんに渡す。

 なにか怒られている?

 

「では話を戻して具体的な話に移りますね」

「は、はい」

 

 この時点で察した。

 あ、この人逆らっては絶対にダメな人だ。



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