研修(2)
「なるほど。無実の罪を着せられて、家族連座で処刑されたのですね」
「はい。しかし、魔海で魔物に食われるはずだった我々は目が覚めたらこの町の海岸に流れ着いていたのです」
「そうでしょうね。このセンタータウンは行き場を失った異世界の善良な人間を受け入れる“受け皿”として造られた町。最近多いのだそうですよ。無実の罪で国や家から追い出される善良な人間。かく言うわたしの後輩や同期も、そういう人間が多いです。流行っているみたいですね」
「流行って……」
「は、はやっ……流行るのですか?」
「流行ることもあります」
追放が……?
困惑していると「そういう人間の“受け皿”を、この邪神の番の善神が『創って♡』って頼んだらこうして造ったんですよ」とのこと。
目が点になっていると思う。
この人なにを言っているのだ……?
「まあ、邪神の中でも創造に秀でた邪神なので作れないものはないんですわ、この邪神。ARNシリーズも彼が造ったんですよ」
「なんと!」
「こ、こんないい子たちを……!」
邪神がシルバーたちを造った!?
あんな仕事のできるいい子たちを!?
邪神が!?
「邪神邪神うるっせーなぁ。テメェだって聖女の皮を被った魔女だろうが」
「「「「え」」」」
「あら? わたし、一度も自分のことを“聖女”だなんて名乗ったことはございませんよ?」
にこり、と笑って言い返す女性。
えっと、ほししななるみさん。
でも、ライバーでもある。
ライバーの名前はナターシャさん。
どちらでお呼びしたらいいんだ……?
「あのー」
「なんでしょうか」
「ほししなさん、とお呼びした方がいいのか、ナターシャさんとお呼びしたらいいのか……その、どちらがいいのでしょうか?」
わからないので聞いてみた。
笑顔で「お好きなように。でも、センタータウンから出ないのであればライバー名の方がいいかもしれません」と言われる。
センタータウンから、出ないのであれば?
「では、ナターシャさんと」
「ええ」
「ナターシャさんも、センタータウンとは違う世界から来たのですか?」
「ええ。わたしは別に皆さんのように居場所を奪われて流れて来たわけではないのですが、確かに異世界から来ています。今は地球で仕事をしながらライバー活動もしている状況ですかね」
「地球で?」
「ええ、兼業です」
兼業……!
そんなこともできるのか。
「あの、弟のオズワイドのことなのですが」
「はい?」
「この子は体が弱くて今まで学校に行ったことがありません。可能ならば学校に通わせてあげたいのです。その、同年代の友人をつくらせてあげたくて」
「姉様」
「しかし、センタータウンの学校には子どもがこの子しかいないとシルバー……ARNたちに聞きました。それでは友人がつくれません。ここ以外に学校はないのでしょうか? 兼業ができるのなら、この子を学校に通わせながらライバー活動ができたらと思うのですが」
兼業、と聞いたら居ても立っても居られない。
私がそう言うとナターシャさんがあっさりと「それなら地球の学校に通わせればいいのでは?」と言い出す。
地球……異世界の……こことはまた別の。
「地球に……行けるのですか?」
「ええ。でもセンタータウンとは理も法律も治安も違います。センタータウンは異世界の人間の受け皿として造られているので、様々な異世界の環境にある程度近いんですよ。魔力が充満していたり、複数の属性の魔力があったりで魔法が使えます。でも地球は魔力が少ない世界なのです。わたしも元々魔法のある世界から来ましたが、体外の魔力を魔法陣で集めて使うタイプの世界の人間は魔法を使えなくなりますし、体内の魔力を魔法陣で魔法の形に変えるタイプの世界の人間も魔法は回数制限ができます。ついでに言うと魔力の回復は望めません」
「えっ……」
それって、魔力量の多いオズワイドは魔力が回復できなくなるということか!?
それでは学校に行くのは……無理?
「センタータウンから地球の学校に通うのならできるんじゃね? あんまりやってほしくはねーんだけどな。ゲートが安定している時ならいいが、空間系は不安定になりやすいし」
「そうですね。センタータウンは地球の空間から直接造った町なので、他の異世界に行く場合よりは安定していますけれど……」
「送られて来たステータス数値を見るに魔法を使わなければ月一でセンタータウンに戻れば、魔力不足で倒れることもなさそうだけどな」
「どれどれ……。ああ、本当ですね。この魔力量なら地球で生活しても大丈夫そう。翻訳魔道具があれば言語に困ることもないでしょうし」
家族全員、各々顔を見合わせ合う。
二人の会話は、月に一度センタータウンで魔力を補充できれば地球で暮らし、学校に通えると言っているように聞こえる。
オズワルドが学校に通える、と。
「本当ですか!?」
「ええ。それもいいかもしれませんが、さすがに未成年の子ども一人では無理ですね」
「それなら、我々全員で……!」
「はあ? それじゃあセンタータウンを作った意味ねぇだろうが」
「それに異世界人が地球で暮らすのって皆さんが思っているより大変ですよ。文化が全然違いますからね。わたしでも慣れるのに一年以上かかりましたし、今も驚くことばかりあります。特に皆さんはまだセンタータウンに来て一週間程度でしょう? 地球で暮らすならVtuber以外のお仕事必須ですよ。センタータウンならVtuberを務めることで色々な手当てや補助を受けられますが、地球はそんなのありませんからね。現実的ではありません」
現実的では、ない。
その言葉に家族全員がっくり項垂れる。