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死の予感 第四章  作者: Z(ゼット)
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四章

死の予感 第四章



もくじ

一.新たな挑戦

二.壮太の守護霊

三.占い師の正体

四.両親の危機

五.新たな依頼は……

六. 占い師の末路




一.新たな挑戦


壮太が働く相談所『心の窓』に持ち込まれる悩みは尽きることはなく、依然として対処に追われる日々を送っていた。

そんな中でも幸いだったのが、あの星願さんが電車に跳ねられ、亡くなってしまうという事故からは相談者の中から一人の死者も出すことなく、心の窓としての使命は全うしながら穏やかな春の季節を迎えていた。

今月から新たに始まった新年度、壮太はこれまでの活躍が認められ、市役所と警察署からある依頼を受けていた。

その依頼の内容とは、巷に溢れるあらゆる犯罪から若年層を守る、犯罪を起こさせない、それをきっかけとした自殺者や殺人者を出さないということを目的とした部署の設置だった。

その部署の責任者として壮太を推薦してきていた。

この部署を設置することになると、室内での相談だではなく、外へ出ての調査や指導をしていくことになることから、壮太には警察権限が一部与えられることになる。

身の危険を感じる威嚇行為や暴力に対して、公務執行妨害で逮捕することができたり、緊急を要する人の保護や確保が必要な場合は、警察官を待たずとも強制的な確保ができるというものだった。

心の窓と壮太は、この要請を受け入れて部署の名前を『特別依頼部』、別名『特依』と命名した。

現在まで、この部署が動くような案件というのはまだ出てきてはいない。

これまで決して平和だったとは言えないのだが、大きな問題も解決へと向かわせることができていたのだ。

そんな安堵する壮太の前に、謎多き問題を投げかけてきた相談者が現れたのだった。

その相談者は二人で心の窓を訪れ、相談の内容というのは自身の娘のことだった。

両親の見た目から受けた印象は真面目で落ち着いているイメージ。

年齢は四十代後半で、対象者となる娘は一人娘で年齢は十九歳の大学生だった。

その相談内容とは……

娘の名前は芽亜里(めあり)さん、四年生の大学に通い、今年の春からは大学の二年生になった。

その芽亜里さんに変化が表れはじめたのは昨年の秋頃からで、それは時が経つごとにエスカレートしていったそうだ。

大学一年生の終わりには、大学から「今回はなんとか進級できましたが、成績としてはかなりギリギリのところでした。次の二年はもう少し頑張っていただかないと、進級は難しいかも知れません。あと、大学の講義も休みがちですが、きちんと受けるよう両親からも注意してください」と忠告を受けてしまった。

真面目で成績優秀であった芽亜里さんに、何があったというのだろうか?

芽亜里さんは一年生の夏ぐらいから占いに興味を持ったらしく、頻繁に占いの代金が欲しいとおねだりしてくるようになっていた。

一回の占い料金は五千円なのだが、ひと月に三回以上も見てもらっていたことから、お小遣いが足りなくなっていたらしい。

両親が少し占いを控えるよう忠告したところ「私が行っている所の占いは凄く当たるの。おかげで私は何度も危険を回避することができているのよ。だからもっと頻繁に見てもらいたいと思っているし、本当はもっと高いコースで見てもらいたいのよ。そんなこと言うならわかったわ、私、バイトするから」と言って、占いをやめる選択ではなく、お金を稼いで通い続ける方を選んだのだった。

それほど占いにのめり込んでいたということだろう。

それから芽亜里さんは、おそらく飲食店でのバイトをはじめたようでしたが、両親は働いているお店の名前までは知らない状態だった。

そんな状況が二ヶ月ほど続いた頃から、芽亜里さんの様子に少しずつ変化がみられるようになった。

芽亜里さんの帰宅時間は以前よりもかなり遅くなり、学校が休みの日であっても一日中家に居ないということが当たり前のようになった。

帰宅時間が深夜であっても、ずっと誰かと電話で話をしていたりもした。

両親は芽亜里さんに彼氏でもできたのだと思ったが、それに対し反対するというよりは、その方が良い方向に進むのではないかと考えていた。

両親としては、その彼氏が良い人であって欲しいと願うのと同時に、学生生活を大いに満喫して欲しいという希望も持っていた。

しかし、それは時が経つにつれ違うのかなと感じるようになってきた。

芽亜里さんの生活環境が、とても良い方向に向いているとは感じられなくなっていたのだった。

家に帰宅しないことは更に増え、ただでさえ少なかった親子の会話は殆んどなくなり、珍しく帰宅した日であっても両親とは挨拶すら交わさないようになっていた。

こんな状況が続き、両親は娘のことが心配になり困り果て心の窓を訪れていた。

「それは心配ですね。お母様、芽亜里さんが宿泊している場所はおわかりでしょうか?」

「それがさっぱり……全く検討もつきません」

「そうですか。それではバイト先、それに占いは何処で見てもらっているのか等、何か心当たりはありませんか?」

「バイトや占い師について会話は全くしてくれませんので、申し訳ございませんが分かりません」

「ご両親からお話を聞く限り、いくつか犯罪に繋がる可能性のある要素を確認いたしました。この相談内容はレベルを上げた調査が必要であると判断します。この件は特別依頼部の案件として調査していきます」

「特別依頼部? ですか?」

「はい、特に犯罪を防ぐ部署になります」

壮太は芽亜里さんの両親に、特別依頼部の使命と内容を丁寧に説明し、最後に両親から芽亜里さんの写真を含めた個人情報を頂き、正式に調査の依頼として受けた。

特依としては、これが初の依頼となったのだった。

壮太は今回の件で、気になる点をいくつかピックアップしてみることにした。

① 大学の出席率の確認

② バイト先の調査

③ 占い場所の洗い出し

④ 宿泊先の調査

⑤ 交友関係の調査

両親から相談を受けた日の夜、壮太は芽亜里さんの母親に電話を掛け、芽亜里さんが帰宅しているかの確認をしたのだが、この日も自宅には帰って来てはいなかった。

壮太はピックアップした内容を確認していくには、芽亜里さんを尾行することが得策だと考えていたのだが、姿を見せない限りは不可能なことであった。

「仕方がない、明日は芽亜里さんが通っている大学に行ってみるか」

芽亜里さんが通う大学は誰もが知る、成績優秀な名門大学だ。

壮太は自分が警察と役所から依頼を受けているという証明書を大学側に提示し、事情を話してから芽亜里さんの情報を得る承諾を受けた。

この日も芽亜里さんは大学には来ておらず、壮太は大学側にお願いをして更に調べてもらった結果、驚くことに、二年に進級してからは一度も学校に来ていなかった。

それであれば芽亜里さんは、家にも戻らず大学にも行かないで、一体どこで何をしているというのだろうか。

念のため芽亜里さんが親しくしている交友関係のことを訪ねてみたのだが、それについて大学側は一切把握していなかった。

「夕方ぐらいまで、大学内で学生から聞き取り調査をさせてもらいたいのですがよろしいでしょうか?」

「わかりました、事務局の者を帯同させ案内いたします」

「ありがとうございます」

事務局案内のもと、二年の生徒を中心に聞き取りをしてみたのだが、芽亜里さんと親しくしているという生徒に会うことはなかった。

それどころか、芽亜里さんを知っているという人が殆んどいないことに驚いてしまった。

「この調査はかなり厳しいものになりそうだ」

その中でも一人だけ、芽亜里さんのバイト先を知っているという生徒に話を聞くことができた。

「一年の秋の話ですけど、芽亜里は『(きつね)』という居酒屋で働いていると言っていましたよ。その後は芽亜里も忙しいようで、殆んど会っていないですけど」

やはり芽亜里さんは居酒屋で働いていたようで、その店の名前まで知ることができた。

壮太はスマホで狐という居酒屋を検索し、その店を訪ねてみることにした。

居酒屋 狐の店構えは古風で小さなお店でしたが、まだ開店前という時間であり、店頭には仕込中という看板が掲げられていた。

入り口の扉に手をかけてみると鍵は掛かっておらず、扉を開けてみると店の奥の方では店主と思われる男性が料理の仕込みをしていた。

「お忙しいところすみません。相談所心の窓の犬走と申します」

壮太はこの店を訪れた成り行きを説明し、警察からも許可をもらい活動しているということを伝え理解してもらった上で、店主から話を聞くことができた。

「芽亜里ちゃんね、覚えているよ。しかし変わった子だったよね」

「だった、ということは、今は働いていないということですか?」

「そうだよ。ここで働いていたのは二ヶ月ぐらいで、短かったよ」

「その後はどこかで働くとか、私生活で何か変化があっただとか、そういう話はしていませんでしたか?」

「そういうことは一切話さない子だったね。ここで働きたいという理由だけは言っていたけどね」

「芽亜里さんは一体どんな理由で働きに来たのですか?」

「そこが変わった子なんだよ。何だか占い師に、狐に関係する場所で働いてお金を稼ぎなさいと言われたので、居酒屋 狐で働きたいと言って来たのさ。不思議な子だが、面白い子だと思って雇うことにしたのさ」

「狐? それが理由ですか。それも占い師に言われたから?」

「そうらしいよ。占い師のことはとても信頼しているのだろうということは、芽亜里ちゃんの表情から見ても分かったよ。週に二回は相談に行くって言っていたからな。占い師の話をする時だけは何かに乗り移られたかの様に目つきが変わった。一瞬で狐みたいな目、それも瞳孔をカッと開いたかのような目で話をしていたよ」

「狐の目ですか、私が両親から頂いている写真からは想像がつきませんね。それも一瞬で変わるとは……」

「あれは不思議だったね」

「芽亜里さんが行っていた、占い師がいる場所について何か知りませんか?」

「彼女もどこの占い師とまでは言ってなかったが、よく当たると評判の店とは言っていたよね。当たると評判の店を調べたら辿り着くのではないですか」

「調べてみます、ありがとうございました」

両親から貰っている情報と、居酒屋から聞いた情報の共通点、それは占い師だった。

占い師、それもよく当たると評判の占い師、その店を探すため壮太は、一旦心の窓に戻り、ネットで検索することにした。

「結構あるな、この中から芽亜里さんが行きそうな所をピックアップするしかないか」

検索からヒットしたのは十件だったが、芽亜里さんの自宅、それと大学の位置関係から考えると、有力だと思われるものは三件にまで絞り込むことができた。

その中でもずば抜けて評価が高い占い師が一人いた。

壮太は心の窓から退社する前、芽亜里さんの自宅に電話をして帰宅の有無を確認したのだが、やはり今日も帰宅はしていないとの返事が返ってきた。

明日壮太は、この三人の占い師の元に行くことになるのだが、ずば抜けて評価の高い店、そこはやはり一番の有力候補になるだろう。





二. 壮太の守護霊


翌日の朝、壮太は心の窓で資料を揃えた後、先ずは一番気になっている占い師の店へと向かって行ったのだが、その店の前には本日休業という看板が掲げられていた。

壮太はこの状況を残念に思いながらも、その店の周辺から発せられる何とも言えない雰囲気に嫌な違和感を感じていた。

それと店の周りだけがモヤでもかかった様にも見えていた。

壮太としてはとても気になる所だったのだが、仕方なく残る二軒の店へと向かうことにした。

最初に到着した店は、外まで人が並んでいる人気店だった。

そんな人気ある店に、こちらの調査ということだけに時間をいただくことに罪悪感を感じた壮太は、自分も列の最後尾に並んで、占いとして見てもらう時間の中で聞き取り調査をさせてもらい、占いの料金を支払うことにした。

二軒目の店も同じような状況で人が並び、結局、二軒で合計で五時間もの時間を使い調査は終えたのだが、どちらの店も芽亜里さんのことは知らず不審な点も見当たらなかった。

「今日休みだった店は、明日の夕方にでも寄ってみるか」

今日の調査から手掛かりに繋がるものは全くなく、芽亜里さんが自宅に戻っていないという状況にも変わりはなかった。

翌日は心の窓に、たくさんの相談者が訪れていた。

壮太も夕方までは忙しく相談者の対応に追われていた。

心の窓の相談窓口受付終了時刻は午後四時、この日最後の相談者を対応したあと、昨日休業していた占い師の店へと出向いて行った。

壮太が店に着いたのは午後の六時を少し過ぎた頃だった。

店の前には三人の客が並んでいたことから、今日は営業しているということが分かった。

「また並ぶしかないか。店の名前は、未来の館だな」

昨日の店と同じ様に列に並びはじめた、その時! 目の前である異変が起こっていた。

「何だあれは!」

並んでいる一人の人の背中付近に、体の大きさの割にはしっぽが異常に太い狐の様なものが付き纏っていたのだ。

占いを終え外に出て来た客にも、同じ様な奇妙な物体が取り憑いていた。

「あれは何なのだ?」

列に並び順番を待つ間にも、店の入り口付近には無数の奇妙な物体がうろついていた。

「奴らと目を合わせないように気をつけなければ。俺が奴らの存在に気付いていることが分かれば大変なことになってしまう。それに奴らの数、尋常ではない」

いよいよ壮太の番になり建物の中へと案内されたのだが、店内には圧迫感というか威圧感、それに壮太としては息苦しさもあった。

「何を占えば良いですか?」

占い師は女性で、年齢は四十代ぐらいの落ち着いた感じの方だった。

「あのーー、その前に一つだけよろしいでしょうか?」

「何ですか?」

壮太は鞄から一枚の写真を出して「この女性ですが、こちらで占ってはいないでしょうか?」

「どれどれ、確かに、何度か占っていますが、それが何か?」

「そうですか、実はひと月前から自宅に戻っていないので、両親が心配していまして……出来れば居所が知りたいのですが」

「それを私に言われても困ります。ただ、この子の両親には、邪悪な霊が取り憑いていることから、両親を避けているのではないでしょうか」

「両親に邪悪な霊?」

「はい、私には霊感があり、それが分かるのです」

「私は両親にお会いしたことがありますが、その様な者が取り憑いているとは思いませんでしたが」

「あはは、貴方は素人でしょう、貴方に分かる訳がありませんよ。貴方も気をつけた方が良さそうですね。特に火の取り扱いには気をつけてください」

占い師がそう言った時、占い師の後ろにいた狐もどきの霊が、スッと壮太の背後に回ろうとしていた。

壮太はそれと目を合わせないよう、占い師にはそれに気づいていることを悟られないように注意した。

「うわぁーー!」

壮太の背後から叫び声のようなものが聞こえたのだが、これに対しても一切反応しないようにするのは至難の業であった。

「誰だ!」占い師が叫んだ、予想外のことが起こったのであろう。

「どうかしましたか?」

「貴方の後ろにいるのは誰ですか?」

「何のことか、私にはさっぱり分かりません」

「ならば私が直接聞く。お主は誰だ?」

龍仙郎(りゅうせんろう)だ」

「龍仙郎? ここへ何をしに来たのだ?」

「私はこの者を護っているだけじゃ」

「邪魔をするとは、許さん」

占い師はそう言って、自身が仕えている霊三体をこちらに向けて飛ばしてきた。

それを龍仙郎はいとも簡単に追い払い、そのうち一体は姿すら消し去ってしまった。

それを見た占い師は力が抜けてしまい「もう良い、お主らは帰れ!」と退散させるしかなかった。

このやり取りの全てを見聞きすることができた壮太だが、一切の反応をすることなく、占い師は壮太に霊感があるとまでは気づいていなかった。

あくまでも壮太の後ろにいる霊のレベルに驚いていた。

このことがきっかけで壮太には、龍仙郎という守護霊が憑いていることが分かった。

前に壮太を指南し、助けてくれたのも龍仙郎であったのだろう。





三.占い師の正体


今回の訪問で芽亜里さんと関わりある占い師は、未来の館であることが分かった。

それも低級霊を使い、悪さをしているということも分かったのだ。

おそらく芽亜里さんにも低級霊を憑けられ、何らかの洗脳を受けているに違いない。

翌日、芽亜里さんの両親が心の窓を訪れて来た。

前日の夜は久しぶりに芽亜里さんから電話があり、声を聞くことができたのだが様子がおかしく、両親に対して反抗的な態度を取っていたそうだ。

『うっ、臭い! 両親からあの死のニオイが出ている』

この数日の間で、この両親に何が起きたというのだろうか?

「電話で芽亜里さんは、今は何処にいると言っていましたか?」

「それは教えてくれませんでした」

「反抗的な態度と言われましたが、芽亜里さんは具体的に何を仰っていたのですか?」

「芽亜里に近づくなと……そして私達のことは悪の根源だと言い、自分のことを不幸に陥れようとしていると言っていました」

「芽亜里さんは洗脳されたような状態であると予想されます。実は昨日、芽亜里さんが会っていたと思われる占い師と会いました。その店は余り良いとは言えないようなお店でした。今の状態も、その占い師が絡んでいる可能性が高いのですが、両親に危険が及ぶ可能性があるためお伝えすることは出来ません」

「何故ですか、是非教えてください。私達に対する誤解を解きに行きたいです」

「そこは、かなり危険な場所だからです」

「そうですか……」

「また進展がありましたら情報共有いたしましょう。危険な事柄でなければ、必ず開示いたしますので」

両親はモヤモヤした納得のいかないような様子を見せていたが、引き続き壮太を信じ、芽亜里さんのことを任せてもらうことになった。

壮太はこの日から、疑惑の占い師がいる未来の館の張り込みをおこなうことにした。

先ずは芽亜里さんを見つけ、様子を伺いながらにはなるのだが、行動範囲の確認、若しくは確保することになるだろう。

壮太が張り込みを始めてから三日目、未来の館はその日の営業終了の間際に、翌日の休業を知らせる看板を掛けていた。

壮太は占い師に気付かれないよう、細心の注意を図らい尾行することにした。

壮太は自分の身を護るため、気配をなるべく消して欲しいと守護霊である龍仙郎にお願いをした。

そのおかけで尾行は占い師に気付かれることなく、無事に占い師の自宅まで辿り着くことができた。

占い師の自宅は店から徒歩で十分と、意外にも街の中に家を構えていた。

それよりも驚いたのはその家の大きさと立派さ、玄関には大きな看板も掲げられていたのだが、そこには『御霊教 総本部』と書いてあったのだ。

「これって宗教までやっているってことなのか?」

壮太は占い師の自宅を知ることができたことに加え、占い師は御霊教という宗教にも絡んでいることが分かった。

明日は占いの仕事は休みということを考えると、自宅である宗教総本部では何かの大きな動きがあるかも知れないと考えていた。

壮太は明日の朝早くから、占い師の自宅近くで張り込みをおこなうことにした。

壮太は芽亜里さんが宗教に絡んでいなければ良いと願う反面、この機会に芽亜里さんを見つけ、家に帰すことができたらとも思っていた。

翌日壮太は朝六時から張り込みを始め、それから一時間ぐらい経った頃から占い師の自宅目掛けてたくさんの人が集まって来た。

その中に芽亜里さんはいないかと、壮太は目を凝らしながら集る人をチェックしていた。

いた! 芽亜里さんだ。

その姿は吸い込まれるように占い師の家に入って行ってしまった。

時間は八時を迎え、家の中からは太鼓の音が聞こえてきたことから、中では何らかの宗教行事が始まったのだと思われる。

昼の十二時を過ぎた辺りに太鼓の音は止み、次第に家の中から人が外に出て来た。

壮太は出て来る芽亜里さんを見つけ尾行しようと張り込みを続けていたのだが、出る来る人の中には芽亜里さんの姿はなく、そのうち人の列は途切れてしまった。

それから約一時間が経った頃、中から一人だけで出て来た人がいたのだが、それが芽亜里さんだった。

猫背になり一見元気がなさそうに見えるのだが、目は瞳孔が大きく開きギンギンに殺気立っている、中で何かあったのだろうか?

その姿は、危険な薬物でも接種したかのようであった。

この状況を異常と感じたのか、守護霊である龍仙郎が壮太に話しかけてきた。

「あの娘は今は危険な状態にある。お主に危害を加える可能性があるから、お主は直ぐこの場から離れろ。私があの娘の状況を探ってくる。私が主から離れると危険が一層増してしまうことになるから、一刻も早くここから立ち去るのだ」

「わかりました」

龍仙郎が忠告をした通りに、壮太は張り込みをしていた占い師の自宅付近から急いで移動して行った。

龍仙郎は三体もの奇妙な霊を憑けて歩く芽亜里さんの後を、完全に気配を消した状態で尾行をしていた。

それと同時に芽亜里さんの脳内にも入り込み、残っている記憶から色んなことを探っていた。

これにより芽亜里さんのこれまでの経緯や、今なにを考えているかということまで分かることになる。

龍仙郎は芽亜里さんに気付かれることなく自宅まで尾行した後、大急ぎで壮太の元に戻って行った。

それには大急ぎで戻らなければならない様な理由があったからだ。

龍仙郎は先ず最初に、尾行して分かった芽亜里さんが住んでいる住所を壮太に伝えた。

「それでは一刻も早く両親に知らせなければいけませんね」

「いや、待て!」

はやる気持ちで答えた壮太を、龍仙郎は強い口調で押さえた。

「先ずは私の話を最後まで聞け」

そして芽亜里さんの脳内にある記憶から得た情報を壮太に伝えた。

芽亜里さんがあの様な状態になったのには其れなりのきっかけがあり、それに関してはは占い師に見て貰ってからということで間違いないはないであろう。

今はそれがかなりエスカレートしてしまい、占い師のことを崇拝するまでになり、人格まで変わってしまっている。

今は大学には行かず、これまで幾つものアルバイトを掛け持ちしていたようなのだが、アルバイトで稼いだお金は全て占いに使用していた。

芽亜里さんの気持ちはそれだけでは足りず、占い師にもっと近付きたいとの想いから御霊教に入信していった。

そして入信した頃から占い師に言われはじめたことがある。

芽亜里さんの両親は邪悪な霊に取り憑れていて、その霊は普通に取り除くことができないレベルになっている。

このまま両親と生活をしていると、芽亜里さんの人生は必ず良くない方向に進んでいくだろう。

芽亜里さんは親から離れて暮らすか、若しくは近づかないようにしなければならないと言われた。

そうしないと芽亜里さんには、大きな災いが訪れることになるだろうと。

これからは今まで以上に、もっとたくさんの献金をしていきなさい。

そして幸せになりなさい。

そこから更にもっとたくさんの献金ができるようになれば、この私がより強い力を開花させ親の霊を取り除くことが可能になるだろう。

そうすれば、一生安泰の身を手に入れることができる。

そのためにはもっと稼ぎなさい、男は皆んな狐よ、と言われる。

最初は親が思っていた通り居酒屋でアルバイトしていたのだが、普通のアルバイトでは献金額を賄うことができなくなり、やがてパパ活に走り、今では全ての収入がパパ活から得たものになっている。

占い師の本業は宗教団体『御霊教』の教祖、芽亜里さんから毎月流れていたお金は五十万という大金だった。

そのお金の一部は反社会的勢力に渡っていたのだが、それは対立していた巨大な宗教団体『珠泉教団』の嫌がらせから身を守るためのものらしい。

現在の芽亜里さんには、三体もの悪い霊が取り憑いている。

それを憑けたのはあの占い師であり教祖なのだ。

占い師が飛ばすのは負の霊、その姿は狐に近いが尻尾は太くて大きい、この世には決して存在しない形をした低級霊なのだ。

この低級霊というのは、死んでもなお金の欲を捨て切ることのできない成仏できていない霊が集まりで、人の形など為していない。

自分のことを教祖と崇める信者を作るために霊を飛ばし、その霊を使い予言した通りの災いをその人に与えて信じこませていた。

あの占い師の予言は当たるという噂は次第に広がり、自ずと信者は増え、占い師は私腹を肥やしていっていたのたが、実はこの占い師には更なる強力な霊が取り憑いているのだと考えられる。

今日、芽亜里さんだけが最後まで建物に居残り、あのような状態で帰っていたのには訳があるのだ。

あの時に芽亜里さんは教祖から言われたことがある。

それは教祖から、両親を殺害するよう指示されているのだ。

両親に取り憑く霊はとても手に負えない状態になってしまった為、一刻も早く手を打たなければ芽亜里さん自身が、一生不幸に陥るのだと告げられていた。

これを聞いた芽亜里さんの気持ちとしては、教祖から言われた内容を本気でやり遂げようとしているのだ。

占い師からすれば両親のこともそうなのだろうが、おそらく私達の存在も目障りなのだろう。

だから事を急いでいるとしか思えない。

龍仙郎から伝えられた内容はこの様なものだった。

両親には芽亜里さんが住んでいる住所を教えてはいけなかったのは、両親が訪問すると殺されてしまう可能性があったことから龍仙郎は避けたのだ。

「壮太よ、両親の家に行くぞ。これは一刻を争う、急がなければならない」

壮太は即座に芽亜里さんの実家へと向かった、芽亜里さんがまだ到着していないことを祈りながら。





四. 両親の危機


出発してから三十分ほどで家に到着したのだが、外から見る限り家に変わった様子はなかった。

チャイムを鳴らすとモニター越しにお母さんと話もでき、ここはひと安心といったところだった。

壮太は家の中にお邪魔させてもらい、芽亜里さんの現在の状況である、占いと宗教にのめり込んでいることを伝えたのだが、霊が取り憑いていることやパパ活、それに両親の命を狙っているという内容は伝えることを避けた。

「娘は宗教にのめり込んでいるとなると、もしかして大金を納めているのではないでしょうか?」

「詳細はまだ分かりませんが、可能性は大いにあると思います」

「では、そんな大金を娘は、どう工面しているのでしょうか?」

「それはアルバイトだとは思いますが、詳細までは分かっていません」

「私どもがアパートまで行って、娘を連れ戻します」

その時! 「ピンポーン」モニター越しに玄関を確認すると「芽亜里! 帰って来たのね」そっと頷く芽亜里さんが映っていた。

「壮太、危険だ!」龍仙郎が叫んだ。

「お母さん待ってください! 開けないでください」

「娘が帰って来たのですよ、なぜ開けてはいけないのですか?」

「わかりました……それでは私も一緒に玄関まで行きます」

壮太は不安を抱えながらも、玄関の扉の向こう側で待つ芽亜里さんと対峙することになった。

「お帰りなさい、キャァッッーー!」

扉が開くと芽亜里さんは手にしていた包丁を突き出してきた。

「壮太、マズいぞ」

壮太は立ちすくむ奥さんの手を引き、家の中へと誘導した。

「ちくしょう」

芽亜里さんも後を追いかけるように、靴を履いたままの状態で中へ入ってきた。

「芽亜里さんは私が食い止める」

龍仙郎は壮太から離れ、芽亜里さんの前に立ちはだかり、後ろで操る三体の霊に攻撃を仕掛けた。

「邪悪な低級霊め、そんなに金の欲が捨て切れぬのか? 二度とこの世界に戻れないようにしてやる」

龍仙郎は剣を抜き、前に出てきた霊を一刀両断した。

続けて後ろに控えていた二体の霊を切るため、芽亜里さんの頭上高く飛び上がり、上から切り捨てた。

霊から解き放たれた芽亜里さんはぐったりとし、その場で倒れ動かなくなってしまった。

「もう大丈夫だ。壮太、両親に霊が取り憑いていたことを話してくれ。霊は全て私が退治した」

壮太は両親に、芽亜里さんが刃物で攻撃をしてきたのは、占い師である教祖が悪い霊を取り憑けていたことに原因であり、芽亜里さん自身は一切悪くないという説明をした。

「心配ですので、芽亜里さんが起きるまでこちらに居ても宜しいでしょうか?」

それから二時間後、芽亜里さんが目を覚ました。

芽亜里さんは涙を流しながら両親に謝ったのだが、両親を殺そうとした記憶は一切なかった。

あの時の芽亜里さんは、完全に低級霊から支配されていた状態だった。

芽亜里さんには一週間ぐらいの静養が必要で、大学の復帰はその後になりそうだ。

今後も心の窓が相談役となり協力をしながら、芽亜里さんの心のケアを手伝っていくことになる。





五. 新たな依頼は……


芽亜里さんが占い師から開放された三日後、ある相談事が心の窓に持ち込まれたのだが、それを持ち込んできたのは、なんと警察署であった。

この相談にはある犯罪が絡んでおり、現在も警察が操作中なのだが、犯罪のこと以外は警察官には何も話してくれないのだと言う。

お金も無くなり生活が困難なため、もろもろの手続きをして欲しいという要望と、草野さんが心に抱える深い闇、それを何とか聞き出して欲しいというものだった。

警察官に同行されて来たその対象者からは、あの死のニオイがしていたのだった。

対象者は年齢が四十二歳の独身女性で、名前は草野 輝子さん、これまで正社員として働いていた。

草野さんは裕福とまでは言えないのだが、親から受け継いだ財産が二千万ほどあり不自由のない生活ができていました。

あの詐欺に遭うまでは……

この女性が騙されたのはロマンス詐欺、相手は三十代の韓国人で、職業は不動産業を経営するチェと名乗るイケメンだった。

出会いのきっかけはマッチングアプリ、やり取りの殆んどはラインで、片言の日本語を使っていたそうだ。

そのチェさんが言うには、韓国での不動産事業には未来がなく先細りの事業になっていることから、今後は日本で不動産事業を開業して絶対に成功させ、将来は日本で永住したいと考えていた。

だから出会いを作るなら日本の女性と決めてアプリに登録したそうだ。

その彼は早い段階から草野さんのことをハニーやベイビーと呼び、その呼ばれ方ですっかりメロメロになってしまったそうです。

やがて彼は、草野さんと結婚して日本で暮らしたいと口にするようになり、今後は二人で住む家も探していきたいとも言い出した。

更にハニーを幸せにするためには、早めに日本で事業を立ち上げ、絶対に成功させなければならない。

ただ日本で不動産業を開業するには多額の資金が必要になるのだが、現在保有している自己資産では少し足りないのだと言った。

毎回のように彼から送られて来る写真からは、裕福な暮らし振りを伺い知ることができていたのだが、彼は今から一緒に投資をはじめて資金を貯めていかないか? と持ち掛けてきた。

彼からは、最初は不安だと思うからハニーは少額からでも大丈夫だと言われ、彼のためと思いさっそく五万円を振り込んだのですが、それは直ぐに利益が出てお金も下ろすことができました。

その後は少しずつ振り込む金額を増やしていったのですが、毎回のように利益が出て全く問題はありませんでした。

彼は早く日本に行って私と結婚したい、ハニーと一緒に暮らしたいと頻繁に言って来るようになり、投資する金額をもっと上げてみないかと言ってきました。

彼は自分が投資する金額を五千万円にするから、私にも思い切って金額を上げてくれないかと要求してきました。

これまでの投資では毎回利益も出ていたことだし、彼が五千万円も出すというのならと私は二千万円を投資することにしました。

彼が送って来てくれる情報では、私達二人が投資した七千万円は、現在は一億円に膨れ上がっているのだと言っていました。

そして彼は、大きな利益が出たので一度お金を下ろそうと思っていると言ってきたので、私もそれが安全だろうと返答しました。

しかしそのお金を下ろそうとするのですが、税金や手数料だといって二百万円の追加金を納めない限りお金を引き出すことが不可能になっていました。

彼からは申し訳ないが追加金を支払って欲しいとお願いされ、私としても彼よりもかなり少額投資だったことから、仕方がないかとの思いから追加金として二百万円を振り込みました。

しかし、それでもお金は引き出すことができず、更に追加の要求をしてきたので彼を突き詰めたところ、もう君とは残念だけどお別れだ、と一方的に連絡を絶ってしまった。

その後、彼とは連絡が取れなくなったままです……今となればあれは詐欺だったのかと、ようやく理解することができるようになったそうです。

警察からは生活保護の手続きや、住まいの提供してあげて欲しいとお願いされたのだった。

それ自体は全く問題のない事なのだが、気になるのは死のニオイ、何故、草野さんからあのニオイがするのだろうか?

「草野さん、他に気になっている事はありませんか?」

「大丈夫です。プライベートな問題はありますが、それについては何も話したくありません」

「そうですか、何かあったらいつでも相談に来てください」

「ありがとうございます」

壮太は草野さんのニオイが気になりながらも、プライベートの問題であると内容までを明かさない限り、壮太としては何もすることができなかった。

それから二日後のこと、テレビでは草野さんが交通事故に遭い亡くなったことがニュースで流れていた。

この事故を目撃した人からの情報によると、草野さんは道路を歩いている最中、体調不良からなのだろうか突然よろけて車道に出てしまい、走行していた車に跳ねられてしまったようだ。

草野さんを跳ねた車は制限速度を守り走行していたのだが、余りにも突然のことで回避することができずに衝突してしまい、草野さんは打ち所が悪くほぼ即死の状態だったそうだ。

奇しくも壮太の死の予感は的中したことになるのだが、草野さんの命を助けることはできなかった。

ほんの少しではあったが草野さんと関わりを持った壮太は、警察に許可をもらい草野さんの遺体が安置されている場所への入室が許された。

実はこのことは、龍仙郎が強く希望してのことだった。

龍仙郎は遺体の側にいる草野さんの霊魂と会話をおこない、この死の真の原因究明をするつもりなのだ。

やがて龍仙郎は、草野さんとの会話をはじめた。

そしてやっと、草野さんは心に秘めた想いを語りはじめた。

「心の窓に相談に伺った際に、お伝えできなかった事があります。実は私、ある宗教に入信しておりました。その宗教とは、御霊教です。母を亡くしてとても不安な時期に、占い師に占って貰ったこと、それがきっかけなのです。その占いが余りにも的中するので、私はその占い師を完全に信用してしまい、その人が教祖の御霊教に迷うことなく入信いたしました。毎月の献金額は十万ほどで決して安くはないのですが、あの時の私には払えない額ではありませんでした。ただ、私は詐欺の被害に遭ってしまい、財産の全てを失ってからは献金することもできず、教祖は私に対して怒りをぶつけるようになっていました。そんな時に、この様な事故に遭ってしまいました。私は道路を歩いていた時に、後頭部を殴られたというよりは蹴られたというくらいの衝撃を受け、意識がもうろうとし車道に出てしまいました。私はあの教祖に殺されたのだと思います」

「草野さんとお話をしている間、草野さんが体験した全ての場面を映像として見させてもらいました。草野さんは殺されたのです。御霊教の教祖が放った悪霊によって。私が必ず仇を打ちます。こんな事がまかり通る世の中にしては決していけない」

「私は死んでしまいましたが、この様な人が二度と出ないようにしてください」

「わかりました、必ず」

草野さんと龍仙郎のやり取りは全て壮太にも伝わっていた。

「どうしますか?」

「草野さんを殺した霊を見つけ出し成敗する」

龍仙郎の脳裏には、草野さんを死に追いやった霊の姿がしっかりと焼き付けられていた。

「壮太よ、占い師の所に行こう」

念のため龍仙郎は、壮太に対して結界を張った。

あの教祖で占い師が経営する占い未来の館は、今日も相変わらず繁盛していた。

この日も列を並ぶ者にも、占いを終えて出て来る者にも、奇妙な霊が背後に憑いていた。

「相変わらずアコギな商売してるな」

「そうですね。あの霊達が占い師の予言した通りの災難を与えるのですから」

壮太は列に並び、占い師と対峙するその時を待った。

順番が回り壮太が建物の中に入った瞬間「またお前らか、出て行け!」占い師が叫んだ。

「見つけたぞ!」

龍仙郎は占い師の後ろに控えていた十数体もの霊の中から、草野さんを死へと陥れた霊を見つけた。

龍仙郎は素早く剣を抜き、その霊目掛けて飛び上がった。

「うわぁーー」

一刀両断、悪霊は龍仙郎の剣で霊界に送り込まれた。

その場所は勿論、地獄だ。

龍仙郎は怪しい姿をしている別の霊にも目を向けたのだが、その霊は震え恐れ慄いていた。

龍仙郎はその霊から記憶を抜き去り調べてみると、とんでもない悪態を働いていたことが分かった。

この霊は凶悪な行為を実行する担当者であり、占い師の言うことを聞かない者や信じない者は容赦なく殺してしていたようだ。

お金を払わなくなった者も用無しだと、その一家全員に対して罰を与えるなど、強権的なやり方もおこなっていた。

三ヶ月前に起きた五人家族、一家全員が亡くなるという痛ましい火災は、家族の不注意で出火したものではなく、占い師の指示で動いたこの霊による犯罪であったのだ。

しかし、これを犯罪として立証することは不可能である。

龍仙郎はその凶悪な霊をこの場で成敗することを決め、逃げようとする霊を捕まえ斬り捨てた。

今日はここまでが限界と判断した龍仙郎は、悪霊達の行動制限と、今後は客が寄り付かなくする目的で、この場所に結界を張った。

明日は御霊教の総本部にも同じ様に結界を張り、悪霊達が肥やしとしている見返りである献金を断つ事で、悪霊の忠誠心を削ぐという作戦に打って出る。

その効果は即時に表れ、占い未来の館にも御霊教の総本部にも、人は全く集まらなくなり献金は途絶えていった。





六. 占い師の末路


見返りを貰うことができなくなった悪霊達は、主人である教祖から徐々に離れはじめた。

そして、その教祖にも変化が表れはじめた。

教祖の身体を借りて悪さをしていた主である霊が、見返りが望めなくなってしまった教祖の身体から離れようとしていた。

「お前はもう用無しだ」

教祖は強力で凶悪な霊が離れて行ったことで、自身を護る者はいなくなり、今まで自分がおこなってきた数々の悪事、それに自身に仕えてはいたが残存に扱ってきた悪霊が束になり一気に、ブーメランとなって自らに返って来たのだ。

自らが下していた残虐な指示の数々、それにより殺害された者達の霊が一気に教祖に押し寄せてきた。

霊は皆、教祖の身体に油をかけ、全身に油を纏ったところで燃え盛る火の中に突き落とした。

もがき苦しむ教祖を一度火の中から出すが、身体中で燃えている火は塩水をかけ消した。

焼けた肌に塩水をかけられ鬼の形相で苦しむ教祖に、また油をたっぷりとかけて火の中に突き落とした。

この残酷な行為を三度繰り返したところで教祖の反応はなくなってしまった。

それでも恨みの塊である霊達の怒りは収まることを知らず、再び燃え盛る炎の中に教祖を放り込んだのだ。

御霊教の教祖だった女は、その姿形が完全に消えて失くなってしまうまで、これが続いたのだ……。

壮太はこの事実を龍仙郎から聞いたのだった。

次はどのような相談内容が壮太を待っているのだろうか。



第四章 おわり



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