万年筆
ガタン…!大きい音と同時に揺れる馬車の中。馬車と聞くと優雅なものかと思うけど乗り心地は結構酷くて、くつろげる様な感じではない…。
肘を窓の枠についてガラス越しに反射で見える今の自分の顔を見る。
「はぁ…」
今朝は危なかったなぁ…濃いメイクされそうになるしソバカスを書かれそうになるし朝からビックリするような事ばっか!申し訳ない気もあったけど変な風にされても困るしで最終的には自分でやったけども。
「お嬢様、明日から寮で生活するようになりますが今日のうちに買っておきたいものなどございますか?一応、娯楽品などの持ち込みも大丈夫なようですよ」
向かいに座っているラナがリスト表であろうメモ帳を持って聞いてきた。
寮に持って行くものか、前世では娯楽の代表的存在のゲームとか漫画ばっかだったからやりたいけどこの世には無いかなぁ。アハハ…既にブルーライトが恋しいよ。あの寝起きに見たら目に染みる感覚が。
ゲームとかは無理だから、この世界でしかも寮で出来るのってなんだ?一応、漫画の再現飯はして楽しかったしこのまま極めてみようかな!あと手芸もそれなりにはできるし。
「そうねぇ…寮での生活だから料理と手芸がしたいわ」
「料理でしたら生徒が使える調理場があると聞いたので出来ますよ」
「なら良かった。何を作ろうかしら…」
調理場はヒロインの子がバレンタインで使っていたからあるっていうのは知ってる。それにしても貴族の子供たちが集まる学校なんてどんな感じなんだろ。例えばダンスパーティーとか?
窓の先は静かな野原の風景からだんだん活気のある街の景色になってくる。歩道を見ると綺麗に着飾った年配の女性や荷物をお付きの人に前が見えないんじゃないかぐらい持たせている親子のお父さん。
路肩に停車して少しすると馬車を運転していたおじ様がドアを開けてくれて、先に私がが降りる。
なんだか高級店が建ち並ぶ商店街という感じ。
「うーんっと!」
うん。やっぱり馬車より車が一番。
思いっきり背伸びをして辺りを見渡すと店の上に付いている看板が目に入る、今まで見たことない文字だけどこのこの体の持ち主の記憶があるからか読めるという不思議。ありがたや…。
「お嬢様まずは文具屋から見に行きましょうか…」
「えぇ、そうしましょ」
♢
「教科書とノートその他必需品は後で学校のほうから支給されるようなのでそれ以外の物を選びましょう。」
静かな店内の商品を見て回ると深緑の万年筆を見つけた。
ひえぇー!社長さんとかが持ってそうな高そうな万年筆!!恐る恐る手に取ってみるとそこらで買っていたボールペンとは違うずっしりした重み。そして光で輝くちりばめられた紫の宝石が綺麗。だけどなんの宝石?
「お嬢様その万年筆が気になりますか?」
「うん」
「他にもデザインが違うものや色違いなどがございますがどうでしょうか」
「ずーっと使うものだし一番最初に持った物がいいじゃない。だからこれ」
二人で照らされ綺麗に光る万年筆を見る。どこから見ても美しい、宝石の付いた万年筆。
もし元居た世界で、しかもこんな高そうなのお給料で買えるわけないし侯爵令嬢って金銭面では有難い!その代わりに礼儀だの作法だの社交会なんだのって、元の私とは無縁のようなものが必要になったけどね…。
まぁ?!順風満帆な学校生活…は待っていないわね。あの面食いのクソみたいな婚約者がいるし。
「それではついでに他の勉強道具は逸品を選ばせて明日使えるようにしておきます。」
「分かったわ」
やっぱり高校デビューしかないのかなぁ?終わった。
♢
次はラナと途中で合流した護衛である方と一緒に歩いて靴の受け取りに行くことになった。だがしかし、流石に知らない人で名前が分からない。
でも、すっごいイケメンで褐色肌にあう綺麗な銀と白の間のような髪色。メインキャラに出ていたら絶対にモテるじゃん。それこそ名前が分からないって不便だし聞くしかないかな。いや怪しいかぁ〜?でも護衛って言っても何十人もいる人の一人だし、そんな…まさかね。もういいや、一か八かで聞くしかないんだ。どうせ後々ボロが出るのだからさ!
後ろを振り返ってその護衛の人に聞いてみる。
「ねぇ、貴方お名前はなんですか?」
「えっあ俺ですか?アイラお嬢様」
「そうだけれど…?」
顔を指して困惑している。すぐに状況は分かった。もしかしてこの人結構、親しいというか側近の人だ!
いっそのこと私が記憶喪失っていう設定にフルチェンジするっきゃない。こんな汗だらだらで焦る様な事はじめてよ?!