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闇魔術師は溺愛希望~しかし私はあなたの愛犬ではありません~  作者: 竹輪㋠


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偽りの一週間1


「ジャニス、もうこれ以上は護衛も誤魔化せないわ。それでは、ポルト様、よろしくお願いいたします」

「お願いします」

「上手くやるのじゃよ。心優しきローズブレイドのお嬢さん」

 魔塔長はそう言って私の体からニッキーの魂を取り出す方法が分かれば連絡をくれると約束してくれた。


 宿から時間差で出て、買い物中に迷子になったと言い訳をして護衛と合流した。

 幸いポルト様と時間をかけて会っていなかったので、不審に思われることはなかった。

「休憩しましょう。あなた方もあちらで休んでいらっしゃいな」

 護衛として警護対象者が消えるなんて恥でしかない。

 きっと彼らもこの数十分のことはなかったことにしてフロー様には報告しないだろう。

 スイーツのお店に入ってからリッツィ姉さんがねぎらうと、彼らは鼻を下を伸ばして少し離れたテーブルについていた。



「ふう。でもポルト様に施術してもらったから、きっとニッキーの魂は抑えられたはずよ。今、ニッキーの魂はジャニスの中でこのまま眠った状態を保っているはず」

「これで私が寝ている間にニッキーに体を受け渡すことはなくなるんですね」

「うん。一週間我慢すればポルト様が隣国の書物を元に禁術の解き方を見つけてくれる。それまでの辛抱よ」

「問題はフロー様に不審がられないかですよね」

「フローサノベルドに気取られたら……無理矢理の結婚から屋敷に監禁コースになるんじゃない? っていっても今でも十分軟禁状態だけどね」

「気づかれた時は……私もなりふり構わず逃げます」


「まあ、とりあえずは時間稼ぎしましょう。ポルト様も私もニッキーの魂を天に帰したら、フローサノベルドを諭して、穏便にことを済ませるつもりよ。だから秘密裏にことを済ませているわけだからね」

「改心してくださるといいですけど」

「ニッキーの魂を天に送って……。そんなふうに言えるジャニスを尊敬する。あなたって本当に懐深い人だわ。きっとポルト様もそうお思いよ」

「カザーレンの屋敷に住まわせてもらって、フロー様が悪い人ではないとわかっています。その証拠にあんなに使用人に慕われているのですから」

「……ありがとう、ジャニス。フローサノベルドには正気にもどってほしいわ。彼は優秀な人よ。性格は多少難ありだけど、努力して今まで頑張ってきた人だもの」

 幼馴染のリッツィ姉さんが言うのだからきっと、フロー様はいろんな努力をして闇魔術師として活躍してきたのだろう。

 それこそ、過去誰も倒せなかったドラゴンを一人で倒したのは今でも伝説級の話だ。


「ところで、ジャニス、あなた、今晩からどうするつもり?」

「どうするって?」

「毎晩フローサノベルドの寝所に忍び込んで寝ていたニッキーが、いきなりこなくなったら変じゃない?」

「え、変ですか?」

「変よ」


「一週間くらいそんなことがあっても……」

「あのね、フローサノベルドは『ニッキー』に対しては過保護なのよ。こないなんてなったらジャニスの体を調べまくるに決まってるわよ。ポルト様に頼んだから、気づかれることはないだろうけど、もしもバレたら、今日であなた、終りよ?」

「こ、怖いこと言わないでくださいよ」


「私、ずっと考えてたのよ。フローサノベルドの慎重な性格を考えたら、まずはこのままニッキーの魂がジャニスにあることを周りに気づかれないように結婚するつもりじゃないかしら」

「結婚が先ですかね?」

「ほら、すぐにニッキーに体を渡してしまったら、あなたのご家族が変に思わないはずがないもの。結婚してしてから、ジャニスが精神的におかしくなったとか何とか言って誤魔化して囲い込むのかも」

「ええ……」

 真剣な顔のリッツィ姉さんに言われると、もうそれしかない気がしてきた。

 たしかに、結婚前に私がおかしいとなったら、絶対にうちの両親は私を屋敷から出さないだろう。嫁がせるなってもっての他だ。

「だから、きっと結婚するまでは時間があるわ。なんとか今はバレないように耐えて、ポルト様にニッキーの魂を天に送ってもらうのよ」

「まあ、そうですけれど。って、ちょっと待ってください。バレないようにってまさか、記憶玉で見たアレを私にやれって言うんですか?」

 さらに恐ろしいことを言い出すリッツィ姉さん……。

「しょうがないじゃない。ジャニスが封印してもらえるようにポルト様に頼んだんだから」

「でも、そこは、ほら、体調不良とか……」

「例え体調不良でも、フローサノベルドのところへ行くのをニッキーは止めないわよ。それこそ伏せっているならベッドで恋しがってクウーンクウーンと鳴きだすに決まってるわ」

「あわわわわわ」

「しょうがないから、屋敷に戻ったら私がジャニスが上手くやれるように、練習に付き合ってあげるわ」

「冗談ですよね?」

「冗談って、バレたらジャニスがヤバいのよ?」

「そ、そんなぁ……」

 そうして運ばれてきたお茶を一気に飲み干して、カザーレンの屋敷に戻った。


 人払いをして二人でした訓練は、今までした血がにじむような訓練よりも、恐ろしい内容だった。



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