52 特殊パイロットスキル、そして……
電線のリールのような特殊航空誘導爆雷は盛大にロケットの噴射炎を撒き散らして高速回転しながら宙を飛び、あるいは瓦礫に溢れた地面をバウンドしては敵機へと襲いかかる。
「とりあえず手持ちの火器で削れるとこまで削ってみるよ。ライオネスは月光を頼む!」
「了解ッ!!」
迫るパンジャンドラムに対して月光は後退しながらサブマシンガンで迎撃を試み、陽炎も機体各所のCIWSや手にした4丁のライフルで次々と誘導爆雷を撃ち落としていく。
私はパンジャンドラムの爆発に飛び込むようにニムロッドを加速させた。
ライフルは腰部の後ろにマウントさせ、ビームソードとナイフを両手に持たせて白兵戦に備える。
やはり第一ウェーブでの奇襲とは違い、真正面からの攻撃ではパンジャンドラムは迎撃されやすいようだが、その辺は私も、そしてサブリナちゃんも織り込み済み。
後ろの方から「ボン!」とも「ビョン!」とも付かないような独特な音が聞こえてきたかと思うとバズーカで使われるような大型の弾頭が2つ私を追い越して陽炎へと向かっていく。
1つは迎撃されて爆発を起こすものの、1つは敵の胸部へと命中。
≪攻撃命中! 35,922→30,922(-5,000)≫
メインディスプレーの一部に表示させた後方の映像にはパイドパイパーが水道管のようなパイプを2つ放り捨てて、代わりに背負った武装コンテナから伸びてきた細いアームから渡された同様のパイプを受け取る様子が映しだされていた。
「アレは? ロケットではないようだけど……?」
「PIAT。ロケット燃料による推進力ではなく、バネで弾頭を発射する兵器です」
マモル君の説明によると、あのパイプから発射されるバネ式のランチャーはパンジャンドラムと同じくパイドパイパーの特殊兵装の1つで、バネの力で発射されるために弾速も遅く射程も短い代わりに発射音は小さく、さらに発射の最に炎を出さないために発射位置を特定され辛い夜間戦闘用の兵装であるらしい。
夜戦用とはいっても敵に当てさえすれば威力は同じだ。
そこでサブリナちゃんは低い弾速からくる迎撃され易さをパンジャンドラムの爆発に紛れさせることでギリギリまで敵のセンサーに気付かれないようにしたのだ。
新たに2門のPIATを手にしたパイドパイパーは私とは反対側、陽炎の右側面に回り込むような機動を始める。
左側面にきて私と月光の戦闘に邪魔にならないようにという配慮だろう。
ならば私もサブリナちゃんの心配りに応えるしかない。
爆炎を跳び越え、後退中の月光にビームソードを振るう。
「チッ!! 浅いかッ!?」
月光はランク6の格上とはいえ、こちらを向いたままバックステップのような状態での後退中ならばニムロッド・カスタムⅢの全速力での前進のほうが速い。
だが月光のステルス能力によりFCSの補正が受けられないわけで自分の勘で振ったビームの剣は僅かに月光の装甲を溶かすだけに終わる。
それでもゲームシステム上はいくらかはHPを削れているハズだが、格上相手の近接戦闘でサブディスプレーを見ている余裕などありはしない。
そのまま機体ごとぶつけるつもりでさらにフットペダルを踏み込むが、月光は右へと逃れてサブマシンガンを発射。
≪被弾! 12,800→11,710(-1,090)≫
≪被弾! 11,710→10,730(-980)≫
≪被弾! 10,730→10,474(-256)≫
装甲を撃ち抜かれる音、何かが軋む音、被弾を告げるビープ音についサブディスプレーに目をやってしまうが、月光が装備するサブマシンガンは標準単発火力1,000前後といったところだろうか?
おまけに3発被弾した内、1発は装甲で弾いてダメージを軽減できている。
これならしばらくは持つだろう。
これまでの戦闘で被弾せずにHPを温存してきた甲斐があったというものだ。
ならば第一に気を付けなければいけないのは銃ではなく3本のナイフ。
「気を付けて、ハリケーンが戦っていた時のように高周波音が検出されています」
「さすがにランク6ともなればただの刃物じゃないってわけね!」
それに比べてニムロッドが左手に持つナイフはランク1の鍛造ナイフ。
そんな事を考えている内に月光は地を蹴りつけて反撃に転じてくる。
斬りつけてくるナイフに思わず私もナイフで合わせてしまうと、私のナイフだけがスッパリと断ち切られてしまっていた。
「クッッッソ!! ランク差は分かっていたハズなのに!!」
そのままさらに月光が懐に入り込もうとしているのをビームソードを振って防ぐと敵はスラスターを使った大ジャンプでニムロッドを跳び越えて私の背後に着地。
私も身を翻そうとするが、それよりも早く高周波振動ナイフが振るわれる。
「やられた!?」
「だ、大丈夫よ! まだ動くわ!!」
月光のナイフは旋回中のニムロッドの右腕部装甲を切り裂く。だが幸いにも機体の駆動系まではダメージが及ばなかったようで、斬られた右腕もまだ動かす事ができる。
機体性能は控えめだが小型で軽量なトヨトミ製機と、機体性能こそ優秀であるものの重量がかさみ付いてしまった慣性を止めるのに若干のタイムラグを有するサムソン製の機体の特性差を上手く付かれた形になってしまったわけだ。
やはり中ボス格の月光のパイロットは雑魚とは別格の技量を有している。
「ライオネス! まだやれるか!?」
「ええ! そっちは!?」
半ばから断ち切られてしまったナイフを放り捨て、ビームソードだけを手に再び月光と向き合うとサブリナちゃんからノイズ混じりの通信が入ってくる。
また私のHPが減ったのをサブディスプレーで見て心配してくれたのだろう。
「なんとかPIAT1発は当てたけど、それで打ち止めだよ! サブマシンガンじゃ貫通できなくて2桁ダメージが良いとこ、どんな装甲してやがるんだ!!」
そして壁面メインディスプレーの右半分に閃光が溢れる。
陽炎が胸部ビーム砲を使ったのだ。もちろん陽炎が狙ったのはサブリナちゃん。
「サブリナちゃん!?」
「大丈夫だ! 直撃じゃない!!」
閃光が晴れた時に陽炎と戦っていたのは白い機体。
泡のような氷のような物を全身に纏ったパイドパイパーだった。
陽光を受けてキラキラと光を反射するそれもおそらくは特殊兵装の1つなのだろうが、アレでもさすがに陽炎のビーム砲の直撃は防げないだろう。
そして、私はどのような状態であったのか見てはいないが、陽炎が連射のできないビーム砲をわざわざ使ったという事は直撃を与えられる公算の高い状況であったからだろう。
つまりサブリナちゃんはそのような状況に追い込まれてしまったわけだ。
ひとまずは直撃を回避し、熱の余波もその氷のような特殊兵装で防いだらしかったが、次に同じような状況に追い込まれないとも限らない。
「ライオネスさん! サブリナさん!」
「助けにきたぜぇッ!!」
廃墟の陰から飛び出してきた双月と雷電陸戦型が手にした銃器の連射で援護をしてくるが、反対に陽炎は4本の腕の内の2本をそちらに向けて連射を浴びせて中山さんたちを残骸から出てこれないよう釘付けにする。
「2人とも被弾してでも逃げて! ビーム砲の再チャージが終わったら2人が隠れている残骸ごとやるつもりよ!!」
「そ、そんな事を言ったって……!」
「こ、この土砂降りみたいな連射の中をでごぜぇますか!?」
陽炎が持つライフルはいずれも箱型の大型弾倉が取り付けられた物。
運良く弾切れになってくれる可能性は低いだろう。
どうする?
どうすればいい?
私とサブリナちゃんだけではジリ貧もいいとこだってのに、せっかく駆けつけてきてくれた中山さんとトミー君もこのままではやられるのを待つだけだ。
考えども一気に状況をひっくり返す妙案などいきなり出てくるわけもなく、そんな時、不意に大音量の音楽が鳴り響きはじめた。
「な、なんでごぜぇますか、コレ!?」
「マモル君、何かした……?」
「いえ、僕は何も……」
その音楽は重厚でいて繊細。荘厳にしていかにも緊迫感を煽ってくるようなメロディー。
中山さんやマモル君にも聞こえているという事は私だけがおかしいわけではないようだ。
ベースがかき鳴らす重低音とシンセサイザーの繊細な高音はコックピット内のスピーカーから出ているわけではなく、私の脳内に直接、響いてきているかのよう。
そして、陽炎と月光にもそのメロディーが聞こえてきているかのように2機は動きを止めていた。
「これは……、いや、まさか……」
「何なの!? 可能性の話でもいいから教えて!!」
「え、ええ。パイロットスキルに『威圧』というものがありまして……」
「パイロットスキル?」
パイロットスキルなら私も知っている「照準補正」だの「接近戦マスタリー」だのといったスキルポイントを消費して取得する性能補正を受けるためのものだ。
「パイロットスキルの中でも極めて特殊なものなのですが、エースパイロットが味方にいる時、あるいは敵として対峙した時の威圧感を表現するために周囲に問答無用で音楽を流すというものでして……」
確かに現在、私たちの頭の中で鳴り響いている音楽は神を讃える荘厳な賛美歌のようでもありながら、シンセサイザーが奏でる繊細な高音は神経質さを感じさせるもので、結果として急かされているような、不安を煽ってくるようなものであり、そういう意味ではまるで何かに威圧されているかのようでもある。
「だったら、さっきありえないみたいな事を言っていたのはなんで?」
「いえね。パイロットスキル『威圧』は取得するのにスキルポイントが100ポイントも必要なんですよ」
「は……?」
戦闘能力の底上げにまったく寄与しないスキルに100ポイントも使えるプレイヤーがいたら、そら威圧されるというよりはもう引くわ。
まだゲームがサービス開始されてからまだ3日だよ?
そして空に光の奔流が流れた。




