18 パーティープレイ
「鉄騎戦線ジャッカルONLINE」の世界にはバランス型の機体はあっても万能の機体というのものは存在しない。
いや、万能の機体はこの世界に1機だけしか存在しないといってもいいだろう。
もちろん、それはホワイトナイト・ノーブルの事だ。
中立都市防衛隊の一般隊員機であるホワイトナイトですら超長距離での戦闘には対応していないのだ。
ホワイトナイトの性能に穴があるというよりかはノーブルの性能が異常過ぎると言った方がいい。
プレイヤーが使う事ができる機体よりも遥かに強力な一般隊員機のホワイトナイトですらそうなのだ。当然、私たちプレイヤーが使う事ができる機体はそれ以上に性能にいくつもの穴を抱えているものである。
たとえば私のニムロッドは高い基本性能がウリであるサムソン製の機動性特化寄りバランスタイプの機体という触れ込みではあるが、その機動性を発揮するために装甲は格下の武装でも容易に貫通できるほど心元無い物でしかない。
中山さんの双月のように長時間に渡って飛行する事はできないし、ジーナちゃんの雷電重装型には武装の積載可能量で劣る。しかも仮にニムロッドに限界ギリギリの武装を搭載しようとすれば長所である機動力を大きく減じてしまう事となるだろう。
そしてトミー君の雷電陸戦型と比べてみればホバー状態での最高速こそニムロッドが勝るものの、軽量なだけあって出足の加速は雷電の方に分がある。
「鉄騎戦線ジャッカル」の世界においてバランス型の機体はミッションを選ばない運用の柔軟性を有するが、ともすれば何をさせても中途半端という器用貧乏になりかねないものでしかない。
これではけして万能などとは言う事ができないだろう。
ならば単騎での性能に穴があるならどうすればいいのか?
私に思い浮かぶ答えは2つ。
まず1つは私がこれまでソロでやってきたようにランクの高い機体を使って高い性能でゴリ押したり、あるいは敵を自分の得意な戦術に誘い込んで自機の強みだけをぶつけるというもの。
もう1つの答えが複数の機種で互いの短所を打ち消し合うという事。
中山さんとその担当AI2人が駆る3機小隊は途中までは上手くやれていたと思う。途中までは……。
敵の対空砲火の有効射程よりも上空に上がった双月が索敵情報を僚機に送り、雷電重装型が姿を隠したまま送られてきた情報を元に敵へ大量のミサイルを撃ち込む。機動力に劣る重装型へ敵を近づけない、あるいは削った敵にトドメを刺すのは雷電陸戦型の役目だ。
さらに陸戦型が多数の敵を相手にする事がないように残り2機が牽制を行う事までできれば上出来といってもいいだろう。
さらに今回のミッションではサンタモニカ小隊3機に私のニムロッドも加わっているのだから前衛が2枚となって盤石の構えと言っても良かったハズだ。
それがどうだ?
「うおおおォ! まだだ! まだこんなモンじゃやられねぇぞッ!!」
6,000もあったHPが4,000近くなった雷電陸戦型のコックピットでトミー君が叫ぶ。
その加速力で敵の側面へと回り込もうとしながらサブマシンガンを連射し、撃ち切った弾倉すら敵に投げつける気迫ある戦いぶりである。
その勢いに押されてかクレーターから飛び出したマートレットを援護しようと新たにキロが別のクレーターから煤の付いた頭部を出すが私のライフルに撃ち抜かれる。
だが実の所、私の援護もあってかトミー君の機体は敵機からの被弾は無い。
彼の機体のHPが減っているのは全て同士討ちによるものなのだ。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿!! お兄ちゃんの馬鹿ぁ!!」
後方から乾いた炸裂音が聞こえてきて思わず視線をそちらに向けると、いくつものスプレー缶のような物が空中に跳び上がっては炸裂し周囲へ白い煙のような何かを撒き散らしていた。
「……マモル君、アレ、何?」
「スモーク・ディスチャージャー、早い話が煙幕です。光学カメラの視界を遮る効果がある他、あの煙には特殊な粒子が含まれているためにレーダー波を遮断したり、低威力のレーザーや粒子ビームを減衰させる事ができます」
「なんで今……」
だが、その答えは聞くまでもなかったかもしれない。
先ほどまで聞こえていなかった甲高いタービン音や硬い履帯が大地に食い込む音が聞こえてきていたし、煙幕が撒かれる直前にはジーナちゃんのヒステリックな罵声が聞こえてきていたからだ。
私が聞くのは「あの子は何を考えているの?」であるべきであっただろう。
そしてすぐに煙幕の中から私の予想通りに1機の全高の低いHuMoが姿を現した。
雷電重装型、ジーナちゃんの機体だ。
「ジーナ、吶喊します! しゃああああああ!!!!」
タンクタイプの雷電重装型の動きは鈍く、クレーターの斜面を乗り越えてくるのにはことさら鈍重な動きとなる。
そこを狙い撃たれないように彼女は煙幕を炊いたのだ。
だがジーナちゃんはそこまでは考えが回っていたようだが、兄に自身の射線を遮られた事で頭に血が昇っていたようでスラスターと履帯を併用して突撃を開始する。
私とトミー君、ジーナちゃんの3機がクレーターから姿を現した事でまだ姿を隠していた敵たちも数を頼んで勝負を決めようとしたのか続々とクレーターから飛び出してきた。
「全弾持ってけ!! ヤアッ!!!!」
「まだだ! まだ終わらんぞ!?」
ジーナちゃんの機体が前進しながら背部に背負っていた大型ミサイルランチャーから多数のミサイルを撒き散らし、敵集団の中へ飛びこんでサブマシンガンを乱射していたトミー君もろとも焼き払う。
さすがにトミー君の雷電には直撃こそしなかったようだが、彼の機体の残りHPは2,000を割っている。
もう敵のライフルの被弾に2、3発ほどしか耐えられない残量だ。
さすがに彼を見殺しにはできないので私もライフルを連射しながらニムロッドを敵の中へと突っ込ませていくと、なんでか上空から風切り音が聞こえてきた。
何だ?
中山さんの双月はもう弾切れだと言っていたし、そう思っていたから私は爆撃に巻き込まれる事はないだろうとニムロッドを突っ込ませたのだけど……。
「私も行くでごぜぇますわよ!!」
意外。
空から降ってきたのは上空で索敵をしていたハズの双月自身だったのだ。
プロレスラーがパイプ椅子や折り畳み机を凶器として振るうが如く、上空から舞い降りた中山さんの機体は両手で持っていた爆弾架を敵機の頭上から叩きつける。
「…………ああ、もうしっちゃかめっちゃかだよ……」




