14 巨額の報酬、疑惑の報酬
ミッションクリア!!
基本報酬 240,000(プレミアムアカウント割増済み)
特別報酬1 60,000×12(プレミアムアカウント割増済み)
特別報酬2 2,400,000(プレミアムアカウント割増済み)
修理・補給 -196,460
合計 +3,463,540
取得 技術ポイント:120 スキルポイント:12
帰りの輸送機の中で私たちはコックピットの中で無言で揺られていた。
原因は市の職員が口にした「殲滅」という言葉。
私だけではなくマモルくんやサブリナちゃんもその言葉が気になっているのか、マモル君はタブレット端末でマンガを読む事もなく俯いてなにやら考え込んでいるし、サブリナちゃんなんかは心もち顔色が悪くなっている。
私としてはもし「殲滅」と判定されたのが何かのバグで、特別報酬とやらが後から没収されたら嫌だな~くらいに思っていたのだけれども、ゲームの世界だけでしか存在というものを持てない彼らAIにとってはその存在の根拠となる仮想現実の世界にバグがあるというのは私には考えが及ばないような深刻な問題なのかもしれない。
そして数分後、輸送機が中立都市のガレージに到着すると同時にミッションクリアの収支報告のメールが届いて私たちの疑念は確固たるものとなった。
おかしい。
報酬金額が明らかにおかしいのだ。
もしかしたら本来は特別報酬の条件が「ミッション受領者への攻撃に振り分けられた1個中隊の殲滅」で貰えるものが、運営の担当者間の意思疎通の不具合により「越境してきたトヨトミ側部隊の殲滅」という形になってしまい、殲滅の判定と市の職員の女性のセリフがズレてしまったのかもという可能性も考えていたのだが、その可能性は一気に吹き飛ぶ破格の報酬である。
私がこれまでに受けていた「難易度☆☆」のミッションは2件。
いずれも100万に満たない報酬であった。
特に夜間戦闘のチュートリアル的なミッションでは「難易度☆」のミッションと大して変わらない報酬しか得られなかったのだ。
それがなんで346万もの報酬を得られるというのだ?
ひとまず輸送機を降りてニムロッドのコックピットハッチと胸部装甲をオープンして外部の風をコックピット内部に取り込みながら考えてみる。
基本報酬が20万、プレ垢の2割増しで24万というのは多いどころか「難易度☆☆」のミッションとしては低いくらいだ。
恐らくは今回のミッション、意地の悪い事に基本報酬は低く設定されており、「特別報酬1」で稼ぐタイプのものなのだろう。
ミッションのクリア条件としては中立都市の管理領域へ侵入してきたトヨトミ部隊に攻撃さえすれば良いので恐らくは1機にでも損傷を負わせればクリア条件は満たしているのではないか?
ただそれでは「難易度☆」にすら劣る報酬しか得られないと。
その「特別報酬1」は6万×12で計72万クレジット。
12というのは今回のミッションで私が撃破した雷電の機数と一緒であるので撃破1機につき5万(2割増しで6万)という計算。
このミッションで稼ごうと思ったらできるだけ多くの敵機を撃破しなければならないというわけだ。
通信でサブリナちゃんに聞いてみると彼女は19機撃破で114万クレジットの「特別報酬1」であったようである。
これでも「難易度☆☆」のミッションとしては破格の報酬と言ってもいい。
なにせ私がローディーとバディを組んだ「砲兵陣地の警護」というミッションでは特別報酬が出ても基本報酬と合わせて84万クレジットの報酬であったのだ。
ただし「難易度☆☆」のミッションとしては破格の報酬を得られるだけあって、私たちがそうであったように敵部隊が攻撃の混乱を脱した後は攻撃部隊を差し向けられると。
つまりこのミッションはプレイヤーの撤退のタイミングによって実質的に「難易度☆」から「難易度☆☆☆」程度に難易度が変動するタイプのミッションであったのだろう。
いや200機を超える雷電部隊全てと戦うとなれば「難易度☆☆☆☆」や「難易度☆☆☆☆☆」相当という事も十分にありうる。
まあ、そこまではいい。ここまでは十分に納得ができる程度の報酬だ。
問題は「特別報酬2」である。
なんだよ? 240万クレジットって……。
これで市役所の職員さんが言っていた「殲滅」という言葉が私たちに差し向けられた1個中隊を指すのではないのがハッキリとした。
4機で1個小隊、それが3個で1中隊の撃破で240万の報酬は明らかにおかしい。
第一、他に「特別報酬1」だってあるのだ。その他に240万の報酬は破格すぎる。破格を越えて異常だ。
これはやはりテキストの齟齬とかそういうものではなく、越境部隊全ての殲滅がなされたという判定なのは間違いない。
「とりあえず運営にバグの報告を送っておきましょうか……?」
「そうね。後からバグや運営のミスを利用して不正に報酬を取得したとか痛くもない腹を探られても面倒だし、そうしてちょうだい」
不安げな様子のマモル君に私はわざとらしいくらいに事務的に振舞ってみせた。
どうせ運営の些細なミス、仮にバグだとしてもゲームシステムの根幹に悪影響を及ぼすようなものではない。
「もし何か問題があったとしてもこの程度、ちょちょっと修正パッチを噛ませればいけるようなものだろうし、そう心配しなくてもいいと思うわ。だからマモル君もサブリナちゃんも……、ってサブリナちゃん?」
自分の存在の根底が脅かされているのではないかと動揺しているマモル君に対して、サブリナちゃんは先ほどまでとは違いなんでか怒っている様子。
通信越しで私たちとは違う誰かに対して随分と乱暴な口調で何かを問いただしている様子が伝わってくる。
『おう、マーカス、お前、また悪さしてないだろうな? ってか、しただろ!?』
どうやら折り畳んだ状態で通話モードにしたタブレット端末で自分の担当ユーザーと話しているようだ。
彼女の担当であるマーカスさんは現実世界でお腹の具合を悪くして仮想現実の世界に逃げてきたようだったけど、サブリナちゃんは自分がミッションに行っている間に彼がちゃんと安静にしてたか心配して確認の電話をしているようだ。
『あン!? 嘘つけッ!? じゃあ今まで何してたか言ってみろ!』
……………………
『大人しく映画観てただぁ!? じゃあ、その映画のタイトルは!?』
電話での通話であるのでマーカスさんがどのような事を言っているかはサブリナちゃんの返答から察する事しかできない。
それでも乱暴な口調ながら世話焼きな様子の彼女の優しさが垣間見えるようで傍から聞いてるこっちまで微笑ましい気分になってくるくらいだ。
仮にミッションの報酬の件がバグだったとしても私たちにはどうする事もできないのだし、ならば自分が今できる事をやっていくのが賢明なのかもしれない。
サブリナちゃんの声を聞いていると私もそう思えてくるのだ。
『……はあ? 「エクソシスコン」? ど~いう映画だよ!?』
………………
『妹に取り付いた悪魔を退治する神父の話? じゃあ、その映画のラストは?』
………………
『妹の肉体から追い出した悪魔に烏神父が2階からフライングボディプレス? そんな映画あるわけないだろ! いい加減にしろ!!』
マーカスさんって随分と古典的な映画を観るんだな……。
サブリナちゃんは知らないようだがマーカスさんが言う「エクソシスコン」という映画は実際に存在する。
まあ、今さらそんな古い映画を観るのか? とは思うがマーカスさんは休日出勤の後にお腹の具合を悪くして随分と疲れていたようだし、すでに観た事のある名作映画をのんびりと観ようという感じなのかもしれない。
通信が繋がったままである事だし、マーカスさんに助け舟を出してあげるか、それともフライングボディプレスについて甘く考えているサブリナちゃんにかの技の奥深さを教え込むべきか考えている内にしだいに怪しいくらいに巨額の報酬などどうでもよくなってくる。




