17 「頭の良い馬鹿、いや、自分を頭が良いと思っている馬鹿だな」
地図情報に記された赤いアイコンの横には「HP93,125/95,000」と目標のHP状況が表示されていた。
「うん? すでに戦闘は始まってるの?」
「いえ、そういうわけではないようです」
後席のマモル君がサブシート用のタッチパネル式ディスプレーを操作してログを確認してみるも、緊急ミッション参加者の偵察機からもたらされたデータによるとノーブルがダメージを受けた形跡はない。
「もしかすると緊急ミッション発出前になにかしらの事象でダメージを負っていたのかもしれません」
「ま、ダメージが与えられるならいつかは倒せるって事でしょ? 上等ッ!!」
どのようにノーブルが奪われたという状況を設定したのかは分からないが、まあ奪われたなら奪われたなりにそれなりの戦闘があったという運営チームなりのリアリティというやつだろう。特に気にする事でもない。
ホバー走行のニムロッドは赤い大地をドカドカと走る見慣れぬ機体を追い越していく。
「……アレは?」
「トヨトミ重工製のランク2機体「屠龍」ですね。トヨトミの重装甲重武装タイプの入門機です」
マップ画面に映る屠龍は自分に無関係な機体を示す緑点ではなく、僚機を示す青点で表示されている。
つまりはあの機体も緊急ミッション参加者なのだろうが、両肩アーマーの上部に腰部装甲の左右にそれぞれ別種のミサイルランチャーを装備して手には太いバズーカを持って走る屠龍は鈍重そのもの。
こう言っちゃなんだけど、追っているノーブルの方が当然ながら速度は上でこのままなら絶対に追い付く事はできないだろう。
それは例えノーブルがホバー走行を止めたとしても変わらないだろう事は間違いない。
いや、ノーブルが走るとこなんて見た事はないが、それでもあの走っているんだか歩いているんだか分からないようなHuMoよりも速度が出ないなんて事はとても考えられないのだ。
となると他のプレイヤーがなんとかノーブルの足を止めないとあの屠龍は何の役にも立たないわけだが、そうなると少し気になる事がでてくる。
「ねえ、マモル君? 例えばなんだけど、私が撃った弾でノーブルの脚部に損傷を負わせて移動ができない状況に追い込んだ後に他のプレイヤーが与えたダメージって評価に関係するのかしら?」
「ああ、それは十分にありえそうですね。貢献度ランキングに現在載ってるのが双月だけですから、実際に与えたダメージ以外の部分もしっかり評価されるようです」
「双月……?」
「飛行型のHuMoです。恐らくは上空で双月がノーブルの位置情報を送ってくれているのでしょう」
マモル君が続けて言うには「双月」は「屠龍」と同じくランク2のトヨトミ重工製の機体ながら、双月はクレジットで購入できる機体ではなく、プレミアムHuMoチケットかリアルマネーで購入する事ができる機体らしい。
ただ「双月」はランク3のニムロッドよりも格下の機体でありながら長時間の飛行を可能にするため、それ以外の性能が随分と酷い事になっているそうだ。
「どうします? お姉さんもプレミアムアカウントを購入した時の特典でチケット持ってますけど……」
「とりあえず保留ね。偵察機プレイだなんてすぐに飽きてしまいそうだわ」
チケット1枚で交換できるプレミアム機体は他にもあるらしいが、リアルマネーでも販売される機体だ。どうせ総合性能では双月とどっこいといったところなのだろう。
さらにランクが上のプレミアム機体は交換に必要となるチケットの枚数が増えるらしいのだけど、私が現在持っているチケットは1枚だけ。
ならばここはチケットを取っておいて、今後にまたチケットが入手できる機会を待つというのが良い。
もっともマモル君が乗りたいというなら私がニムロッドに慣れてから交換してしまってもいいが。
案外、慎重派のマモル君には双月で上空の安全圏から偵察をしてもらうというのが良いのかもしれない。
「やっぱり私はバチバチに撃ち合ってる方が性に合ってると思うわ。それにいくら偵察で貢献度を稼いでも実際にダメージを与えた方が評価は上でしょう?」
先ほどマモル君に聞いてみた「動きを止めたらどうなるか?」というのはあくまで撃ち合った上での副次的な事。
ゲームの世界であったとしても他人のアシストだけで報酬を得ようとは私は思わない。
それに対してマモル君が口にした皮肉はホワイトナイト・ノーブルという敵に対しての認識の違いであっただろうか?
「お姉さん、どこかの国には『取らぬ狸の皮算用』って諺があるらしいですよ?」
「……おう、私、その国に住んでんだわ」
その後の数機の同業者を追い越していけたのは、ニムロッドの性能もさることながら、私の思い切った機体構成の賜物といってもいいだろう。
背面装甲の排除に最低限の武装。
1機、また1機と同業者の機体を追い抜いていくたびに私の胸の中にふつふつと優越感が湧き上がってくる。
このままの調子ならファーストアタックは私がもらえるかもしれない。
ま、そもそもこのゲームというか、この緊急ミッションにファーストアタックの特別ボーナスが存在するかは知らないのだけれど。
だが、そんな調子で良い気になっている私たちに迫ってくる機体たちがいた。
「うん? ニムロッドよりも速い? ……上位機種、いや……」
これまでとは逆に私たちのニムロッドを追い抜いていく機体を見ると、なんとフレームだけの機体かと錯覚してしまいそうになる。
「…………なに、アレ……?」
「お姉さんが機体の背面装甲を撤去させたように、あっちのプレイヤーは機体の全装甲を排除したのでしょう。それにしてもプレイヤーというのは随分と無茶な真似をするものですね。現実の世界で自分の身体に危害は加わらないと理解しているからでしょうが……」
メインディスプレーに映る機体の横には「マートレット」と機種名が表示されているが、優雅さすら感じさせるあの機体が装甲を外しただけでこうも印象が変わるものかと思わざるをえない。
その姿は現実世界の工事現場または建築現場で使われる重機のようでもあり、またファンタジー物の作品に登場する骨だけのモンスター「スケルトン」にも似ていた。
そのあまりにも思い切った機体構成に呆気に取られたのか、マモル君も毒を吐くというよりかは呆れかえっている様子だ。
さらに後方からは数機のスケルトン様の機体たちが現れて私たちを追い抜いていき、それに気付いた先行するマートレットは僅かに速度を落として合流し即席の部隊を作る。
8機のスケルトン部隊。
いずれも機体装甲の全てを撤去して、武装は最低限。後は脚部に増加スラスターを取り付けているだけ。
たった数分前までファーストアタックは自分の物だとほくそ笑んでいたのが馬鹿みたいに感じるほどの思い切った構成だ。
当然ながら、向こうのパイロットだってそんな機体でホワイトナイト・ノーブルを倒せるだなんて思ってはいないだろう。
見ればいずれも表示されている機種名は「雷電」や「マートレット」という格下機体のみ。
1機だけ「モスキート」という見慣れない機種名があるが、これも「双月」と同様のランク2プレミアム機体のようで、これもニムロッドの格下機体である。
ようするに彼らは存在するかすら分からないファーストアタックボーナス狙いだったり、あるいは足止めによるアシストボーナス狙いなのだろう。
自分が思いもしなかった機体構成をする者たちによって先を行かれた事により、私の胸中は一点、忸怩たる思いが湧き上がってくる。
私の予想が正しかった事を証明するかのようにスケルトン部隊が光学カメラで捕捉しきれなくなった頃、緊急ミッションの貢献度ランキングに2位から9位が追加され、私の中の焦燥感は加速していった。
「戦闘が始まったんだ! こっちも全速で行くよ!!」
貢献度ランキングにあの8機が追加されたという事はターゲットと戦闘状態になり、それによってノーブルが戦闘機動を始めて速度を落としたという事が評価されたのだろう。
だがフットペダルを踏みこんで速度を全開に上げてからほどなく、私たちが向かっている方向から眩いばかりの青い光の帯が伸びてきたかと思うとマップ画面から8機の反応が消失した。
「ん゛ん゛ッッッ……!? い、今のはッ!?」
「ノーブルがビームライフルを使ったのでしょう……。…………はぁ……」
姉さん、お姉ちゃん、虎姉ぇ……。
こんな時、貴女の事をなんて呼べばいいのか分からないけど、「ホワイトナイト・ノーブル」って中立都市サンセットの防衛隊の隊長機なんだよね?
つまり守るべき街の中で使われる事を想定している機体なんだよね?
……一体、なんちゅ~モンを装備させとんのじゃ!?
思わず脳裏に満面の笑みを浮かべた姉の顔が思い浮かぶが、一体、姉は何をどう同僚たちや上司に説明してあんなバ火力兵器を都市防衛用の機体に装備させたのか。いや、姉がノーブルの実装に心血注ぐ事となったのは余計な事に労力をかけすぎたせいではなかろうかと邪推してしまうくらいだ。
一瞬で8機のHuMoが消し炭にされた事で己の未来を悟ったのかマモル君は深い溜め息をつくけれど、まだ結末が決まったわけではない。
「ま、まだよ!! 現にノーブルはすぐそこだし、あんな馬鹿みたいな大砲、そんなバカスカ連射ができるものですかッ!!!!」
先ほどまで姿も見えなかったノーブルの白い機体も今はもう見えている。
背中が地面に付きそうになるほど機体を倒したままの姿勢で、まるで後ろに吹き飛ぶように進んでいく純白のHuMo。
なるほど。
ノーブルのパイロットはああいう姿勢を取らせる事で逃走を続けながらも追跡者たちと戦っていたのか、さすがにそれでは速度を落とす事となって、それが8機の貢献という扱いになったのだろう。
それにしても美しい機体だった。
すでに展示されているノーブルは見た事があったが、それにもまして、いや機体各所のスラスターを吹かして飛ぶノーブルはまるで青白いマントを羽織っているかのように綺麗で美しい。
だが今は物語の中に出てくる英雄の如き白い機体に見とれている場合ではない。
ゲームに登場する機体の常として、あんな常識外れの火力を出す武器を使ったら、次に使用可能となるまでにそれなりのクールタイムがあるハズだ。
そこを突く。
すでにフットペダルはベタ踏み、スラスターは全力稼動、冷却器の能力を超えた加熱によってそんなに時間はかからずニムロッドはオーバーヒートをおこしてしまうだろう。
だが、まだ足りない。
かくなる上はと私はニムロッドが手にするアサルトカービンを放り投げさせる。
代わりに腰部装甲背面に取り付けていたビームソードを持たせた。
通常時は柄の部分しかないビームソードは起動すると長剣のような長さのビームの刃を形成するのだ。
普段はこれまで装備していたナイフよりも僅かに重いだけだが、ビーム刃を展開する事で鍛造ナイフよりも圧倒的に高い攻撃力と広い間合いをもつビームソードこそが私の新兵器その2である。
これでせめて一撃……。
だがそんな私を嘲笑うかのように白騎士の王はその右手に持った銃を私へと向けた。
「だ、大丈夫……、双月から送られてきた情報でアンタが2丁の銃を持っていて、ビームライフル以外にもアサルトライフルを持っているのは知っているんだから! そ、その右手の銃がアサルトライフルで、左手に持ってるのがビームライフルなんでしょ!?」
優雅さすら感じさせるノーブルの無表情然とした顔が答えを告げているような気がした。
それにしても、なんて表情のロボットだろうか。
誰だって寿司屋の生け簀に入った魚や海老を見る時は何らかの感情を見せるんだぞ!?
不快害虫を殺す時だって何らかの表情を浮かべるもんだ!
私は、私のニムロッドは敵でも獲物でもないというのか?
お前の感情を見せてみろ!
そう叫ぼうとしたその時、私の視界が青白い閃光で包まれたかと思うと暗転し、次の瞬間には私は薄暗いガレージへと瞬間移動していたのだった。
お気に召しましたらブクマ&評価をお願いします。
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