15 緊急ミッション発令!
「ぬふふふふ…………」
「どうしたんですか? そんな気持ち悪い声で笑って……」
早めの夕食を終えて「鉄騎戦線ジャッカル」の世界へと戻ってきた私はマモル君を連れてまたあのファミレスへと来ていた。
最初は自分だけ食事を済ませてきたというのも申し訳ないなというつもりで来たのだが、マモル君はマモル君で私がログアウトしている間にガレージのプレハブオフィスでインスタントヌードルを食べたというのだ。
そういうわけで2人はデザートのつもりでパンケーキを頼んでいた。
私は右手でフォークを持ってバナナとチョコソースにホイップクリームがふんだんに盛られたパンケーキを食べ、左手でマモル君から借りたタブレット端末でこれまでの戦闘のリプレイを見ていたのだけれど、つい笑い声が漏れていたようで、マモル君が怪訝な顔を向けてくる。
「んふふふ、マモル君、鼻の頭にクリーム付いてんよ?」
「はあ、そんなんで笑ってたんですか?」
「いやいや、そうじゃなくてさ、私のニムロッドかっけ~な~って!」
マモル君にリプレイ動画を再生中のタブレットの画面を見せてみるも、彼はどうやらファミレススイーツのほうに御執心のようだ。
「見~て~よ~! 凄くない!? このスラスター吹かしたステップでミサイルを回避するとこ!」
「そりゃあスラスターの噴射炎で随分に見えますがね、実のとこ、随分と無駄の多い回避運動ではないですか? もっと効率的に機体に付いた慣性モーメントを制御できていたなら0.9861秒は早く反撃できたと思うのですが……」
「うわっ……、メッチャAIっぽいこと言ってる……」
再生していたのは1回目のミッションの戦闘での1コマだった。
プレイ中は私はコックピットの中にいたわけで当然ながらニムロッドが実際にどう動いているかは見えない。
だがリプレイの機能を使う事で第三者視点で過去のミッションの内容を確認する事ができるのだ。
この際、どこにカメラがあったんだよ? というのは言わない約束だろう。
正直、私のニムロッドはカッコ良いにはカッコ良いんだろうけど、色だけはもうちょっと派手でも良かったのにな~と思っていたのだけれど、こうしてリプレイでニムロッドの戦闘を見ていると少し地味なスカイグレーの装甲色がこれがどうしてカッコ良いのだ。
青い空の下、赤茶けた大地を駆け、青白いスラスターの噴炎を噴き上げて高く遠くへと跳ぶスカイグレーの機体のコントラスト。
大地を叩く至近弾が弾き飛ばしてきた土砂で脚部が汚れているのもまた趣深い。
これが姉のホワイトナイト・ノーブルだったら美術品のように美しい白い装甲が汚れてしまったら、それだけでショックを受けてしまうだろう。
なら少しくらい地味な方が戦闘兵器としては向いているような気がしてきていたくらいだ。
「そりゃ僕はAIですけど、そんな無茶な事を言っているつもりはないのですけどねぇ。倒した敵はもう撃ってこないんです。ならとっとと倒してしまうに限るでしょう?」
「はいはい、善処しま~す! それじゃ早く操縦に慣れるために次のミッションはどうする? ガレージに戻った頃には新武装も用意されてるんでしょ?」
「困った人だ」とばかりに溜め息をつくマモル君の顔を見ると私と一体どちらが精神年齢が上なのだろうと思ってしまうが、すぐにたっぷりとクリームを乗せたパンケーキを頬張って顔を綻ばせているところを見ているとそんな事などすぐに忘れてしまう。
「それじゃ、もう1つくらい『難易度☆☆』のミッションをやってみましょうか。新武装の慣らしと、後、僕が言ったように最低限の動作の回避運動を意識してみてください。もしくは回避の動作を反撃に繋げるような」
「……というと?」
「例えば、後ろから撃たれた時、避けてから機体を反転させるのではなく、避けながら身を翻すというか」
「あ~、なるほどね」
手厳しい事を言っているようで具体的にアドバイスをくれるあたり、だいぶマモル君との付き合い方が分かってきたような気がする。
一口大のパンケーキを刺したままのフォークを振って回避運動について解説してくれるマモル君はただ毒を吐くだけの子ではないのだ。
「で、それから『難易度☆☆☆』のミッションに行ってみましょう」
「大丈夫かしらね?」
「大丈夫じゃないでしょう。機体も武装もランク3の物なんですから」
そう。
私はファミレスに来て注文を終えてからマモル君のタブレットで新武装を2つ通販サイトで発注していた。
今頃はガレージで整備業者の人たちが頑張ってセットアップしてくれているハズだ。
新武装の1つ目は「Mk.425 75mmアサルトカービン」。
カービン銃とは元々は騎兵が馬の上でも扱いやすいように短く作られたライフル銃を言うらしいが、時代が下ってからは車内やヘリの中でも取り回ししやすい全長が短く設計された物を言うようになったのだという。
中でも「アサルトカービン」といえばアサルトライフルの短縮版ともいうべき物で、HuMo用のアサルトカービンも同等のアサルトライフルに比べて全長が短く軽量である。
砲身が短い分、最大射程は短くなってはいるが、それでもランク3のMk.425は今まで使っていたランク1のアサルトライフルに比べそれなりに命中弾を期待できる有効射程は変わらないし、使用できる砲弾もランクが上がっているために貫通力も威力も大きくなっている。
私はこれに武装強化で「反動抑制+5%」と「連射レート+5%」と付加していた。
さらに弾倉は今までのライフルと同じ物が使えるという事だが、連射間隔を上昇させた事で弾切れの可能性を見越して新たに30発用大型マガジンも3つ注文済み。
出撃時にライフルに取り付けていく物も合わせて5つの30発入り弾倉を持っていく事になるので、150発の砲弾という計算になる。
所持していく砲弾の重量はかさむが、それでもライフルが小型軽量の物になった分の恩恵が大きく、機体全体としてもまだ軽くなっているのだ。
さらに……。
「うん? ちょっと待って、何か来たよ。メール……?」
「え? 初日に緊急ミッションの予定なんかあったかな……?」
突如としてタブレットからアラーム音が鳴り響き、それはタブレットの通知をマナーモードにしていないプレイヤーは皆揃って同様のようでファミレス店内の至る所から同様のアラームが鳴り響いていた。
“【緊急】【重要】サンセット所在の全傭兵の皆様へ【緊急】【重要】
from:UNEI総司令部
to:サンセット登録全傭兵
傭兵の皆様へ緊急のミッション依頼となります。
中立都市防衛隊の指揮官機「ホワイトナイト・ノーブル」が何者かの手により奪取されました。
犯人の目的は目下不明のままですが、奪われた指揮官機は市外へと逃亡。周辺3大勢力との協定によりUNEIは市外での活動に制限があります。そこで傭兵の皆様へ「ホワイトナイト・ノーブル」の確保もしくは撃破を依頼します。
「ホワイトナイト・ノーブル」は3大勢力の協力者による技術支援と中立都市の独自技術により製造された唯一無二の機体であり、これがいずれかの勢力、あるいは武装犯罪者の手に渡る事は避けなければなりません。
そのため、本緊急ミッション参加傭兵の皆様には破格の報酬を御用意いたしました。是非、皆様お誘い合わせの上、ご参加ください。
報酬:ホワイトナイト・ノーブル撃破者(小隊の場合には参加人数に応じて分配)
100,000,000クレジット
プレミアムHuMoチケット×10枚
※撃破者以外は貢献度に応じて豪華報酬をプレゼント
特記事項
☆本緊急ミッションに限り、被撃破後のパイロット、機体双方のクールタイムを免除。
☆本緊急ミッションに限り、機体整備、弾薬燃料補給費用はUNEIが負担します。
残り制限時間 03:59:43
タグ:緊急 重要”
「へえ~……。虎姉ぇもこういう手できたか……」
「うん? トラねぇ? どういう事ですか?」
この時の私はまだこの緊急ミッションは運営側の仕込みによるものだと思っていたのだ。
「ウチの姉ちゃんが自慢のオモチャを皆に見せびらかしたいってさ!」
「……はあ?」
姉が心血を注いで作り上げた究極のHuMo「ホワイトナイト・ノーブル」は中立都市サンセットの防衛隊長専用機である。
つまりノーブルはプレイヤーやNPCたちの拠点となるサンセットの防衛の要であり、そのためだけに廃ゲーマーが束になっても相手にならないようなとんでもない性能を持たされている。
逆に言えば私のように極々普通のプレイヤーはノーブルと戦う機会など無い。
プレイヤーがサンセットでHuMoを使って何か悪い事でもしない限りは白騎士の王が出張ってくる事などありえない。
精々、私たちが今日の昼間に見たように展示されているノーブルを眺めて「凄いな~、カッコ良いな~」と浅い感想を浮かべるくらいだろう。
私もつくづく実感している事だけど、こうもリアリティーに溢れた世界だと、いくらゲームの世界だと分かっていても犯罪行為に手を染める事はどうしても気が引けるのだ。
わざわざノーブルと戦うのが目的の廃人ゲーマーでもない限り、それは誰だって同様だろう。
けどウチの姉はそれじゃ満足いかなかったのだろう。
睡眠時間を削って仕事に打ち込んで作り上げたホワイトナイト・ノーブルの性能を全プレイヤーに見せつけたかったのではなかろうか?
「この街で悪い事をしてアレと戦うような気にはならないけど、犯罪者に奪われたとなれば話は別か……」
身内の幼稚性をまざまざと見せつけられたようで思わず苦笑してしまうが、せっかくのお誘いを断る理由もない。
「行くよッ!! マモル君、急いで!!」
お気に召しましたらブクマ&評価をお願いします。
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