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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3章 騎士王討伐に備えよ!
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26 支援機の三要件

 鈍い衝撃がコックピットを揺らす。


 鋼の巨人がその2本の脚で大地を駆けていく衝撃は各所の衝撃吸収機構によって吸収されるが完全に殺しきる事はできずにHuMoの胸部にあるコックピットへも伝わってくるのだ。


 私のニムロッドと同じようにスラスターを使わずに駆けている小隊各機はヒロミチさんの烈風を先頭にダイヤモンド編隊の形を取って進撃している。

 先頭にヒロミチさん、その後ろの右翼に中山さんの紫電改、左翼にクリスさんのカリーニン。最後に私のニムロッドという形。


 これは一応の小隊長としてのヒロミチさんが先頭を切るというのもあるのだが、彼の烈風は多数の増加スラスターによって機動力を底上げしている都合上、スラスターを使わない状態ではその重量によって動きが鈍重になっているため、彼と速度を合わせるために先頭を走ってもらっているという事情もある。


 私たちの後方にはさらにトミー君の雷電陸戦型とジーナちゃんの雷電重装型もいくらか距離を開けた状態で続いており、さらに遠方の輸送機からは戦闘開始とともにアシモフの飛燕が発進する手筈になっている。


 だが今回のミッションは私たち4人の連携の確認のために受けたものであり、トミー君たちやアシモフは基本的に手を貸さない事になっている。

 そら私たちが敗色濃厚ともなれば修理費を払うのも馬鹿らしいし手を貸してもらう事になるのだろうが、その時点で私たち4人の連携戦術は破綻しているという事だ。


 今回のミッションも「ハイエナのアジトへの強襲」。

 前にヒロミチさんと私が受けた時とは違い、廃棄されたプラントではなく小さな街の跡地を根城としたハイエナたちの殲滅が依頼内容である。


「長距離収音マイクが敵の警報を捉えた。気付かれたぞ!」

「了解、速度を上げるぞ!」

「クリス、お前は戦闘開始まではサンタモニカ機に速力を合わせろ!」

「オ~ライ! いざって時は盾になってやるよ!」

「お手数おかけいたしますわ」


 中山さんの紫電改は小型軽量で小回りが効くが撃たれ弱い。

 そのために両翼の2機はダイヤモンド編隊を崩して4機は一列縦隊となる。

 クリスさんのカリーニンの装甲を頼りにする形だ。


 中山さんもここ数日間、新機体のトレーニングに勤しんでいただけあってその動作に淀みは無い。

 むしろこのゲームの戦闘経験がほとんど無いというクリスさんの方が動き出しにもたついているくらいで、彼女が防御力に優れるウライコフ系の機体に乗るというのは良い選択のように思えた。


 そして4機は脚力に加えてスラスターも使用して一気に加速して距離を詰めていく。


「そろそろライオネスさんは別行動だな」

「……了解」


 望遠カメラがチラホラと戦災によって黒い煤で汚れた廃墟から敵機が姿を現してきたのを確認するとヒロミチさんから私へ指示が出る。


 未だに中距離援護役としてどう動くべきか悩む私に対してヒロミチさんは努めて明るい声で、それでいながらしっかりと要点を伝えた。


「いいかい? 火力支援で大事な事は3つ。まずは味方を前線で戦わせているんだから『しっかりと自分でダメージを取る』。でも残りの2つはこれと同じくらいに重要だぞ?」

「え?」


 正直、中距離支援とか援護役とかだけでも良く分からないのに、新たに火力支援とかいう単語が出てきて面食らうが、とりあえず火力支援というのは支援とか援護とかいうののカテゴリーの1つなのだろうか?

 だとしたら、しっかりとダメージを取る事以上に大事な事などあるのか?


「2つ目は『味方にダメージを取らせる』。そして3つ目が『味方の被害を防ぐ』。いいか、これは自分でダメージを取るのと同じくらいに大事な事だよ」

「了解ッ!」


 できるのか?

 私に?


 味方にダメージを取らせる?

 どうやって?


 味方の被害を防ぐ?

 近くに味方がいるならニムロッドの豊富なHPを頼りに盾になってやる事もできるが、離れていてはそれも無理だ。


「良し! 各機散開!」

「サンタモニカ! 私のケツから離れるなよッ!?」

「露払いお願いいたしますわ!」


 私の疑問が晴れる前にヒロミチさんが動き出す。

 烈風の機体各所のスラスターが青白い光を増して加速、そのまま前へと出ながら機体を左右へと振る。


 私たちが一列になったままでは敵の火線が集中してしまうからとわざと大胆な動きで敵の砲火を散らしているのだろう。

 前にやっていたファンタジーRPGでいうところの“回避盾”というヤツだろうか?


「お姉さん、右前方のクレーターに入って!」

「りょ、了解!!」


 私は後席に座るマモル君に促されて巨大なクレーターの中に入ってニムロッドにライフルを構えさせる。


 このクレーターは昔の爆撃の跡であろうか。

 ニムロッドを片膝を立てた状態でライフルを構えると上手くお腹あたりまでは隠せそう。

 ここならば被弾面積を抑えて狙撃に集中する事ができそうだ。


「距離2,080。距離補正OK! まずは……、コイツか?」


 膝撃ちという事もあってすぐにレティクルは収束される。

 私が狙うのはまずヒロミチさんが向かう先にいる3機のトヨトミ系の機体。

 その中でも真ん中の機体が機体の腕を振って後方に指示を出しているのが見えた。


 指揮官機。いや、相手は武装犯罪者集団(ハイエナ)だから指揮官というのは違うか? まあ幹部格には違いはないだろう。


 味方を鼓舞するためか足を止めて大きな身振りで周囲に指示を飛ばす敵機をレティクルに収めてトリガーを引く。


「そうだ! どうせ倒しきれる敵がいないなら優先順位が高い敵から狙うんだ!」


 ライフルの砲口から飛び出した小さな火球は赤い尾を引いて目標へと一直線。

 腹部へと命中するも敵は未だ健在。

 戦闘が始まったばかりなのだから当然、敵はHP100%(フルヘルス)。だが幹部格が被弾した事で被弾した機体のみならず、もう1機も随伴して後退を始める。


 そして残った1機に烈風のガンポッドの連射が集中。


「お姉さん、周りを良く見てください! あっちの2機が廃墟に取り付きますよ!!」

「はいよ!」


 マモル君の言葉に私が視線を動かすとクリス機とサンタモニカ機が今にも廃墟に取り付くという所。


 これまではサンタモニカ機はクリス機の陰に隠れて被弾を抑えていたがために、逆に味方が邪魔で発砲する事ができないでいた。

 代わりにそれまでに敵を牽制するためにアサルトカービンを撃ちまくっていたクリス機は弾切れとなったようで弾倉を投棄。


 弾倉交換のタイミングはサンタモニカ機と、そして私に任せるという事。


 まずは右側面から回り込もうしている敵機を背後から狙い撃ち、さらに左側面から顔を出してきた敵機に命中率無視の牽制射撃で廃墟の陰へと引っ込ませる。


「おっ! できてんじゃん! それが『味方の被害を防ぐ』ってこったよ!!」

「……なるほど」


 確かに私は背後を撃てた敵はともかく、もう1機には命中弾を与える事はできずにダメージは取れないでいた。

 だが敵に側面攻撃をさせずに味方の被害を防ぐ事はできたという事か。


 私はその事を納得すると同時にどこかホッとしたように口元を緩ませていた。


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