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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3章 騎士王討伐に備えよ!
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10 打ち上げは焼肉

「ささっ、ジャンジャン食べてください! 打ち上げなんですから盛大にいきましょう!」


 私とマモル君、中山さんとトミー&ジーナの兄妹、そして姉さんとマサムネさんは中立都市に戻って高級焼肉店に来ていた。


「いや、打ち上げって……。お詫びの間違いでしょう?」

「他の、ごく一般のプレイヤーが相手ならそうなんでしょうがね、私をこういうキャラクターに設定したのは貴女のお姉さんたちなんですから、謝る必要ってありませんよね?」


 つい先ほどまで私たちの敵に回って大立ち回りを繰り広げていたというのにマサムネさんの顔に後ろめたさというものは微塵も感じられない。


 それどころかニッコニコの笑顔でテーブル脇に設置されていた端末を使って率先して肉類やらサラダにキムチ、全員分のドリンクを注文していく。


「まあ、そりゃあそうなんだろうけどねぇ……」

「それじゃ、ほら、ここは私の奢りという事でひとつ」

「それ、貴方のクレジットじゃなくて、姉さんから奪ったクレジットでしょ?」

「ええ、そうですよ。それが何か?」


 この男、一体どのような精神構造をしているのか。

 早速、運ばれてきた飲み物を全員に回すと、トングでネギ塩牛タンをロースターの網の上へと並べていく。


「おっ! 俺も手伝うぜ~!」

「ああ、ありがとうございます。でも、こういうお店ではまず焦げやすいタレで網が汚れる前に牛タンなんかから初めていくのがセオリーなんですよ」

「へぇ~、そうなんか、知らなかったぜ!」

「ちょ、兄さん、恥ずかしいからうるさくしないで!」


 マモル君やトミー君、ジーナちゃんなんかは焼肉でテンションが上がっているせいか、マサムネさんに思うところはないらしく、皆揃って興味深げに網の上で焼かれていく牛タンを見ていた。


 実際、ポリーナさんのカスタムショップ・ゴルビーは元々、整備屋だったという事もあって戦闘後には損傷した機体を整備してくれて、その後の評価試験も無事に滞りなく終了していた。


 それにプレイヤーである私や中山さんはおろか、その担当AIであるマモル君たちにも怪我1つなく、マサムネさんの敵対をいつまでも非難するというのも違う気がする。


 ここはVRゲームの中とはいえ滅多にこれない高級焼肉店を楽しむ事としよう。


 ここ「JOJO苑」は現実世界にある有名焼肉店とのコラボショップという事もあり、私が高一の頃に部活帰りにたまに部活仲間と食べに行っていた「スタミナ二郎」とは肉質が天と地の差だ。


 なにせ90分1,980円の食べ放題の店で出されているのがまるで紅白幕かと思うほどに赤みと脂身がハッキリと分かれたものなのに対し、ここで出てくる肉はカルビだろうがロースだろうが、脂が入りにくいとされるモモ肉であろうがキメ細やかなサシの入った上等な黒毛和牛なのである。


 当然、その分、値段もトンデモないくらいに高く、ペラい肉が数切れ乗った1皿が現実世界なら5,000円以上。


 だが、それもゲームの世界なら手軽に味わう事ができるのだ。


 そりゃもちろん提携先のブランドイメージというものもあってかゲームの世界にあっても高いものは高い。

 だが、それは例えば先のミッションの前にマモル君にゴキゲンを直してもらうために連れて行った回転寿司などの店に比べればの話。


 だがこのゲームのプレイヤーは傭兵なのだ。

 それも人型機動兵器を駆って戦う傭兵である。

 人型機動兵器とその武装を買い揃え、運用する傭兵の懐事情から考えればいくら高くても結局はただの飲食店。

 その程度のものだ。


 さすがにかつて初期配布のライフルを使っていた頃に購入した予備弾倉1つと上カルビ1皿が同じ値段だというのはちょっとどうかと思うが、それも奢りだというのなら気にする必要など一切無し。

 食えるだけ食ってやろう。


「おい! マモルぅ、この白コロってヤツ、めっちゃ脂のっててウメェぞ!?」

「あわわ! ひ、火が上がりましたよ!?」

「はいはい。こういう時は網を氷で撫でて火を消すんですよ。ジーナちゃんもテッチャン噛み切れないなら紙ナプキンにペーしてカルビでも食べなさい」

「あ、私、さっきのイチボとかまた食べたいです」

「それじゃ、もう1皿頼みますか。妹さんは?」


 味方に戻ったマサムネさんは年少組相手の保父さんというか鍋奉行ならぬ焼肉奉行といった風情で、やさしく子供たちの世話をしているイケメンを見ていると心が安らぐ。


 安らぐのだが、子供たちの相手をしながらもしなだれかかる姉を適当にあしらい、それでいて姉の微アル飲料のグラスに付いた水滴をおしぼりで拭いたりとよく見るとせわしなく動き続けている事に気付いた。


「……あ、それじゃ生ユッケ3つお願いします」

「え、同じの3つですか?」

「ええ、現実じゃ生ユッケとか食べられないんで」


 ジーナちゃんと私のリクエストをマサムネさんは端末を使って頼むと、ジーナちゃんの小皿のタレが少なくなっているのを見つけて追加してやり、子供たちがあまりサラダを食べていないのを見てか大皿のサラダを全て姉の前へと置く。


「ふぁっ!? マサムネ君! 私、これじゃ肉が食えないっス!?」


 その様子を見て思わず私はクスリと笑っていた。

 やはり味方としてのマサムネさんとなら上手くやっていけそうだ。

 また敵に回ったなら、その時もまたボコってやればいいだけ。


「そういえば中山さんは食べてる?」

「え、ええ」


 ふと箸が進んでいない様子の中山さんが気になって声をかけるも彼女はアイスコーヒーを片手に溜め息をつく。


「この後はどうする? もう1つくらいミッションに行く?」

「あ、いえ、さすがにちょっと機体と武装の構成を考えたいので今日の所はお食事が終わったら失礼させて頂きますわ」


 なるほど、さすがに前回の難民キャンプでの戦闘に、今回の対マサムネさんとの戦闘で中山さんたちの小隊はあまり活躍ができなかったためにそれで少し考え込んでいたというわけか。

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