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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第2.5章 サンクチュアリの子供たち
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7 感性

 陽炎が大型機用ハンガーに駐機するように指示されると私にはその向かいのハンガーが割り当てられる。


「推進剤の補充を頼む。それからパイドパイパーの方は脚部の関節に泥が詰まってるかもしれんから念入りに洗浄をしてくれ!」


 通信機越しにマーカスが整備員に指示を飛ばしているのが聞こえてくる。

一方の私はこの施設の重々しい雰囲気に飲まれてなんとも言う事ができなかった。


「了解です!」

「それから垂直発射機(VLS)が1基空いているんだが、コイツに適合するミサイルの在庫はあるか? あるならHuMo用の物を頼む」

「ランク7の高速タイプはどうです?」

「おお、それで頼む!」


 マーカスは偵察用のドローンを搭載していたランチャーにもミサイルを搭載するように指示を出していた。

 例の施設を嗅ぎまわっているらしき不審者を警戒しているのだろうか?


 とりあえず私も指示されるがままにハンガーに機体を停めるとサブディスプレーに推進剤吸入口のカバーが開けられた事が表示され、すぐに推進剤の供給が始まった事が通知された。


「それなら今、ランチャーに入ってるのをいくらか同型の高速ミサイルと換装してしまいましょう!」

「それは良いな! ……サブちゃん、それじゃ降りようか?」

「お、おう……」


 コックピットハッチを開けるとすでに可動式タラップが用意されていて私たちは機体を降りる。


「お~~~いッ!!」


 キャタピラーたちには自分たち専用の駐機場所があるのか、3人は小型のタグカーに乗ってこちらにやってきた。


 私たちも自分たちの機体に取り付いた整備員たちに会釈をしてからそちらに向かっていく。


「やあ! こうして会うのは初めましてだね?」

「いや~、実はわ~はこないだはマーカスさんが来た時には機体を壊して地下に降りてたさ~!」

「おっさん、後で陽炎を見せてくれよ!」

「……そんな事、後になさいよ」


 面と向かって生身で会うのは初めてというマーカスに対し、人懐っこい笑顔の少年は実はこないだは同じ難民キャンプにはいたが会ってはいないという事を顔を恥ずかしそうにして述べる少年。


 そしてまともに挨拶もしていないというのに陽炎が気になってしょうがないという様子の背の低い少年と、それを嗜めるスラリとした美少女。


「声からすると君がキャタピラー君で、君がパス太君。で、君がパオング君だね?」


 人懐っこい顔のキャタピラーは昨日と同じく短パンにTシャツという軽装。

 地黒のキャタピラーに比べて色白の背の低い少年は私たちに対して笑顔を向けながらもちょいちょいと視線は私たちの後ろの陽炎へと向けられている。

 そして冷めた印象の美少女は私たちに対して大人を値踏みするような視線を向けてきていた。


「……となると、キャタピラー君はリアルじゃ両手両足が無くてイモ虫(キャタピラー)状態。いや、それだけじゃ()()には入れないか……、内蔵も悪いのかい?」

「そっ! 蛹になる前の芋虫みたいに内蔵までグズグズさ~!」

「マ、マ、マ、マーカスさん!? お前、一体、何を!?」


 自分の担当がいきなり切り出した話の内容に私は面食らってしまうが、何故かマーカスもキャタピラーも揃ってニタリとした同種の笑いを浮かべていた。

 そしてマーカスの失礼すぎる言葉はさらに続く。


「となるとパス太君は『スパゲティ・シンドローム』、パオング君はリアルじゃ両脚が無くて、こっちじゃ脚が付いてパーフェクトってところかい?」

「おおっ! すっげぇぇぇ! 俺の方は大当たり!!」

「でも私の方は惜しいわね。ここじゃ無いハズの脚があってパーフェクトってのは合ってるけど、現実(リアル)じゃ今はもう首から下の感覚が無いのよね。そこまで当ててくれれば完璧だったのだけれど」


 何かのクイズをやっているかのように嬉しそうな顔のパス太と、対照的に心底から悔しそうな顔をするマーカス。

パオングも言葉とは裏腹にまんざらではなさそうな顔だ。


「あちゃ~! そうか、“首から上だけ”かぁ! もう少し掘り下げて考えてればなぁ……」

「ふふ、昔は『脚なんて飾りです、エラい人にはそれが分からんのですよ!』なんて言っていたのだけどね……」

「ぶふッッッ!?」


 私には何の事だか分からないが、パオングがモノマネなのか何かのセリフを言うとマーカスは堪えきれずに盛大に吹き出してしまう。


 私としては自分の担当が他のプレイヤーに対してハラスメントスレスレ、いや他の人が見たならば間違いなく言い逃れようのない嫌がらせ(ハラスメント)発言をしているわけで内心ながら冷や冷やさせられていたのだが、当のマーカスも3人の少年少女たちも笑顔で互いを認め合うような顔である。


「ちょ、も、もう止めてくれ! 俺はそういうブラックなユーモアが大好物でな。あ~、腹が痛い……」

「マーカスさんも良くわ~たちのハンドルネームのブラックジョークに気付いたさ~!」

「そんな大人、初めてだよ! 大概の大人は俺たちに言われてから顔を顰めるか、腫れ物を触るような扱いになるのにな!」

「そ、貴方の補助AIみたいにね」


 どうやら3人は自分たちの境遇はさておき、腫れ物扱いというのは好みではないよう。


 現にパオングはマーカスに対して自分たちのユーモアセンスを理解する大人としてある程度だが認めたような表情を向けているが、私に向けられた視線はいくらか冷たさの籠ったものであった。


 どうやら彼女の値踏みの結果、キワどい発現で顔を青くしていただけの私はマーカスとは違い「詰まらない大人」の側として振り分けられてしまったようだ。


「おいおい、ウチのサブちゃんを舐めてると火傷しちゃうぞ?」

「そうかしら?」

「俺もこないだサブちゃんにそそのかされてトンデモない事しちゃってな……」

「おい待て、それはおかしい!」


 天真爛漫というか、子供らしいキャタピラーやパス太とは違いクールそうなパオングも自分が認めた大人に対しては素直であるのか、マーカスの取りなしでいくらか私に向けられる視線も和らいだものとなる。


「ま、いいわ。そういう事にしておきましょう」

「それよりこんなトコでしゃべっててもアレだし、中でコーヒーでも飲みにいくさ~!」

「え~、陽炎を!」

「後になさい」


 キャタピラーが顎で示してみせた先には鋼鉄製のドアと、そのすぐ近くにはコンクリート製の壁に付けられた窓から漏れる柔らかい室内の灯り。


 陽炎に対して未練たらたらのパス太ではあったが、それでも私たちへの興味もあったのか移動を始めた私たちに付いてくる。


 それにしても……。


「国立沖縄特定指定小児医療センター」という物々しい医療施設の名から受ける印象に、国の機関をも巻き込んだこのゲーム内施設が作られているという事実から薄々ながら思っていたのだが、マーカスの言葉でハッキリとさせられた。


 キャタピラーたち3人のようにこの施設にいる子供たちは程度の差こそ多少なりともあるのだろうが、皆揃っていわゆる難病と呼ばれるような病を抱えている子供たちなのだろう。


 ここの子供たちはライオネスのようなプレイヤーたちのように娯楽のためにこの仮想現実の世界へと来ているのではない。


 彼らはその身を苛む苦痛から逃れるために仮想現実の世界に居場所を求めてきたのであり、一般のプレイヤーとは異なる境遇の彼らの拠点として用意されたのがこの「VR療養所」であったのだ。


 そのような場所であるので他のプレイヤーが訪れるような事のない高山地域にひっそりと作られ、それでいて低い気温や薄い大気とは無縁の快適な環境が用意されていたというわけだ。


 格納庫から屋内へと続く鋼鉄製の防火扉をくぐる前、ふと私は格納庫内を振り返ってみる。


 そこには広大な格納庫内に整然と並べられた100以上のHuMoがあった。


 どのような理由でこの仮想現実の世界にいるかはさておき、ここの子供たちもこのゲームのプレイヤーならとそれぞれに機体が用意されているのならば、これらの機体群の数に近しいだけの子供たちがここに入所しているという事になる。


 この施設の存在理由を知る前はただ想像以上の数と格納庫の広さに気圧されていたのが、今はただ現実世界で苦しんでいる子供たちの存在を突き付けられたようで身が震えるほどに圧倒されていた。


「……サブちゃん、どうしたの?」


 整備作業のために天井に吊るされた数多の水銀灯は煌煌と輝き格納庫内は十分な明るさがあるのだが、私は立ち並ぶ無数のHuMoたちに妙な重苦しさを感じると同時に、背後から差し込む屋内の灯りと優しくかけられる声に柔らかさと温かさを感じてホッとする。


「なんでもないよ。ただ……」

「ただ?」

「この立ち並ぶHuMoたちがなんだが墓標みたいに感じられてさ」


 特に考えたわけでもない、思ったままを言った私の声で先に屋内に入っていた四人は揃って吹き出していた。

 別に冗談のつもりはないし、冗談だとしたら随分と不謹慎な言葉だと思うのだが……。


「確かに貴方の補助AIはイカれてイカした性格しているようね!」


 本当にそんなつもりはなかったのだが、振り返るとブラックユーモア愛好家たちの優しい視線がそこにあった。

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