97話 夜が明けて①
数日後の検査では、軽い外出なら大丈夫との事だった。
まだ縫った跡は派手に目立つが、触っても痛みなどは無い。その跡も今は包帯で隠されている。
サイドテーブルに置かれた「現出の輪」を装着し、左腕を意識する。瞬く間に魔力が左腕を模るが、やはり違和感は抜けない。
その日やった事は、ふんわりとしてた。
特に明確な目的も無く、気付けば普段寄っていた所を巡っていた。
屋台で軽食をとりながら、ベンチで大通りの人通りを眺め。食べ慣れた味、いつもの平穏。
気が緩み、時折左腕が義手なのを忘れかけそうなくらいに。
あの戦いも、失った左腕も、実はただの夢だったのではとすら錯覚するくらいに。
…それが一番いい事なんだろうな。
注意喚起の報せくらいは周知されてただろう。だけど気にせずとも、荒事は誰かが解決してくれる。そう思える程平和なのが。
ただ、それは自分が心地よく思える世界とは、違うのだろうな、とも。
事後にはなってしまったが、剣の事で一応鍛冶屋にも行ってみた。
けど、こうなってしまっては実用的な修復は不可能。素材として新たに打ち直すしか活用法が無く、今の状態の「剣」としては、もう役目は果たせないだろう、との事だった。
覚悟していた事ではある。が、いざ宣告されると揺らいでしまう。
冒険者になるきっかけでもあった剣だ、未練は多大にある。
それでもここで決意しないと今後も迷ってしまいそう、と割り切り、金属材として買い取ってもらう事にした。
そんな心境を察し、一部を一部をネームプレートに加工してくれるそうだ。
刻む「名前」はもう決めてある。そうありたいと思う願いも込めた通し名だ。
そして日が低くなってきた頃。
いつの間にか、酒場の前に来ていた。




