93話 白と黒③
エンの魔術の光の中で、記憶が垣間見える。
どこかの山のふもと、木々が生い茂る場所。
ひっそり存在する村、そこでの騒動。
中腹ほどにひっそり存在する、小さな洞穴。
そして、そこを懐かしいと思う気持ち。
見た事の無い土地、街、文化。
そしてあれは、砂漠や海?
景色が次々にうつろい、思い出が共鳴する。
やがて横たわる角塔にたどり着き、事のはじまりの時。
同時に精神世界を終わらせようと、黒い力が辺りを染めようとしてくる。
負けじとエンの青い光が強さを増す。
こちらから干渉できないのがもどかしい。ただ見ている事しかできない。
青を抑え込み断ち切ろうと、黒が圧をかけてくる。だが青も反発、拮抗する。
そこに白い光も加わり、均衡が崩れる。
白と青のグラデーションの光が侵入を拒み、黒が諦めたかのように引いていく。
光が鎮まり、正常な視界が戻ってくる。
相変わらず息苦しい程の魔力濃度ではあるが、黒いもやは見当たらない。
エンの目論見は成功か否か。いい方向に行ってればいいが。
「ぐ……ッ!」
集中が切れ、まともな感覚が戻ってくる。炎の流出が止まらない。左腕が焼ける痛みが、余す所なく伝わる。
外そうにも腕輪も熱を持ち、まともに触れる事すらできない。激痛で目がかすみ、思考がにぶる。
どうにか炎として魔力を放出しながら、せめてもの現状把握を……。
天井の窓から下りてきて、何か指示を出してる。
言い争いの様子は無い。知ってる人?
その人の指示だろう。ラディが駆け寄ってきて、自分の腕を抱える。
ラディ冷たさのお陰で、多少ながら苦痛が和らぐ。
右手で触れてみて、左腕が氷に覆われている事に気付いた。
左腕はもう、熱さも冷たさも感じとってはいなかった。




