61話 試験案内⑥
その後、ラディの調子はずっと沈んでいた。
戻り道で軽く戦果の回収はしたが、そこでもラディ抜きの戦いであった。
見た目にはいつも通りだったのだが、どうにもいつものテンションが無い。
酒場でも最低限の言葉しか交わさず、終始物静かだった。
エンを避けてる? それとも場所の問題?
「…ラディ、大丈夫か?」
相変わらず表情は沈んでいるが、絞り出すように返答する。
「その…昼はごめんなさい。」
「そう思うんなら、明日エンにも忘れずにね。」
「…はいです。」
今にも消えてしまいそうな、覇気の無い声。
できればゆっくり自己解決させてやりたいが、悠長に構えていられる場合でもない。
「一体どうしたんだ?
何か問題でもあったなら言ってほしい。」
「いえ、ただ、たたかう時にハルドレーンさんが見てるというのをおもいだして。
もしもこうげきを止めきれず、ばれてしまったらと思うと……。」
そうか、上り調子で失念してしまっていた。ラディの正体を隠す必要があるのは、ハルドレーンさんに対しても同じ事だ。
いつものように攻め込んで水状態で無力化して、といった芸当は完全にアウトだ。
「…なるほど……。」
「あの目…まえに街で銀鞭さんに向けられた、イヤなものを見る目を思いだしちゃって…もしもハルドレーンさんにそう見られてしまったらと思ったら……。」
「けどハルドレーンさんなら、そういうとこ寛容だと思うけど。」
「たぶん、大丈夫だとは思います。
でも、ハルドレーンさんの全てを知ってる訳じゃない、絶対かは分からない。
『もしかしたら』のことを考えると、こわくなって……。」
その恐怖を、否定することはできなかった。
「…分かった。ばれないような対策を何か考えよう。」
反射的に答えてしまったが、実現できる自信までは付いてはこなかった。




