56話 試験案内①
翌日、酒場の席。
テーブルの上に見慣れない書が「見ておいて」と言いたげに置かれていた。
「エン、これは?」
席につきながら、とりあえず訊く。
「銀板級試験の案内書類よ。
まだ重要な事は書かれてないけど、一応目を通しておいて。」
「なるほどぎんば……えっ?」
「前から依頼回しの戦果から評価は高くて、昨日の一件を機にって話らしいよ。」
まだ無縁だと思ってた言葉に、思考が追い付かなかった。
「ぎんばんになると、何ができるのです?」
書類を読む傍ら、ラディの質問にエンが答える。
「形式的な所では、探索認可エリアの拡大、それに伴う受けれる依頼ランクの上昇、および報酬額の増加。
尤も、現状でも行ける最奥には全然達してないから、仮に今銀板級になっても実質的な昇格はまだまだ先ね。」
とりあえずは名前だけの銀板級。それだけでももっと遠い話か、あるいは届く事の無い話だと思っていた。
これはチャンスでもあるが、試験といえど絶対の安全を確保して行うものではない。相応のリスクも考えに入れておかなければならない。
「それにしても1ヶ月も経たずに、そんな話って来るものなの?」
その軽い疑問に、エンが答える。
「他のとこで功績ある冒険者が移住する事もあるからね、規律上は銀板級試験を受ける条件は軽いの。
加えて今ギルドは戦力を求めてるから、こうして案内書が来たんだと思う。」
「戦力を? 現状で足りてないのか?」
「このところ、手傷を負って戻ってきてる人、多いでしょ?」
以前のハルドレーンさんとの話から、ちょっとずつ他の冒険者の様子も見るようにはなっていた。
それより前との比較までは分からないが、確かに今も包帯で傷を隠してる人は少なからずいる。
「魔力濃度が前よりも上がってきてるらしいの。
このまま進めば、銅板級の活動エリアの縮小もあるかもね。」
「その魔力の元凶っていうのは、特定できてないの?」
「それも並行して行われてるけど…どうにも魔力の大本が古代遺跡にいるせいで、魔力が歪んで難航してるらしいの。
…現状維持のラインが上がるのに、戦力が追い付いていない。そんなジリ貧が、現状よ。」
「でもそんな話、全然聞いたこと……。」
「表沙汰にできないのよ。『観光街に正体不明の脅威』、だなんて曖昧な情報は憶測の連鎖に繋がり混乱に至る。
できれば水面下である内に片付けたい、それが街としての方針だって。だからこの話も関係者や冒険者コミュニティの中で留められてる。」
その悠長な構え方には思う所があったが、状況には納得が行った。
「すぐに返答を、なんて急かす事はしないけど、とりあえず考えておいて。」




