54話 日常の中に④
夜。宿に戻っても、ラディは姿を崩さずにいた。
よほど野次馬の視線が印象に焼き付いてしまったのだろう。
窓から外を眺めるラディの表情からは、やはり何を思っているか読み取り辛い。
「…セイルさん。」
静寂を破り、ラディが話を切り出す。
「どうした?」
「セイルさんは、魔物はこわいですか?」
「いや…そうでもないな。
もちろん怖いと思う魔物もいるけど、魔物全部がそうとは思わない。」
「でも、ほとんどの人はそうではない、のですよね?」
「だろうね。『魔物は危険な存在』、という認識の上に。」
「なぜ、きけんかどうか分からないのに、きめつけるのでしょうか?」
一息の間を開け、自分なりに答える。
「これは僕の考え方なんだけど、怖いものの大体は『未知への恐怖』だと思うんだよ。」
「みち?」
「『よく分からないものは怖い』って事。
何を考えてるか分からないから怖い、何をするか分からないから怖い。
その延長線上に、危険かもしれないから、襲ってくるかもしれないから怖い。
…だから魔物に触れる事の無い人たちは、全ての魔物は脅威である、そう感じるんだろうなって。」
「……なるほど?」
「『冒険者』だって昔の名残りでそう呼ばれてるだけで、その実態は魔物…未知の脅威から、見知った街を守る組織でしかないし。」
ラディの長い思考時間。つい思ってる事そのまま並べてしまったが、理解できたのだろうか?
「でも、セイルさんはそうではなかった、と。」
「まぁ、ね。元々家の関係で、魔物使いの人を見かける事も多かったし。
脅威としての面も、そうでない面も、両方触れてきたから、『魔物は怖いもの』とは思わない。
…それはそれとして怖い魔物もいるけどね。」
再びの長い思考。
流石にもっと要約すべきだったな、と反省し付け足す。
「要するに、僕は『いい魔物もいる』って知ってるから、全部の魔物が怖いとは思わない。って事だ。」
「じゃあ、せかいじゅうが『ラディ』の事を知れば、魔物とばれても大丈夫です?」
「…解決の助けには、なるだろうね。」
かなり困難な道にはなるだろうけど、全くあり得ない話ではない。
竜だって昔は魔物とされて敵対関係だったが、今や共存関係として名立たる竜も少なくない。
「…決めました。
セイルさんと一緒に冒険をして、一緒に名をあげる。それで、ラディの事をせかいに知ってもらう。
それが、冒険のもくひょうです。」
…いつの間にか、話が大分大きくなってしまった。
実力不足を目の当たりにした今、約束の返事をする事はできなかった。




