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4話 奇妙な「それ」③

 場所を変え、少しだけ見通しのいい場所。

 水を飲みつつ、状況と思考を整理する。


 さっき大熊の爪に引き裂かれたように見えた子は、何事も無かったように辺りの薬草を採取している。

 手持ちの布袋に詰め込んでる。売って金にするのか、それとも何かに使うのか?

「さっきのアレって、魔術だよな?」

 2人居て静寂もさみしくなり、一番気になってた事を聞いてみる。

「まじゅつ? そんなの、つかってないのです。」

「じゃあ、さっき水になってたのは一体?」

 肉体変化の魔術の実例は聞いた事あれど、どれも大がかりな術式が必要で戦闘中にできるような事ではない。ましてや他の生物に変化させるならともかく、水とかいう非生物に変化させるなんて聞いた事が無い。

 もしそんな魔術の使い手ならと思いはしたが、様子からして無意識の魔術という線も薄そうだ。

 何より、さっき触れた手の温度が川の水のそれだった。

「わからない、です。」

「じゃあ、誰かにそういう術をかけられたとか?」

「それも、わからないです。むかしのことは、おぼえてないのです。」

「そっか…ごめん。」

 興味が踏み込み過ぎて不可侵に振れた気がして、少し言葉に詰まる。気にしてない様子ではあるが、気持ちを読み取り辛い。


 とはいえ興味はまだ止まらない。魔術じゃないと仮定して、元からそういう存在だったとして。

 人に擬態してる魔物、という線もある。そういった知能的な魔物のほとんどは危険視され討伐対象だが、魔物使いの主従関係で共生したり、対話できる程のも少数ながら見た事がある。

 水に関する魔物というと、メジャーな所はスライムかウンディーネだろうが、ウンディーネは水というよりも湖という土地に憑く存在、こんな場所に居たりはしない。

 とはいえスライムとして見るにも、擬態能力を有していたり強酸じゃなかったりと疑問は残るが、とりあえず突然変異したスライムとして見る事にした。

 酸の無いスライムがどう生きるとか奇妙な点はあるが、一旦区切らないと思考のキリがない。




「それで…えっと、名前、なんていうの?」

 興味に引っ張られて、忘れていた。まだ名前も聞いてなかった事を。

「名前…えっと……。」

「それも、思い出せない感じ?」

 一旦の付き合いとはいえ、呼び名が無いのはなにかと不便。そう思って仮の名を考え始めた所で、絞り出されたような小さな言葉。

「……らでぃ?」

「それが、名前?」

「わからないです。でも、それくらいしか思い出せないです…。」

 僅かだけどそいつ自身が思い出した言葉、自分が思い付きで呼ぶ名よりよっぽどいいだろう。

「じゃあ『ラディ』って、レミレニアに住んでるの?」

 伝わる事を願いつつ、仮の呼び名で言う。

 もしレミレニア住みなら、目的地だしで丁度いい。

「…たぶん?」

「そっか。じゃあ良かったらなんだけどさ。帰るまで一緒に行動しない?

 荷物持つくらいなら、手伝うからさ。」

「いいんですか?」

「うん。俺としてもその方が心強いしさ。」

 正直、あの大熊を見た後だと単独行動に不安が付き纏う。森を抜けるのが遅くなるであろう事を込みでも、一緒の方が安全だろう。主に俺が。

「ありがとうです! えっと…」

「俺はセイル、よろしくな。」

「はい! よろしくおねがいします!」


 何より、魔術にせよそういう生物にせよ、「変わったもの」に興味が止まらなかった。

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