35話 討伐依頼⑤
「え…あの短剣、飛ばしてあの威力なの…?」
酒場、珍しく揺れるエンの声。対するラディの声はいつも通り抑揚薄く。
「はいです。ゆみのほんで見たのを、まねてみました。」
「見た…だけ?」
「はい。ためすのは初めてでした。」
なんとなく、エンと思考が重なった気がした。
誤射が起こらなくてよかった、と。
しかし、さっき短剣の状態を確認したが、既に刃に欠けが見えた。おそらく骨に当たった箇所だろう。
まだ用途に支障をきたす程ではない。しかし初回でこれだ。使い物にならなくなるのも本来の数倍早いだろう。
深々と刺さるせいで全体が血まみれになるのも、金属的によろしくない。
ラディ自身で洗ってくれればまだ…と一瞬思ったが、ラディの中にどす黒い血が溜まっていくのは、ちょっと耐えられそうにはない。
…泥や砂ぼこりにも触れまくってるだろうに、あの透明度を保ってるという事は、異物の排出に関しては平気なのだろうか。
ともあれ、短剣をこのまま実用していくとしたら、消耗品としてという事になる。
流石に使いすぎて稼ぎ分が無くなる…なんて事はないだろうが、仮にも刃を長いこと使ってきた身としては、ちょっと抵抗感はある。
…とりあえず、今度研ぎ方くらいは教えておくか。
「それはそうと、濃い魔力への適性…ちょっと対策は考えた方がいいわね。」
閑話休題、エンから事を切り出す。
「いや、今日のくらいなら平気だったし、大丈夫。
何度か行って慣らせば何の問題も──」
「大体そう言うのよ、事故起こす人って。…魔力疲労って、自分じゃ分かりづらいものなの。
私がいつもより少し遅めに歩いてたのも、気付いてなかったんじゃない?」
「…!」
慌てて今日の道中を思い返す。
歩きに違和感…? そんなもの、感じてたら印象として残ってるはずだ。
だが覚えてる限りそんなものは……。
「まぁ実際、回数行って慣らすのも手段の1つではあるわね。
けど、急げば危険だし、安全を取ると時間がかかりすぎる手段。」
「じゃあどうするっていうのさ。」
「手っ取り早い方法だと、魔法道具に頼る手ね。ちょっと高くつくかもしれないけど、即効性は一番ね。」
「道具でどうにかなるようなものなのか?」
「ちょっと裏技じみた使い方にはなるけどね。
検討するなら明日は依頼は休止して、見にいってみる? ついでに戦力として有用なのもあるだろうし。」
…魔法道具、戦力として当然無視できるものではない。
しかし物理的な武器と比べ物にならないほど高価、気軽に手が出せるものではなかった。それを手引きしてくれるのはありがたい話である。
…が、
「別に一日丸々使わなくてもよくない? 午前の内に買い物済ませて、午後から依頼にとりかかっても。」
「結構残るものなのよ、魔力疲労って。加えてさっきの通りの気付きにくさ。
…くだらないように見えて、新人冒険者が深手を負う事故の大半は、これが原因という情報もあるほど。」
「…うぐぅ。」
納得はする。が、新天地で浮足立つ流れにはもどかしい足止め。
「とにかく、慎重に越した事はないし、明日は物の調達に専念する。いいね?」
「…分かった。」




