189話 情報取引①
おそらく翌朝。
地下に窓なんてある訳もなく、部屋の中だと時間を知るすべが無い。
とりあえず明かりをつける。しかし光が弱く、部屋の中は薄暗い。
改めて部屋を見ると、通路側への窓すら無い。
眠気を覚ますためにも、とりあえず何かしなきゃ。
伸びをして軽く体をほぐし、外の様子を伺いに行く。
「よう。よく寝れたか?」
柵前の見渡しいい場所に、先客あり。昨日途方に暮れていた時に声をかけてくれた、ここら一帯の貸し宿の管理人さんだ。
人型ではあるが、青灰色の毛皮の狼のような風貌、背も高め。加えて響くような低い声の威圧感は、初対面の時は反射的に身構えてしまった。
今も大丈夫だろうとは分かっていても、警戒の意識を解くのが難しいくらい。
「はい、昨日はありがとうございました。」
「ま、それが主な稼ぎだからな。こっちこそ『まいどあり』、だ。」
「主な…って他にも何か?」
それに対し、真下を指さしながらの返答。
「この下にある遊技場、そこの運営やってんだよ。」
「遊技場…ってギャンブルの胴元を?」
「つっても、そっちは稼ぎよりも趣味だがな。ちぃとばかし場代だけは貰うが、それくらいだ。
こんなとこで話すだけもなんだ。折角だ、興味あんならついてきな。」
階段を降り、丁度さっき指さしていた真下。
施錠された扉を開け、スイッチで照明が一斉につく。
そして奥から取り出されたのは、木製のコップと1枚の銅貨だ。
「物は色々揃えちゃいるが、最初はシンプルに、そいで回数回しやすい、こいつがいい。」
「それで何を?」
「よくあるコイントス…に東洋風の演出を加えたもんだ。」
コインをコップに投げ込み、近くの小卓に伏せるように置く。
「掛け金は情報だ。お前らは路地裏の事知りてぇだろうし、俺は暇つぶしに上の情報が欲しい。
昨日は聞きそびれちまったからな、かけて名乗りな。それが場代代わりだ。」
「名はセイル。その挑戦、受けます。」