185話 表裏ある街シント①
下ろされた場所は、どこか黒い場所だった。
担いできた鈍色仮面の持つランプだけが光源。奥は見えないが、暗い通路のようだ。
先に持ち直したラディに手を引かれ、立ち上がる。
鈍色仮面が「ついてこい」といった雰囲気で先に向かい、それに従う。
「なんの真似だ?」
前例から回答は期待できないが、少しでも反応を見れれば。
「…ルールに従ったまでだ。」
意外にも素直な返答。女性の声だ。
なるべく話したくはない、そういった感情が語調から感じられる。
ならばと回りくどい事は考えず、ストレートに。
「ここはどこなんだ?」
「…順に説明する。」
仕方なく、といった様子で言葉を続ける。
「ここはシントの地下。行方を晦ました鈍色仮面を見た事があるだろ、その行き先だ。」
肝心な所を避けられる。既に聞きたい事がいくつも浮かぶが、そこは答えるつもりはないのだろう。
「ここは外での活躍が困難な者、そいつらの集まりだ。
そこの…よく分からない液体生物と同じようにな。」
「どういう事だ?」
鈍色仮面が呆れたように、質問を返す。
「…『四種族』の事は、さすがに知ってるよな?」
「あぁ、徒人・森人・猫人・竜人の事だろ、そこら辺のシントでの事情も聞いた。」
「じゃあ『それ以外』は?」
…考えた事も無かった。
ラディのように紛れたり、そうでなくても意思疎通のできる魔物がいる可能性を。
「けど、ラディの事なら隠し通せばそんな──」
「あいつに…ミツキにバレた時点で終いなんだよ。元英傑だろうとなんだろうと、お前らはもう英傑からすれば敵対側だ。
あいつらは『そういう奴ら』には容赦しない。だからこの場所がある。」
通路の出口が見え、開けた場所に出る。
数多の柱と階段。上にも空間があるようだが、今回は下りの階段へ。
その先には、更に開けた空間。というか、この様相には見覚えがある。
まるでレミレニアの遺跡「横たわる角塔」のように、岩のような内壁、アンバランスな歪んだ空間。ここも似た存在だろうか。
縦横共に異様なまでに広いそこからは、左右で2本の通路のような場所が伸びている。
「便宜上、そして外から存在を隠す為にも、この場所はこう呼んでいる。
『路地裏』と。」