181話 遊撃⑧
最初の速度の付け方は、ニッグさんの話が参考になった。
風術の代わりに、翼の下の空間に魔力を溜め、爆発させる。
強引なやり方だが、威力は十分。加速と共に、一気に飛翔する。
初速が落ち着き、一度状況確認。
速度はまだ十分。標的のヒュージ・フラベラより少し速い。
だけど高度がまだ足りない。数度羽ばたく。
背中から引き上げられる不慣れな感覚に、体勢を崩しかける。
もっと概念的に、抽象的に飛ぶイメージをする。
それを現出の輪が拾ってくれたのか、どうにか安定する。
その頃には既に上を取っていた。滑空に入り、再び加速する。
そして顔の付近まで到達。
こうして見ると、3階建てよりさらに少し高い印象。
なんて見惚れてる猶予は無い。さっさと事に移る。
抱えてきた砲弾2発を放り投げる。すかさず離れながら、そこに右手から火球。
着弾と共に、火薬が爆発。衝撃を翼でガードする。それでもかなりの衝撃に、吹き飛ばされる。
数秒後、本命の閃光。同時に咆哮の轟音。
元の光源が強すぎる。視界が光に包まれる。
だけど確かな反応はあった。
あとは着地さえすれば……。
…まずい。
翼の感覚が無い。それどころか左腕の感覚も。
どうにも魔石も自分自身も魔力切れらしい。
ついでに閃光のせいか視界がかすむ。音も多分ちゃんと聞こえてはいない。
なにか手は無いかと考えるが、思い浮かぶ訳も無く。
意識も魔力切れで朦朧としてきてる。
そんな状態の中、不意の衝撃。地面には早すぎるしそんな硬さでもない。
考えた所で自分に何ができるでもない、一先ずその状況に身を委ねる事にした。