180話 遊撃⑦
駆け抜ける川沿い、幸いにも見渡す限り邪魔者なし。
お陰で現出の輪へのイメージのみに集中できる。
英傑装具の浮遊感、シントに来るまでのディエルとの空の旅路。
空を駆けるという上層の英傑の想像。
さらに空を舞う英雄の伝記、空より来たる悪魔の歴史。
そういった、あらゆる空への羨望。
そういった漠然としたイメージに、さらに重ねる。
竜の翼の構造は知っていた。昔に読んだ本でだったと思う。
鳥のそれより力強く、自在に飛ぶことができる翼。
その原理は飛膜が魔力を弾くが故に、大気と共に魔力を掴む事。
それをふと思い出した時に、思い当たるところがあった。
現出の左腕の妙な重みも、近いものではないのかと。
加えて実際に飛ぶ所は見てなかったが竜人の翼の構造・力の入り方とかも意識せずとも目にしてきた。
現出の輪が単に物体を模るだけでなく、魔術的なイメージも付与できる事は実証済み。
具体的な形を得たイメージが、現出の輪を経てあふれ出る。
やはり輪郭は曖昧、だけど確かに感じる。
空を掴む、光輝の翼。
標的のはぐれヒュージ・フラベラには既に追い越され、今はこちらが追う形。
単発の砲撃で動じないなら、複数同時に爆発させてやれば、あるいは。
その為にも、まずは接近せねば。
内蔵された魔石の出力に、自分自身の魔力も乗せる。
想いも魔力も全て込め、思いっきり空に向け、地を蹴る。