179話 遊撃⑥
「…ラディさん、追加の弾を、できるだけ、」
不意のニッグさんの声。その語調には、焦りを感じた。
「予定変更か?」
「はい、大砦からの指示で調整作業です。
列が乱れたのを、ここで修正します。」
「…分かった。」
さっき見た、列の乱れの関連だろう。
他の弾の流れからして、砦群の中で端に位置するこの場所。逸れて離れすぎる前に対処しろ、という事か。
少し待って下のラディからの補充。
ニッグさんは1つ装填し、早々に次の照準合わせへ。
とはいえこちらも慣れたもの、合間合間で空の様子を見つつ、作業を間に合わせる。
さっきまでの左の一群から、右にはぐれた1匹に狙いを定めている。
そのさらに右側で爆発するよう撃ち、元の流れに誘導する算段。
流石に狙いは正確。しかし進路を変える様子は見受けられず、そのまま進み続ける。
こうしている内に、群れの先頭はほぼ真横まで接近。
距離感が狂う、圧倒される大きさ。その影で辺り一帯が暗くなる。
上空やや高めにいるとはいえ、シント上層部も丘の高所、そこから更に高く伸びる建物。
進行ルートが直撃したら、惨劇は免れないだろう。
それは、例え1匹だけだとしても。
「どうだ?」
「…だめです。パニックに陥っているのでしょう、全く意に介してませんね。」
何度か驚く様子は見られたが、それでもやはり進行方向は逸れてくれない。
「むしろ群れと逆方向に流す手は無いのか?」
「外れた道から元に戻ろうとする途中で、シントの高所を通る恐れがあります。
以前一度、それで被害を出してしまいそうになりました。」
ここから直には見えないが、前に見た周辺地図を思い返す。
はぐれヒュージ・フラベラの気分次第で要所を通過しそうなのは、容易に想像できた。
「…要は爆発と光で、脅せばいいんだよな?」
「……何か案が?」
「案、と言える程ではないけど、試したい事はある。
補佐を続けろと言われれば従うが、どうする?」
数秒の思考、そしてニッグさんの決心。
「そう、ですね。それが解決に繋がるのなら、お願いします。」
「なら、少し弾を貰うよ。」
そう言い装填を待っていた弾を2つ抱え、砦の外へと駆けだした。