173話 上層②
「以前は、シント上層の中でも中程の、空戦軍養成所に居ました。」
改まり開口一番、そのワードのインパクトは強かった。
「え…軍隊?」
「とはいっても万が一の備えみたいなもので、訓練の合間の活動は雑務ばかりでしたけどね。
ただ、住み込みで外にわざわざ出る事もあまりなかったので、一般的な事はあまり……。」
それが「一応」と添えていた理由か。
「上層といえば下層とは英傑の在り方が違うと聞いてはいるが、実際どうなんだ?」
「逆に下層の英傑の事よく知らないので比較はできません…が、上層の英傑の事なら。
時折ですが、上空を移動するのは見かけましたね。翼を持たないのに、術や道具を巧みに扱い空を自由に駆けるのは、ちょっと羨ましくはありました。特に印象的だったのは──」
「…ニッグさんだって、空を飛べるのでは?」
ラディからの質問。ディエルの事で竜の事は知ってて、竜人の事を知らなければ尤もな事だ。
だけど僕が知る限り、竜人は──
「…『自由』と呼べるほどに飛べるのは、運よく風術を使えるひととか、一部だけなんです。
自分は水術しか扱えないので、前準備が必要になってしまうんですよね。
そうでなくても水術が空戦に不向きなのもあり、そこでの成績は程々止まり──」
そこではっと言葉が立ち止まり、改まる。
「と、話が逸れてしまいましたね、すみません。
そんな中で事があったのは5年前、例のヒュージ・フラベラの初襲来、そして当時まだシントに来て間もなかったミツキさんによる撃退でした。」
「…実はそのその『ミツキ』という人の事もまだよく知らないんだ。彼は一体?」
そこから先のニッグさんの話は、堰を切ったように流れ出て、しばらく止まる事はなかった。
…そうか。憧れたんだな、僕と同じで。
「突如として現れた『光輝の騎士』、その一件をきっかけに一気に最高位騎士まで駆け上がった様は当時話題にあがらない日はありませんでした。
その撃退戦は遠くからながら直に見てて、たった一人で広域に魔術を展開して撃退する様はもう──」