172話 上層①
翌日朝、パーティルームの居間。
未だにやまないラディの好奇の視線が、伸びと共に大きく広げられた翼に釣られて動く。それに気づいたニッグの方から声をかける。
「やはり珍しいですか? 竜人は。」
「はい、今まで知り合った中にはいなかったので。
それに、シントに来てからは全然みませんでしたし。」
思い返せば、確かにシントに来てから他の竜人を見かけた記憶が無い。
いくら数が少ない種族だからといっても、レミレニアでは酒場の馴染みの中にも居たし、街中でも全く見ない日は無かった。多分。
竜人の身体能力なら上位英傑陣に居てもいいだろうに、雑誌のプロフィールリストでも…というかエルフすら……?
「下層だと、まず見かけませんね。自分も上層を出てからは全くですし。」
「ニッグさんって、『じょうそう』にいたのです?」
以前聞いた説明を思い返す。
全体が丘になってるシントを、地理上・内情で分けた区分だ。
「下層」は自分らがいた活動場所、旅の人もたまに見たしおそらく一般的な「シントの街」のイメージだろう。
「上層」はお偉いさんや高名な一族の生活圏。遠くから辛うじて外観を見た事があるだけで、実情までは知らない。
「そう、なりますね。」
含みのある言い方も込みで気になり、会話に入り込む。
「よければ聞かせてくれないか? 『上層』の事。」
「セイルさんには色々聞かせてもらいましたし、構いませんよ。
ただ広く知ってる訳ではないのでなので、ほぼ身の上話になってしまいますが。」
「まぁ、僕からの話もそんなもんだったし。」
「それもそうですね。では、以前の活動の事から。」