171話 代償の穴埋め⑤
試験の後、中庭の一角を借りて色々試してみた。
今は普通の左腕として使っている、「現出の輪」の事。
一つ、物体を現出させるだけでなく、拡張性がある。
具体的には、見かけだけだった「炎の腕」に、熱を帯びさせる事ができた。より鮮明に集中してイメージする事で。
その熱で拾った木の枝を燃やす事はできたから、しっかり扱えれば威力も十分。
そしてあくまで模造である事。自分が扱える属性とは関係なく色々できるだろうが、イメージが弱いと粒子が曖昧な輪郭を形作るのみ。
他にできた事といえば、簡易的な剣を辛うじて作れたくらい。短剣では足りないリーチを確保するのに、使えるかもしれない。
二つ、ある程度内部に魔力が蓄積してる。
この「現出の輪」は主に内蔵した魔石からの魔力で動作している。だけど普段の使い方の消費量より、魔石からの供給量の方が多い。
その過剰分が内部に溜まり、それを使いいくらか大がかりな事もできる。熱を帯びた炎を広範囲に広げたりとか。
だけどあくまで蓄積分のみ。一気に使える上限はあるし、使い切ったら再び最大までは数日かかるだろう。
…という推測に至った理由が、次だ。
三つ、左腕の感覚の鮮明さは蓄積分の影響を受けている。
ある程度の大技を試した後、最初の頃のような左腕の感覚のにぶさを少し感じた。単ににぶい状態に慣れただけだったと思っていたが、どうやら違ったらしい。
ともあれ蓄積残量の指標として、意識はしておこう。
できることの最大がどれほどかも確かめたかったが、今やると活動に支障がでそうだからやめておいた。仕事が一区切りついたら試そう。
うまく扱えればいい戦力にはなるだろうが、有効に扱うにはまだまだだ。