167話 代償の穴埋め①
翌朝、パーティルームの居間。
ラディはまだ寝室らしい。後で起こしに行かなければ。
ニッグさんは既に起きてはいるものの──
「おはよ。…眠そうだけど大丈夫?」
「あ、おはようございま…ふあぁ……。」
大きなあくび、目をこすりながら言葉を続ける。
「恥ずかしながら、お二人がレミレニアの当事者だと思うとそわそわして、中々寝れず……。」
「…当事者とは言っても、そんな大したことなんて──」
「だって『700年振りの魔王の兆し』なんて御伽噺みたいな…その……。」
続く言葉は寝ぼけ頭に飲み込まれ、途切れる。
自分の感覚の内では「友人の手助けをした」くらいの気持ちで、そんな大事に関与した実感は未だに無い。
それ故のこういうギャップの違和感は、どうにも慣れない。
「そういえば、昨日の話でだと左腕って……。」
そうか、昨日は語るだけ語って、見せそびれていたな。
「あぁ、実は今はこうなってるんだ。」
少し集中し、左腕のイメージを一旦消してみる。「現出の輪」により造られていた、左肘から先が光の粒子となって霧散する。
最近は馴染んできて自分でも失念する事すらあるが、あの時の戦いの代償だ。
傷口は大分治ってきてはいるが、自分で言うのもアレだがまだ痛々しい。実際にはもう痛みは無いのだけども。
意識して消失させるのをやめ、再び光の粒子を経て左腕を模る。
「恐らく英傑の白い方の武器と同じ技術を使った物、その試作品だ。」
「あぁ、その武器なら街で何度か見た事あります。グリップだけの状態から展開するやつ、ですよね?」
「そこから進化して、もっと自由に扱えるらしいけど……そういや最近試してはいなかったな。」
ひと段落したところで、ニッグさんが大きなあくびをもう一つ。
「とりあえず、もう少し休んだ方がいいんじゃないか? それとも、そっち側で何か予定入ってるとか?」
「そう…ですね、少々失礼して…何かあったら起こしてください……。」