158話 拠点制圧⑤
今度は先に仕掛けたのはあちらだ。
魔力の縄が切られ、その得物が袖元で光る。
刃のある短剣。こちらの殺傷力を抑えたようなものなどではなく。
反撃を恐れていないかのような接近。
しかしリーチ差の利はこちらにある。落ち着いて対処すれば問題無い。
青紋刀の術式を起動しつつ、一定の距離を保つよう牽制する。
あわよくばで当たってくれれば事は楽だったが、そういう訳にもいかず。
カウンターでの一撃も何度か狙ったが、常に警戒してくるタイプだ、一向に決まりそうにない。
かといって障害物の無い屋上、相手も攻め手に欠く様子。
膠着状態の中、ふと思う。
今なら多少なりとも話ができるのでは、と。
「お前らの目的はなんなんだ!」
やはりというか返事は無く、ただ次の手を打ってくるのみ。
しかし相手の攻撃を受ける感触が変わる。何らかの感情が乗っているのを感じる。怒り?
僅かな違いでしかないが、確かな違い。もう少しいけるか?
「あいつら…あの建物の奴らも仲間なのか? これまで庇ってきた奴らも、仲間だから守るのか?」
相手の攻撃に妙に力がこもる。
推測できる感情は拒絶? これ以上踏み込むなと?
しかしそうなると余計に、というもの。
「そいつらには表で活動させて、自分達はその衣装で身分隠しか?」
刹那、明らかにこれまでと違う一撃。
似た戦術だから分かる、的確に心臓を狙い定めた一振り。
引きつつ弾くが、一際大きい衝突音が響く。
明確な怒り。事情までは推し量れないが、身分を隠している事そのものに何かあるのか?
流石にこれ以上は厳しいか、と思った所に轟く民衆の歓声。
どうやら本拠の方が片付いたらしい。同時に相手が撤退する。
時間を稼がれた? 最初からそういう目的だった?
フェイントを警戒しつつ追うが、既に姿は見えない所まで行っていた。