149話 明るみの影②
「ふぅ、どうにか間に合ったか……。」
催眠の魔術にかかったターゲットを、抱え上げる。
見える所まで到着した頃には、もう路地裏に隠れ込む直前だった。
考える余裕も無く咄嗟に短剣を取り、術式を起動して思いっきりぶん投げて。
結果として無事確保の成功に至る。
しかし祭りの屋台での自分の射撃精度を考えると、取るべきでない択だったかなと後悔。
今回だって無関係な人に当たってしまっていたら、裏目どころの話じゃない。そうなるくらいなら、逃してしまった方がよっぽどマシだ。
ともあれ身柄は確保。あとはいつものように、上に連れていって回収班に任せ──
「あ、あの…!」
戻ろうとした所に、不意を衝く背後からの声。つい足を止めてしまう。
ちらりと様子を見る。猫人の…子供だろうか?
「もしかして『影の英傑』の…?」
まだ聞き慣れない、けど見た事はある名。祭りの為に便宜上付けられた、自分の暫定の公式名称だ。
確かに多少はあえて見つかるように動いてはいた。けどコンタクトを図られる所までは想定してない。
少し考える。これはどう対応するべき?
いや、違うな。どういう対応が望まれている?
何か答えるべき? けど秘匿性との兼ね合いはどうする?
いや、浅い行動はさっき反省したばかりじゃないか。視点を変えよう。
客観的に見て「影の英傑」ならどういう行動に出るか。
そう考えたら答えはすぐに出た。
すぐにその場から去る。自分が思い描く「影の英傑」なら、語るより行動だろう、と。
それに、こちらの動揺がバレる前に。