146話 夏フェス⑦
日が暮れ夕方、赤い空。
英傑達は辺りから引き上げ、祭りは夜の部へ。
屋台も撤収ムード、フィナーレを飾る舞台が幕を開ける。
塔広場で技のぶつかり合う音、光。暗くなってゆく空に、それらがとても映える。
だけどそこから少し離れ、人の少ない場所で一休み。
特例でまだ灯らない街灯、暗闇に染まっていくベンチで物思いにふける。
騒がしさから離れた静けさと涼しさ。その境目であるこの場所が、程々に心地よい。
祭りが終わりに向かっていく寂しさ、そして……。
「…どうかしました?」
歓声の合間を縫い、ラディが様子をうかがってくる。
「いや、ちょっと考え事をね。気にする程の事じゃないよ。」
「そう言われると、ぎゃくに気になります。」
それはそうか、言い方をしくったかな、と思い眼を反らす。
言うべきかどうか少し迷ったが、納得してもらうには、と素直にいく事にした。
「僕の英傑としてのやり方、さ。もっと他にやれる事は無かったのかなって。」
「…といいますと?」
「例えば、早くに英傑としてのキャラ作りを思いついて英傑活動始めたり、逆にあの時に手を出さずミレースさんの発案を待ったり。
そしたら、今の『謎の英傑』という在り方にはなっていなかった、と思う。」
「それは、そうですね。」
「もしもそうだったら、何かひとつ違ってたら、僕たちもあの舞台に立ってたんだろうなって。
立ち回り方を失敗したから、遠い存在に見えちゃうのかな、って。」
人々を護り、慕われる存在。英傑という存在は、冒険者の時以上に、昔から憧れている「英雄アスレィ」に近く感じる。
それだけに、あと一歩でその地位に居れたかもしれないのに。そう思うと……悔しい。
「でも、セイルさんだって頑張ってるじゃないですか。」
「その頑張りも、正しい方向なのか、分からなくなって。
…ごめん、こんな日に話す事でもなかったね。」
重なる後悔。
だけどラディは静かに。
「ラディは、今のじょうたいも好きですよ。
英傑さんの活躍をすぐ近くで見れる、いいばしょです。」
「……ありがと。」