144話 夏フェス⑤
「もーセイルさんまちましたよ!」
再確認しても約束の時間にはまだ早いが、ラディは既にそこに居た。
「いやでもまだ時間前──」
「ラディは待てても、祭りは待ってくれないんですよ?」
いつになく積極的なラディに手を引かれ、人込みの隙間を抜けていく。
そうして連れてこられた屋台群。
さっきまで居た場所とは様相が変わり、奥行きの深い屋台たち。
品は並べてあるが、どうやら単純に「売る」というものではないらしい。広く取られた屋台の空間、そこに並べられた物や子供を主とした人々の様子、どうやら景品を賭けた遊び場のようだ。
その中でも目的の場所を見つけていたようで、歩みは迷いなく進んでいく。
そして、並びの中の一件の前で足を止める。
「お、いいタイミングで戻ってきたな嬢ちゃん。
丁度待ちが少なくなったとこだ。やってくか?」
「はい、今度こそ。」
プレイ中の人を除き、待ちは2組といったとこか。
景品は変わった木彫りなどの装飾品。待ってる間に眺めてるのを見てか、ラディが解説を挟んでくる。
「ねつけ?という東国のお守りらしいです、あの木彫り。
それが取りたくって。」
なるほどそれで合流するまで……。
だとかそうこう言ってる内に、順番がやってきた。
「嬢ちゃんの方がやるのか?」
「はい、おねがいします。」
…てっきり、僕に取って欲しいからかとばかり。
ラディにおもちゃのボウガンがラディに渡される。模造品といえどゴム仕込みがされており、弾は撃てるようになっている。
「弾は5発、棚から完全に落とせたら獲得だ。
頑張りな!」
すっとボウガンを構えるラディ。その瞬間の表情変化を見逃さなかった。
…完全にガチの目だ。
周りの喧噪など無いかのような静かな集中は、一発で目当ての品を射抜く事すら容易だった。
「や、やるなぁ嬢ちゃん。
ほら、こいつが『報酬』だ。」
あくまで英傑ごっことしての体裁だろう、やや台本がかったセリフと共に木彫り細工が手渡される。
手のひらサイズに満たない小型のアクセサリー。刻印されてるエンブレムは、二つの輪が目立つデザインのものだ。
「ありがとうございます。
それで、その、これをセイルさんに……。」
表情こそまだ読める程にはできてはいないが、言葉の調子には気恥ずかしさが含まれている。
「…いいのか? ラディが欲しかったんじゃ…?」
「だってセイルさんがんばりすぎてて、一緒にいない時間もふえて、前みたいに無茶しそうで不安で。
だから、せめてものあんぜんきがん?というものを。」
ラディ自身、よくは分かっていない様子。だけどそれでも、ラディなりに頑張った結果なのだろう、
「…分かった。有難く貰うとしよう。
じゃあ代わりに、そうだな……。」
少し思案、だが答えはすぐそこにあった。
「残り4発、代わりに僕がやっていいかな?」
「おう、嬢ちゃんがいいなら別に構わないぜ。」
ラディが見守る中、次の弾を手に取りボウガンを構える。